アデルの子

新子珠子

文字の大きさ
上 下
83 / 114
第三章 明日へ

83. 晩秋

しおりを挟む
 どうしても早く確かめておきたくて、僕は教会を出た足で早速ジェイデンの元を訪れることにした。
 コンコン、と村屋敷の一室をノックをすると、そこにはいつも通りジェイデンの姿があった。
 
「ジェイデン、少し話をしてもいいかな」
「ええ、もちろんです」

 彼は穏やかに返事をする。その様子からは、やはり何も読み取ることができなかった。
 
「あのさ……昨日の話なんだけど……」
「はい」
「……やっぱり僕は君を手放したくは無い。だから、君の本当の想いを聞かせて欲しいんだ」
「…………」
「……本当に僕のもとに居たくない……のかな?」
「いえ……違います……私はただ……」

 そこで言葉を詰まらせた彼は、苦しげに顔を歪める。
 
「ジェイデン……?」
「…………ティト様のことが嫌いなわけではありません」
「そうか……それなら充分だ」

 そう言って微笑んでみせると、彼は何か言いたそうにして、でも結局口を閉ざしてしまった。
 
「……少し散歩に行かない?」

 僕がそう言うと、彼は不思議そうな顔をした後に、こくりと首を縦に振った。僕たちは2人で中庭へと向かう。
 
「ここの庭の花たちも、もう終わりだね」
「ええ、もうすぐ冬ですから」
「ああ、でもこの実は綺麗だね」

 そう言いながら、僕は真っ赤に色づいた木の実を手にとった。それをそっとジェイデンに差し出すと、彼は嬉しそうに微笑む。
 
「可愛いですね」
「うん、これって食べられるんだよ」
「そうなんですか?」
「ちょっと食べてみる?」
「……いえ、遠慮しておきます」
「あははっ、冗談だよ」

 そんな他愛もない会話をしながら、僕たちの間に穏やかな時間が流れていく。僕はゆっくりと呼吸をして彼に向き合った。
 
「ジェイデン、僕は君の事が好きだ」

 そう言った途端、彼の瞳が大きく見開かれる。

「僕はまだ若いし、頼りないだろうけど、いつか必ず君を守れるくらい強くなってみせる。だから、ずっとここにいてほしい」

 僕を見つめたまま、彼はしばらく黙り込んでいた。やがて小さく息を吐くと、ぽつりと話し始める。
 
「……私もティト様が好きです」
「……じゃあ!」
「でも、あなたのそばにいることはできません」
「どうして……」
「……私はもう護衛の仕事をするのが難しいんです」

 そう言うと、ジェイデンは腹部に手を当てた。僕は思わず息を飲む。
 
「もしかして……」
「はい……最近体調が悪くて、あまり動けなくて……今日も本当は安静にしていないといけないんです」
「っ本当!?ごめん……僕!」
「謝らないでください。私の方こそ隠していてすみませんでした」

 彼はそう言うと、力なく笑う。僕はいてもたってもいられなくなって、慎重に彼を抱きしめた。
 
「ティト様……?」
「これからはもっと気をつけるよ……絶対に無理はさせないから……だから……お願いだから……」
「……はい」
「……僕のもとで、僕の子供を……産んでくれないかな……」

 ジェイデンは何も言わなかった。僕は少し不安になりながらも、彼の返答を待つ。しばらくして、彼は僕の背中へと腕を回してきた。
 
「はい……」
「……ありがとう、結婚しよう、ジェイデン」
「……っは、い」

 彼の声は震えていた。僕は彼のことをより一層強く抱き締める。それからしばらくの間、彼は静かに涙を流し続けていた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...