アデルの子

新子珠子

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第三章 明日へ

107. 瞳

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 セレダが産気づいたのは出産予定日を2週間も過ぎた冬の節の終わりの頃だった。
 
「おめでとうございます!」

 助産師に続いて、医師や侍従たちが祝いの言葉を口にする。僕は疲れ切った様子のセレダにそっと触れた。
 
「……ありがとう、セレダ」
「……はい」

 そう言って、セレダは力なく微笑んだ。
 
「元気な子ですよ」

 産湯に浸かって綺麗になった赤ん坊を抱いて、助産師がそう言った。
 
「……」

 セレダが指先でそっと赤ん坊の頬に触れると、赤ん坊はその小さな手でしっかりと母の指を掴んだ。
 
「……可愛い」

 思わずセレダからそんな声が出る。
 
「抱いてみますか?」
「……はい」

 助産師に促され、セレダはおっかなびっくりといった感じで赤ん坊を抱いた。
 
「……」

 赤ん坊は泣き出すこともなく、ただじっとしている。
 セレダはかなり長い時間、赤子をじっと見つめていたが、やがて決意をしたように顔を上げた。

「ティト様」
「ん?」
「この子の魔力を見てもいいでしょうか」
「……うん、見てくれる?」
「はい」

 セレダが頷くと、彼の虹彩の色が濃くなる。しばらくその状態で見つめていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

「この子は……アデル、です」

 セレダはそういうとゆらゆらと瞳を揺らした。そしてあっという間に瞳に水の膜が張られる。
 僕は慌てて、彼の横に座り、そっとセレダと我が子を支えた。

「……っどうしよう、ティト様……怖い」
「うん……」
「だって……アデルで……こんなにも強い魔力で……この瞳の色……僕と同じ色……」

 セレダの言う通りだった。子供は美しい虹色の瞳をしていた。
 
「アデルで僕の魔力を継いでいるなんて………………」

 セレダの声には喜びとも悲しみともつかない震えが含まれていた。涙を流すセレダの目元を拭う。

「セレダ……大丈夫だよ。この子もセレダも必ず僕が守る、幸せにするよ」
「……っ」
 
 彼は僕に支えられながら、息を整えて、それからまた口を開いた。

「……この子は……愛される人間になれますかね」
「もちろん」
「なりたい自分に……なれますか」
「……ああ、そういう未来になるように努力するよ」

 僕がそう答えると、彼はまたぽろりと涙を流した。

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