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第五章「告白は二人っきりで!」

22 嵐の前の静けさ

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「そろそろレノ君も帰ってくるでしょうから私は行くわね」
「うん。……あ、そうだ。アシュカは何か言ってた?」

 俺が尋ねれば姉ちゃんは少し考えた後、にこっと笑った。

「それは自分で聞きなさい」
「うっ……わかりました」

 ……アシュカ、怒ってるかな。黙ってたんだから怒ってるよなぁ、謝ったら許してくれるかなぁ。うーん。

 俺はちょっと肩を落として思う。けどそんな俺の頭をぽんっと姉ちゃんは撫でた。

「そんな顔しなくても大丈夫よ。正直に言えば」

 姉ちゃんに励まされ俺はちょっと勇気が出る。

「うん、ありがとう。姉ちゃんがいてくれて良かったよ」
「それはこっちの台詞よ、りっちゃん。……じゃあ、私は行くわね。具合が悪くなったりしたら、すぐに私を呼ぶのよ?」
「わかった。でも俺、もう大丈夫だから」
「そう。けど、あんまりレノ君を心配させないようにね。倒れたりっちゃんを死にそうな顔で見つめてたんだから」

 姉ちゃんに言われて俺はちょっと驚く。目が覚めた時にレノはそんな顔を見せなかったから。

 ……死にそうな顔って。そりゃ心配してたけど、レノ……そんな顔してたのか?

 なんだか申し訳ないような、嬉しいような気持ちが入り混じる。

「じゃあ、また明日ね。りっちゃん」
「あ、うん。また明日」

 姉ちゃんに言われて俺は返事をする。でも姉ちゃんがドアの前まで行った時、俺は姉ちゃんに声をかけた。

「あ、姉ちゃん!」
「ん? どうしたの?」

 姉ちゃんは振り返って俺に尋ねる。でも俺は聞くべきか悩んで、やっぱり聞くことを止めた。

「あ、いや……そ、そうだ。約束を守ったんだから、あの本はちゃんと頂戴ね!」
「わかってるわよ。明日、持ってくるわ」
「よろしく!」

 俺が頼むと姉ちゃんは頷いて、部屋を出て行った。それを見送り、俺はハァーと息を吐く。

「やっぱり聞けねーよなぁ。前世でどうやって死んだのかって」

 俺は頭を抱えて一人呟いた。
 俺は前世の事は覚えていても、どうやって死んだかは覚えていなかった。だから姉ちゃんに聞こうかと思ったがやっぱり怖くて聞けなかった。

 ……だってどうやって死んだか聞いて、痛そうなのだったらやだもん! それに姉ちゃんも覚えてないかもしれないし……。まあ、世の中には知らない方がいいこともあるからな。うん、そっとしとこう。

 俺は一人、心の中で呟く。しかしそこへドアが開いた。
 視線を向ければ、レノがカートを押して戻ってきて、いい匂いがすぐさま漂ってくる。おかげで俺の胃がすぐに反応してキュウッと鳴った。

「お待たせしました、食事をお持ちしましたよ」
「ありがとう、レノ」
「いえ。テーブルで食べられますか?」

 レノに尋ねられ俺は「うん」と答える。そうすればレノはテーブルに料理を並べていく。なので俺はベッドから下り、テーブルの席に着いた。

 目の前には温野菜にチキンのソテー、コーンスープにブレッドとバター。ポテトサラダとおいしそうな料理の数々。おかげで俺の胃がさらにキュウキュウッと鳴く。しかしその料理は一人分しかない。

「あれ? レノは食べないの?」
「私はキトリー様が寝ている間に軽く頂きましたので」

 レノはそう言うと自分で淹れた紅茶をテーブルに置き、俺の向かいに座った。

「そうなのか? んじゃ、俺ひとりで食べちゃうぞ?」
「ええ、しっかり食べてください」

 レノに言われ、俺は遠慮なく早速頂くことにした。昼も食べ損ねていたので、俺はナイフとフォークを使ってバクバクと食べていく。しかし、向かいに座るレノの視線が痛い。しかも黙ったままで。

 ……いつものレノなら『ランネット様と何を話したんですか?』とか聞きそうなのに。

 俺は料理を食べつつ、レノをちらちらと見る。そうすればレノはやっと口を開いた。

「何ですか?」

 ……いや、それは俺の台詞なんだけど。

「別に……。ランネット様とのこと、聞かねーの?」
「お話をしただけでは?」

 レノは澄ました顔で俺に言った。

「いや、まあ、そうなんだけど」

 ……なーんか静かすぎるなぁ。姉ちゃんが来る前まで話してたことにも触れないし。

 俺はそんな事を思いながらチキンをぱくりと食べる。でも、モグモグしながら不意に姉ちゃんの言葉が頭を過った。

『あんまりレノ君を心配させないようにね。倒れたりっちゃんを死にそうな顔で見つめてたんだから』

 ……死にそうな顔か。どんなに俺の事を心配してたんだろう。もしかして、俺が力の使い過ぎで倒れてた時はいつもそんな顔をさせてたのかな。

 俺はレノを見ながら思った。でもその後もレノは何も言わず、俺が料理を食べ終わっても静かなままで……。


 でも、それは嵐の前の静けさだった―――――。

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