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第三章 明日へ
82. 助け
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罰だと思った。ジェイデンの幸せを考えず、自分だけいい思いをした罰が当たったんだと。
「……僕は」
僕は声が震えてしまうのを必死で堪える。
「僕は……ジェイデンにそばにいて欲しい」
僕たちはお互いを見つめ合う。けれど、目が合っているのにどこか遠くを見ているようで、まるで僕の言葉なんて聞こえていないようだった。
「…………それは、無理なんだね……」
ジェイデンはそっと目を伏せた。
「…………はい」
僕は泣きそうになるのをぐっとこらえる。ここで泣いてしまったら、何も言えなくなる気がした。
「……申し訳ないけれど、すぐに了承はできない……数日間休暇をとってもらっていいかな、その間に答えをだすから」
「……はい、ご無理を言いまして申し訳ありません」
そう言って、彼は静かに部屋を出て行った。
ドアが閉まった瞬間、僕の目からは涙が溢れ出す。どこで間違えてしまったんだろうか? きっと最初から間違ってしまっていたのだ。最初から彼に向き合っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。後悔しても、もう遅いことは分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
気分が乗らなくても仕事はある。今日も朝から書類整理に追われていた。いつもなら、どんなに嫌なことがあっても、書類を読んでいるうちに没頭できたのに、今はそれができない。昨日の出来事が頭をよぎって仕方がなかった。
「はぁ……」
僕は大きなため息をつく。その様子を見かねたのか、従者のテディがそっと口を開いた。
「ティト様、今日は午後から寄付のご予定ですが……延期いたしましょうか」
「……ううん、行くよ。大丈夫だから」
「お顔の色が良くないようですが……」
「少し寝不足なだけだから心配しないで」
そう言うと、彼は困ったように眉を下げながら微笑む。そして、それ以上は何も言わなかった。
正直に言えば寄付をする気分では全然無かったけど、行かないわけにもいかない。僕は重い腰を上げ、馬車に乗り込んだ。
教会に着くと、小姓が駆け寄ってくる。
「ティト様!こんにちは!」
「やあ、元気そうだね」
「はい!この前頂いたお菓子とても美味しかったです!ありがとうございました!」
小姓は無邪気に笑う。僕はまた持ってくるねと言って、笑みを返した。
「どうぞ、こちらへ」
小姓についていき、礼拝堂へと向かう。簡単に礼拝を済ませると、奥からセレダが出てきた。
「ティト様、お越しいただきましてありがとうございます」
「ああ、セレダ。今日もよろしくね」
にこりと微笑んでいたセレダは僕の顔を見ると、急に真剣な表情になる。
「何かあったんですか?」
「どうして?」
「なんとなく……そんな顔をされているような気がして」
彼は相変わらず鋭い。僕は小さくため息をつくと、白状する様に口を開く。
「実は……少し聞いて欲しい話があるんだ……」
セレダは一瞬驚いたような表情を見せた後、こくりと頷き、僕を部屋へと案内してくれた。
「お茶を用意しますので、そこに座って待っていてください」
彼はそう言い残し、部屋の外に出る。しばらくして戻ってきたときには、湯気の立ったティーカップを持っていた。
「何があったんですか?」
向かい側に座ると、彼は優しく問いかけてくる。
「実は……ジェイデンが僕のもとを去ることになりそうなんだ……」
「それは……どういうことですか?」
彼は訝しげに眉を寄せた。僕は昨日のことを大まかに説明していく。すると、だんだんと彼の顔が険しくなっていった。
「……なるほど。話は分かりました。それで、あなたはどうしたいと思っているんですか?」
「……ジェイデンには幸せになってもらいたいと思っているよ……だけど、彼を手放すことはできないとも思っている」
「そうですか……」
しばらく沈黙が流れる。彼は紅茶を一口飲むと、ふぅっと一呼吸置いた。
「ティト様、よろしければお答えいただきたいのですが」
「うん?」
「ティト様はジェイデンと身体の関係がありますよね?」
「……ああ、あるよ」
僕は素直に答える。それを聞くと、セレダは満足そうに笑みを浮かべた。
「それならば、今から僕が言うことをよく聞いてください。僕もあなたとは違う種類ではありますが、ジェイデンのことを大切に思っています。なので、彼が悲しむ姿を見たくはないんです。だから、お願いします」
そう言ってセレダは僕の手をぎゅっと握る。そして、まっすぐに見つめてきた。
「ジェイデンは妊娠しているんじゃないでしょうか」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心は大きく揺れ動く。
「まさか……」
「まだ可能性の話ですが、ない話ではないと思います。もしそうであれば、彼はもう護衛の仕事はできない」
僕はハッとする。確かにそうだ。僕は自分のことで精一杯で、ジェイデンの状況を考える余裕も無かった。もしそうであれば彼はどんな思いを抱えながら僕のところに来たのだろう。
「もう一度ジェイデンと話をしてみてください」
セレダの言葉には強い意志がこめられていて、僕は少しだけ勇気付けられた様な気持ちで頷いた。
「……僕は」
僕は声が震えてしまうのを必死で堪える。
「僕は……ジェイデンにそばにいて欲しい」
僕たちはお互いを見つめ合う。けれど、目が合っているのにどこか遠くを見ているようで、まるで僕の言葉なんて聞こえていないようだった。
「…………それは、無理なんだね……」
ジェイデンはそっと目を伏せた。
「…………はい」
僕は泣きそうになるのをぐっとこらえる。ここで泣いてしまったら、何も言えなくなる気がした。
「……申し訳ないけれど、すぐに了承はできない……数日間休暇をとってもらっていいかな、その間に答えをだすから」
「……はい、ご無理を言いまして申し訳ありません」
そう言って、彼は静かに部屋を出て行った。
ドアが閉まった瞬間、僕の目からは涙が溢れ出す。どこで間違えてしまったんだろうか? きっと最初から間違ってしまっていたのだ。最初から彼に向き合っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。後悔しても、もう遅いことは分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
気分が乗らなくても仕事はある。今日も朝から書類整理に追われていた。いつもなら、どんなに嫌なことがあっても、書類を読んでいるうちに没頭できたのに、今はそれができない。昨日の出来事が頭をよぎって仕方がなかった。
「はぁ……」
僕は大きなため息をつく。その様子を見かねたのか、従者のテディがそっと口を開いた。
「ティト様、今日は午後から寄付のご予定ですが……延期いたしましょうか」
「……ううん、行くよ。大丈夫だから」
「お顔の色が良くないようですが……」
「少し寝不足なだけだから心配しないで」
そう言うと、彼は困ったように眉を下げながら微笑む。そして、それ以上は何も言わなかった。
正直に言えば寄付をする気分では全然無かったけど、行かないわけにもいかない。僕は重い腰を上げ、馬車に乗り込んだ。
教会に着くと、小姓が駆け寄ってくる。
「ティト様!こんにちは!」
「やあ、元気そうだね」
「はい!この前頂いたお菓子とても美味しかったです!ありがとうございました!」
小姓は無邪気に笑う。僕はまた持ってくるねと言って、笑みを返した。
「どうぞ、こちらへ」
小姓についていき、礼拝堂へと向かう。簡単に礼拝を済ませると、奥からセレダが出てきた。
「ティト様、お越しいただきましてありがとうございます」
「ああ、セレダ。今日もよろしくね」
にこりと微笑んでいたセレダは僕の顔を見ると、急に真剣な表情になる。
「何かあったんですか?」
「どうして?」
「なんとなく……そんな顔をされているような気がして」
彼は相変わらず鋭い。僕は小さくため息をつくと、白状する様に口を開く。
「実は……少し聞いて欲しい話があるんだ……」
セレダは一瞬驚いたような表情を見せた後、こくりと頷き、僕を部屋へと案内してくれた。
「お茶を用意しますので、そこに座って待っていてください」
彼はそう言い残し、部屋の外に出る。しばらくして戻ってきたときには、湯気の立ったティーカップを持っていた。
「何があったんですか?」
向かい側に座ると、彼は優しく問いかけてくる。
「実は……ジェイデンが僕のもとを去ることになりそうなんだ……」
「それは……どういうことですか?」
彼は訝しげに眉を寄せた。僕は昨日のことを大まかに説明していく。すると、だんだんと彼の顔が険しくなっていった。
「……なるほど。話は分かりました。それで、あなたはどうしたいと思っているんですか?」
「……ジェイデンには幸せになってもらいたいと思っているよ……だけど、彼を手放すことはできないとも思っている」
「そうですか……」
しばらく沈黙が流れる。彼は紅茶を一口飲むと、ふぅっと一呼吸置いた。
「ティト様、よろしければお答えいただきたいのですが」
「うん?」
「ティト様はジェイデンと身体の関係がありますよね?」
「……ああ、あるよ」
僕は素直に答える。それを聞くと、セレダは満足そうに笑みを浮かべた。
「それならば、今から僕が言うことをよく聞いてください。僕もあなたとは違う種類ではありますが、ジェイデンのことを大切に思っています。なので、彼が悲しむ姿を見たくはないんです。だから、お願いします」
そう言ってセレダは僕の手をぎゅっと握る。そして、まっすぐに見つめてきた。
「ジェイデンは妊娠しているんじゃないでしょうか」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心は大きく揺れ動く。
「まさか……」
「まだ可能性の話ですが、ない話ではないと思います。もしそうであれば、彼はもう護衛の仕事はできない」
僕はハッとする。確かにそうだ。僕は自分のことで精一杯で、ジェイデンの状況を考える余裕も無かった。もしそうであれば彼はどんな思いを抱えながら僕のところに来たのだろう。
「もう一度ジェイデンと話をしてみてください」
セレダの言葉には強い意志がこめられていて、僕は少しだけ勇気付けられた様な気持ちで頷いた。
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