【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との

文字の大きさ
上 下
9 / 14

7.商会離脱宣言

しおりを挟む
 公爵邸にあったトルソーが三つ応接室に運び込まれ、シエナがデザインしたドレスが飾られた。

「これは初めて見るスタイルのものばかりね」

「はい、こちらは裾をこのようにからげる事で、別の印象のドレスへと様変わりいたします。後の二つはルダンゴトから着想を得たスタイルに、ウエストコートのイメージで刺繍を入れた物と、捺染布のみで作りましたものでございます」

 イライザは暫くドレスの近くで鑑賞していたが、ソファに戻り紅茶をひとくち口にしてから口を開いた。

「これがウォーカー商会の新商品ということね」

「いえ、これらの商品は新しい商会にて手がける予定でございます」

「商会を立ち上げるのかい?」

「はい、近々ウォーカー商会を離れますので今日は初のお披露目をさせて頂きました」



「あなたは確かウォーカー商会の商会長でしょう? しかも、ウォーカー家が何代も受け継いできた商会から離れると言うの?」

「やむを得ない理由がございまして、商会を離れ新しい分野に挑戦することに致しました」

「ん? ちょっと待ってくれ。となると今後ウォーカー商会の刺繍は誰がデザインを?」

「新しい商会の経営には携わることができませんので、私には分かりかねます」



「随分と無責任な発言ですこと。今まであなた達は多くの顧客のお陰でやって来れたと言うのに、辞めるとなると顧客のことなどどうでも良くなるのね」

「ウォーカー商会の将来について私が口を挟むことは出来ませんが、私自身は刺繍のデザインを辞めるつもりはございません。ただ、初めから紳士服も扱うと公表してしまうと色々不具合がございまして⋯⋯。
様々な問題が解決するまでは、個人取引のような形を取らせていただく予定でございます」

「出資者への優遇措置というわけ?」

「いえ、紳士服のご希望を下さった方には別のお願いをする予定でございますが、それはまた別の時に個別にお願いに上がる所存でございます」

「では、今日は何の為にここへ来たのかしら? 普通売り込みに来る人はパトロンになって欲しいと思っているものよ」

「私の作りました作品が、アーリントン公爵夫人のお眼鏡にかなうものかどうかを知りたくて参りました。初めて足を踏み入れる分野の評価を頂くなら、アーリントン公爵夫人しかないと思いました」

「私が駄目出ししたら、どうするつもり?」

「一からデザインを考え直し致します。もし仮に、他の方が受け入れてくださっても、アーリントン公爵夫人に評価頂けない物であれば、商会を立ち上げるだけの作品ではないと言うことですので」




「⋯⋯コートの色は紺。刺繍は金糸と銀糸を使って頂戴。ストマッカーにはリボンではなく刺繍とレース、宝石はこちらで準備するわ。ペチコートの柄模様はデザイン画を見せて頂きましょう。
それとそこにかけてあるピンクのドレスはそのまま頂くわ。サイズ直しをして今度の娘の誕生日プレゼントにします」

 イライザは、残りのドレスも同様のデザインのものを複数枚注文してくれた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。  その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。  ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました

新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

処理中です...