アデルの子

新子珠子

文字の大きさ
108 / 114
第三章 明日へ

108. 覚悟

しおりを挟む
 赤子の名前はセネトと名付けた。
 セネトは非常に高い魔力を備えていて、セレダの見立てでは術師の適性が出るほど魔力が高いのではないかということだった。
 もちろん心配は尽きない。けれど今は産後間もないセレダを安静に休ませる事が第一だ。産後は僕の願いもあり、セレダにはタウンハウスで過ごしてもらう事になった。タウンハウスには僕の妻たちがいてセネトを見守ってくれるし、セレダと仲の良いジェイデンがいることも心強かった。僕はできる限りの時間をセネトや子どもたちと過ごす時間として、セレダにゆっくりと休んでもらうことを心掛けた。


 セネトはブロンドの髪に虹色の瞳を持つ、とても美しい赤子で子供たちにも可愛い可愛いと可愛がられている。
 手足を元気にパタパタ動かしているセネトを、子供たちが興味津々に覗き込む様子を見守りながら、僕はそっとセレダの横に座った。

「僕には兄弟はいなかったので……なんだか新鮮です」

 セレダはそう言って穏やかに笑った。
 最初はタウンハウスに来ることを不安そうにしていたセレダだったが、分け隔てなく可愛いがられているセネトを見て、安心してくれたようだった。妻たちともうまくやってくれてるようで、特にジェイデンとは上手に助け合っているようだ。
 
 彼はしばらく子供たちを見守った後、意を決したように僕を見上げた。

「ティト様、お話があります」
「うん?」

 そう口を開いたセレダはまっすぐに僕を見据える。

「僕を……貴方の妻にしていただけないでしょうか」
「……え?」
「2度もお断りしたのに、今更図々しいお願いだというのは分かっています。でも、セネトを守るためにはティト様のお力が必要で……僕はあの子ためだったらなんでもしてあげたい。ティト様の妻になることも怖くないと思ったんです」
「セレダ……」

 その顔にはもう不安そうな表情は見えなくて、すっかりと母親の顔になっていた。

「……一つだけお願いがあるんだ」
「はい」

 僕はそっとセレダの手を取った。
 
「セネトだけじゃなくて、セレダの幸せも考えてほしい。嫌なことや不安な事は一人でため込まずに僕やジェイデンたちに相談すること。約束してくれないかな?」
「……はい」
「ありがとう……一緒に歩もう、セレダ」

 セレダは顔をくしゃりと歪め、泣きそうな顔をしながら、何度も頷いた。
 
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

処理中です...