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第五章「告白は二人っきりで!」

21 夢叶う……が

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「姉ちゃん、心配かけてごっめ、ンッ!?」

 言い切らない内に姉ちゃんは俺に抱き着き、俺は驚く。というか、ぽよよんっと胸が顔に当たる……てか、挟まってるッ!!

「も、もう本当に驚いたんだからね! りっちゃん!!」
「んぐっ!」
「お姉ちゃん、りっちゃんがあのまま死んじゃうかと思ったんだから!」
「っ!」
「もうあんなのはナシよ!?」
「……」
「もー、聞いてるのりっちゃん!? ……え、ちょっとりっちゃん!?」

 姉ちゃんは返事のない俺から離れたが、胸に挟まれ俺は意識を失くしかけていた。というか窒息死かけていた。

「ちょっとりっちゃん! しっかりして!」

 姉ちゃんはそう言うと俺の頬をぺちぺちっと叩いて覚醒させた。

「ハッ! ハァハァッ……三途の川が見えかけた」

 俺は意識を取り戻し、慌てて息を吸う。

「もぅ、言ったそばから驚かせないで!」

 ……いやいや、窒息しかけたのおねぇたまの胸のせいなんですけど。

 そしてパイパイに包まれるという俺の夢(ロマン)は叶うが、相手が前世の姉なので全然嬉しくとも何ともない。

 ……むしろレノの厚い胸板の方が安心するような。いやいや何を考えてんだ、俺は。

 俺は頭にレノの鍛えられた上半身を思い出すが、慌てて打ち消す。しかし姉ちゃんは俺の顔を見て。

「なにニヤニヤしてるの? 全く」

 呆れた口調で言われ、俺は慌てて否定した。

「べ、別にニヤニヤなんて!」
「どうせレノ君の事でも考えてたんでしょ」
「そ、そんなことないもん」
「そんな事、あるでしょ。ホント、顔に出やすいんだから~」

 姉ちゃんはそう言うと俺の鼻をちょんっと人差し指で撫でた。

 ……む、別に顔になんて出てないのに。

「それより元気になったみたいで良かったわ。本当にあのまま起きないかと思ったんだから」

 姉ちゃんはさっきまでレノが座っていた椅子に腰かけ、眉を下げて言った。

「それについては、ごめん。大きな魔獣だったから威力強めにしたら、体に負荷がかかっちゃったみたいで」
「そうでしょうね、今度からは気を付けなさい。……でも、助けてくれてありがとう。りっちゃん」

 姉ちゃんは微笑んで俺に言った。でも俺にはこの言葉を受け取る資格なんてない。

「お礼を言われる資格なんて俺にはないよ。俺は聖人だってことを隠していたんだから」
「それは……」
「本来なら俺は力が発現した時点で、この神聖国に来なきゃいけなかった。でもずっと黙っていた。その間、姉ちゃんやアシュカは聖人の務めを果たしていたのに。……だから俺はむしろ謝らなきゃいけないんだ、ごめんなさい」

 俺が真っすぐ見て謝ると姉ちゃんは少し困った顔をした後、ゆっくりと微笑んだ。

「りっちゃんは嘘つきね。何もしてない、なんて嘘でしょ? ……ずっと不思議だったの。でもりっちゃんが聖人の力を持っているなら納得だわ」

 姉ちゃんは見透かしたように言い、俺は思わず目を逸らす。でも姉ちゃんは俺に告げた。

「バルト帝国からは、ずーっと魔獣の被害が出ていない。あれだけの大国なのに、一度もよ。私もアシュカも不思議に思っていたの。……でもりっちゃんが密かに退治していたんでしょう?」
「それは、その」
「もう隠し事はなし。正直に言って」

 姉ちゃんに言われ、口ごもっていた俺は観念して答える。きっと嘘やごまかしをしたところで姉ちゃんにはわかってしまうから。

「……うん、そうだよ。俺が密かに退治してた」
「やっぱりね。一人であの広さをよくまかない切れていたわね」
「大変なことはなかったよ。バルト帝国の騎士達は強いから、小さな魔獣なら彼らだけでも討伐できる。それに魔獣は人の不安や恐れ、不満から出現すると言われてるだろ? でも今の王家は安定してて民の不満も少ないからさ」
「それでも、一人でしてきたなんて大したものだわ」
「そーでもないよ。レノがいてくれたから」

 俺が答えると姉ちゃんは「そう」と安心したように笑った。

「でもりっちゃん、これからは……そうはいかないわ。私としては、りっちゃんがいてくれるのは嬉しいけど」

 姉ちゃんは少し申し訳なさそうに言った。俺がここにいなければいけないことを示唆して。

「うん、わかってる。今までが自由過ぎたんだ」

 俺が答えると、姉ちゃんはそっと優しく俺の手を握った。

「でも、そうしてきたのは……今の家族と離れたくなかったからなんでしょう? 私やアシュカみたいに神聖国の出身ならまだしも、バルト帝国なら簡単には会えなくなるものね」

 姉ちゃんに言われ、核心をつかれた俺は思わず口を閉じる。
 そう、俺は今の家族が好きだ。家族だけじゃない、ヒューゴやフェルナンド、お爺やセリーナ、サラおばちゃんだって。だからこそ神聖国には来たくなかった。

 転生して突然家族を失った俺は、新しい家族と大事な人達と今度こそ離れ離れになりたくなくて。

 そして、なにより……。

「レノ君とも離れたくなかった、そうじゃない?」

 姉ちゃんに言われて俺はくすっと笑う。

「なんでもお見通しだなぁ、姉ちゃんは」
「そりゃ、お姉ちゃんですから」

 笑って言う俺に姉ちゃんも微笑んだ。だから俺は正直に答える。

「うん、そうだよ。レノとも離れたくなかった」

 ……いや、違うな。放っておけなかった、と言う方が正しいかもしれない。出会ったばかりのレノは悪徳貴族のせいで子供らしさがほとんどなかった。だから俺はレノを放って神聖国にはこれなかった。時々悲しい目をしたあの頃のレノを。でも……今はもう。

「じゃあ、今後ともレノ君を傍に置くの?」
「いや、レノには帰って貰うよ。これ以上、俺に付き合わせられない」
「そう……でも、それでいいの?」
「あいつには子供の頃からずっと付き合わせっぱなしなんだ。もうこれ以上は」

 俺が呟くように言えば姉ちゃんは小さく息を吐いた。

「りっちゃんの悪い癖ね。人の事を思うのもいいけれど、自分の気持ちも大切にしなさい。それになりより、レノ君とちゃんと話し合うこと!」
「俺は結構自分勝手だけど」
「もー少し我儘だっていいのよ。りっちゃんは」

 姉ちゃんに言われ、俺は「うん」と小さく返事をしておく。すると姉ちゃんは腰を上げた。
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