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第四章「ディープな関係!?」

13 目、大丈夫ですか?

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 ―――レノが心配しているその頃、俺と言えば。

「はぁ~、涼し~」

 俺は呑気に湖に足をつけて涼んでいた。ひんやりとした水が体を冷やし、俺の隣にいるアシュカも同じように足をつけて気持ちよさそうにしている。まさに二人並んで涼む姿はまるで縁側の爺さんの図。

 いや、俺達はまだ若いんだけどね?!

 そして、俺達から少し離れている場所ではザックが子供達を湖に放り込み、子供達は放り込まれるのが楽しいのかキャッキャッと声を上げ、その様子をフェルナンドとヒューゴは微笑ましそうに見つめている。さながら、夫夫と子供達(?)のようだ。

 ……のどかだねぇ。穏やかだねぇ。微笑ましいねぇ。

 俺はその様子をほのぼのと見つめる。けど、そんな俺に隣に座るアシュカが距離を詰めてきた。と言うか、ぴったりと俺の横に座る。

「……アシュカ君? 暑いんだけども?」

 俺がちらりと見て言うと、アシュカはニコニコ笑顔で「そう?」と返事をする。
 なので、俺は少し横にずれる。しかしアシュカはくっつき虫のように俺にくっついてくる。

「レノがいない今ぐらいイイでしょ? それともレノに悪い? 僕、まだレノとキトリーが付き合ってるって信じてないんだけど」

 アシュカに言われて俺はギクッと肩を揺らす。

「つ、付き合ってるわヨ? もう俺達、ラブラブヨ?」
「本当かなー?」

 アシュカは俺をじぃっと見つめて言う。だから俺は思わず目を逸らす。

「ほ、ホントホント」
「ふーん? まあ、いいけど。ところでキトリーはレノのどこが良くて付き合ってるの?」
「レノのどこが良くて??」
「付き合ってるってことは好きなんでしょ? レノのどこが好きなの?」

 突然の質問に俺は顎に手を当てて考える。

 ……レノの好きなところだとー!? そんなん聞かれるとは思わなかった! ど、どう答えよう。

「出てこないの? やっぱり付き合ってないんじゃ」

 アシュカは疑いの目で俺を見てくる。なので俺は慌てて答えた。

「い、いや、レノの好きなところだろ?! 一杯あるぞっ! ……そ、そうだな。顔が良いし、体格も良い。頭もいいし、剣も強い! 時々厳しいけど、基本的には優しいし、良い奴だ!」

 ……なんか思いついた事言ったけど、レノって改めて考えると超優良物件だな。

 俺は言いながら改めて思う。まぁ、実際レノは本来なら次期宰相であるロディオンの補佐がちょうどいいぐらい優秀なのだ。でも本人の希望でずっと俺の従者をしてる。

 ……俺の従者が楽しいからかな? とか思ってたけど、昔から俺を好きって事は、ずっと俺の傍にいて虎視眈々と俺を狙ってたってことだよな? こっわ。

 俺はレノの執着ぶりにちょっと恐怖を覚える。しかしその横でアシュカは詰まらなさそうな顔を見せた。

「僕から聞いたけど、なんだか嫉妬しちゃうな。……でも、僕もレノに負けてないと思うけどな? 僕の容姿もそこそこいい方だと思うし、体格もレノと変わりないよ。頭は良いとは言えないけど、たぶんレノより強いし。それに僕は好きな人を甘やかしたいタイプなんだ。どう?」

 アシュカは爽やかな笑顔でにこっと俺に微笑んだ。その爽やかさに俺は眩しさを感じるほどだ。ぐぅ、目が開けてられん。

「どう? って言われても。そもそも、アシュカは俺のどこがいいわけ? 全部とか言ってたけど、俺とアシュカって言っても数える程度しか会ってないじゃん。俺の事、いろいろ知ったら幻滅するかもよ?」

 ……付き合ってみたら、意外に金遣いが荒いとか逆にケチだったりとか、実は食べ方が汚かったり、超がつくマザコンかもしれないんだぞ!? ……まあ、俺にそういうのはないけど。え、BL創作ぐらいはいいよな??

 俺は自分の心に問いかける。でもアシュカは首を横に振った。

「確かに会ったのは数える程度だ。でも、初めて会った時に僕はキトリーに心奪われたんだ」

 ……心奪われたって。俺は盗んだつもりないけど!?

「初めて会った時って、アーズの町で?」

 俺が尋ねるとアシュカはこくりと頷いた。なので俺は思い出してみる、だが。

 ……え? そんな心奪われるような展開、ありましたっけ??

 全くと言っていいほど思い出せない。

 確かにアシュカとはアーズの町で出会った。休憩がてら喫茶店に入ったら満席で、たまたま相席になった相手がアシュカだったのだ。それ以来、その喫茶店で顔を合わせるようになり、色々と話すようになった(神聖国の事とか)。が、覚えている限りでは心ときめくシーンなんてない。普通に話をしたぐらいだ。

 ……喫茶店の後は、魔獣退治で一緒になったくらいだしぃ。その後は帝都に遊びに来た時に会ったぐらい。え、マジでどこに恋泥棒できる(『君のハートを頂き☆』的な)ポイントが?

「キトリーは覚えてないみたいだね。でも僕はちゃんと覚えてる」

 アシュカはふふっと笑って俺を見た。その視線がなんだか甘い。なので俺はその甘さに耐えきれず、ギギギッと視線を逸らす。

「か、勘違いじゃないのか? 俺はときめくようなことなんて何もっ」

 俺が目を合わせないまま言うと、アシュカは湖につけている足をスリスリと俺の足に絡ませてきた。なに、このテクニック!!

「そうやって無自覚なところも可愛い」
「か、かわっ?!」
「キトリーはカッコよくて、可愛い。……キトリー、好きだよ」
「なっ!?」

 甘く囁かれて俺は思わず視線をアシュカに戻してしまった。するとカチリと瞳が合い、アシュカは柔からげに目を細めて俺を見ていた。
 だからわかってしまう、アシュカが本当に俺を好きなんだと。

 ……ちょ、ドキドキしちゃうんですけどッ!?

 俺は慣れない好意にドギマギしてしまう。なにせレノに告白はされても、いつもあんな感じだからこんなにも甘くならない。まあ、俺が逃げているからというのもあるけど。

「ね、レノはやめて僕と付き合おうよ? ね?」

 アシュカは俺に身を寄せて、尋ねてくる。すっごくキラキラした笑顔で。

 ……キラキラ光線がすごっ! 眩しッ。

 だから俺は眩しさを感じながら返答に困る。だが、その時。

「ぼっちゃーん、そろそろスイカを食べましょうか~」

 大きな声で呼んだのはヒューゴだった。これぞ、天の助け!

「お、おー! 今行くー!」

 俺はそう返事をして湖から足を上げ、すくっと立ち上がる。

「アシュカ。す、スイカ食べに行こ?」

 かなり強引だが、俺は甘い雰囲気を打ち消すようにアシュカに声をかけた。そうすればアシュカは呆れた顔を見せ、肩を竦ませた。

「そうだね。スイカ、食べに行こうか」

 アシュカはそう言うと湖から足を上げ、俺の隣に立つ。その時にはいつもの雰囲気に戻っていて俺は心の中でほっと息を吐いた。
 だが同時に俺は本気で心配したのだった。

 ……アシュカ、俺の事をマジで好きみたいだけど、大丈夫だろうか。目とか、目とか、目とか……(エンドレス)。

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