13 / 29
13 失った記憶
しおりを挟む
「黒は不吉だ。黒い生き物など、追い払ってしまえ!」
黒─特に黒色の生き物に対する憎悪が膨らんでくると、クロにも少しずつ影響が出始めた。
キラキラと輝いていた毛並みは光を失い、フワフワしていた毛が抜け落ちていき、走り回る事が好きだった足が重くなり、自由に動く事すら難しくなり、揺らめいていた琥珀色の瞳も光を失い影を落とした。その目さえ、1日閉じている時間が増えていった。
『クロ………』
そのクロに寄り添うのはシロ。大好きな主の元、2匹は人々に幸せを運んでいたけど、それももう随分昔の話となっていた。
今では、数年に一度、シロだけがほんの少しだけの幸せを、ほんの一握りの人に幸せを運ぶだけとなっていた。
黒は不吉だと人々から忌み嫌われ、クロの存在自体が脆くなり、いつ消えてもおかしくない状態になっている。
白は忌み嫌われる事はないが、人々が信じて願う事を忘れつつある為、存在はあれど、力は微々たるものとなっていた。
そんな2匹の主は、なんとかシロとクロの存在を消すまいと、毎日どこかへと足を運んで解決の糸口を探している。
そんなある日、主がシロとクロの元に帰って来ると、その主から衝撃的な話を聞かされる事になった。
『人間の男に恋をしてしまったの』
シロとクロを助ける為に人里に降り立った主は、とある男性と出会い、幾度か顔を合わせるうちに恋心を抱き、相手もまた、主を受け入れたのだと言う。
『それで、**に相談すると、私の**を取り上げてシロとクロに込めれば、お前達は人々の信じる気持ちや願いとは関係無く存在していく事ができるようになると……』
『そんな……それじゃあ……主様は……主様とは………』
『そうね。私は**ではなくなるし、お前達とはもう会えなくなるわ。でも……お前達を失うより良いわ。私は、お前達を失う事が一番怖ろしい事だから。お前達は、私の愛しい子達だから』
『あるじ……さま………』
クロは寝てしまっていて、シロだけが涙をながしながら主に鼻を寄せている。
『クロが目覚めたら、愛していると伝えてちょうだい。お前達も、人々からの柵から抜けて、幸せになりなさい。もし、困った事があれば**と**を呼ぶと良いわ。*****は最終手段よ』
そう言って笑った主を目にしたのは、その時が最後だった。
それから暫くすると、クロは少しずつ元気を取り戻して行った。最初こそ、主に二度と会えないと泣いていたが、大好きなシロが側に居るのだと──それは当たり前ではない幸せな事なのだと、前向きに進んで行く事ができた。
『シロは、ずっと私と一緒に居てくれる?』
『勿論よ。クロも、ずっと私と一緒に居てくれる?』
『勿論!』
そんな幸せな日々は、ある日突然終わりを告げる事となった。
『人間の男なんかに現を抜かすから、命を落とす事になるのよ。ふふっ……』
突然現れた女の手は血まみれで、その手の中に小さな光り輝く石が握られていた。
『ある……じ…さま?』
『コレがまだ分かるのね?そうよ。コレは、お前達の主だった狐の魂よ。意味……分かる?お前達の主だった狐はね、私の男に手を出したのよ。だから……魂を奪ってやったのよ。でもね、お前達は、あの女の魂の一部を引き継いでいるでしょう?それがある限り、あの女がまた現れるかもしれないから……貰いに来たのよ』
主から貰い受けたソレ。ソレが無ければシロもクロも、また存在が脆くなり消えてしまう。2匹と主の約束は、皆幸せになる事。主のソレを、奪われる訳にはいかない。
でも、目の前に居る女がただの人間ではない事も、自分達よりも遥かに力が強いと言う事は明白だった。
でも、シロとクロは精一杯抵抗して攻撃して逃げて──
『遊びは終わりよ』
と、女が手をひと振りすると、クロの足に激痛が走り、その場に勢い良く倒れ込んだ
『───シロ!シロだけでも逃げて!』
『クロ!!』
『大丈夫よ。お前を始末した後、すぐにシロもクロに追い付くようにしてあげるから』
その女がスッとクロに向かって手を翳す。
シロは、そんな女に向かって飛び付き、その勢いのまま女をなぎ倒した。
『ちっ─生意気な子狐が!』
『シロ!!!』
『クロ────クロだけでも………』
クロの目の前で、シロの体が赤く染まって行く。
『あ………シロ………』
ー誰か……助けて……お願い………ー
『**様!お願い、シロを助けて!!』
『ようやく繋がったわ!』
『シロ!クロ!』
そこで光を放ちながら現れたのは、長い黒髪を靡かせた着物を着た女性と、琥珀色に輝く毛並みの3尾の狐だった。
******
「………し…………ろ」
「あっ!アンバー!気が付いた!?」
「───え?し………コユキ?」
「良かった……えっと、すぐにお医者さんを呼んで来るから、このまま動かずに待っててね!」
そう言うと、コユキはバタバタと走って行った。
「………」
ーまだ欠けている処もあるけど、思い出したー
何故黒色で魔力が無いのかも分かった。
私はクロ─黒狐。そして、コユキがシロ─白狐。
妖力を持つ妖狐だ。
黒─特に黒色の生き物に対する憎悪が膨らんでくると、クロにも少しずつ影響が出始めた。
キラキラと輝いていた毛並みは光を失い、フワフワしていた毛が抜け落ちていき、走り回る事が好きだった足が重くなり、自由に動く事すら難しくなり、揺らめいていた琥珀色の瞳も光を失い影を落とした。その目さえ、1日閉じている時間が増えていった。
『クロ………』
そのクロに寄り添うのはシロ。大好きな主の元、2匹は人々に幸せを運んでいたけど、それももう随分昔の話となっていた。
今では、数年に一度、シロだけがほんの少しだけの幸せを、ほんの一握りの人に幸せを運ぶだけとなっていた。
黒は不吉だと人々から忌み嫌われ、クロの存在自体が脆くなり、いつ消えてもおかしくない状態になっている。
白は忌み嫌われる事はないが、人々が信じて願う事を忘れつつある為、存在はあれど、力は微々たるものとなっていた。
そんな2匹の主は、なんとかシロとクロの存在を消すまいと、毎日どこかへと足を運んで解決の糸口を探している。
そんなある日、主がシロとクロの元に帰って来ると、その主から衝撃的な話を聞かされる事になった。
『人間の男に恋をしてしまったの』
シロとクロを助ける為に人里に降り立った主は、とある男性と出会い、幾度か顔を合わせるうちに恋心を抱き、相手もまた、主を受け入れたのだと言う。
『それで、**に相談すると、私の**を取り上げてシロとクロに込めれば、お前達は人々の信じる気持ちや願いとは関係無く存在していく事ができるようになると……』
『そんな……それじゃあ……主様は……主様とは………』
『そうね。私は**ではなくなるし、お前達とはもう会えなくなるわ。でも……お前達を失うより良いわ。私は、お前達を失う事が一番怖ろしい事だから。お前達は、私の愛しい子達だから』
『あるじ……さま………』
クロは寝てしまっていて、シロだけが涙をながしながら主に鼻を寄せている。
『クロが目覚めたら、愛していると伝えてちょうだい。お前達も、人々からの柵から抜けて、幸せになりなさい。もし、困った事があれば**と**を呼ぶと良いわ。*****は最終手段よ』
そう言って笑った主を目にしたのは、その時が最後だった。
それから暫くすると、クロは少しずつ元気を取り戻して行った。最初こそ、主に二度と会えないと泣いていたが、大好きなシロが側に居るのだと──それは当たり前ではない幸せな事なのだと、前向きに進んで行く事ができた。
『シロは、ずっと私と一緒に居てくれる?』
『勿論よ。クロも、ずっと私と一緒に居てくれる?』
『勿論!』
そんな幸せな日々は、ある日突然終わりを告げる事となった。
『人間の男なんかに現を抜かすから、命を落とす事になるのよ。ふふっ……』
突然現れた女の手は血まみれで、その手の中に小さな光り輝く石が握られていた。
『ある……じ…さま?』
『コレがまだ分かるのね?そうよ。コレは、お前達の主だった狐の魂よ。意味……分かる?お前達の主だった狐はね、私の男に手を出したのよ。だから……魂を奪ってやったのよ。でもね、お前達は、あの女の魂の一部を引き継いでいるでしょう?それがある限り、あの女がまた現れるかもしれないから……貰いに来たのよ』
主から貰い受けたソレ。ソレが無ければシロもクロも、また存在が脆くなり消えてしまう。2匹と主の約束は、皆幸せになる事。主のソレを、奪われる訳にはいかない。
でも、目の前に居る女がただの人間ではない事も、自分達よりも遥かに力が強いと言う事は明白だった。
でも、シロとクロは精一杯抵抗して攻撃して逃げて──
『遊びは終わりよ』
と、女が手をひと振りすると、クロの足に激痛が走り、その場に勢い良く倒れ込んだ
『───シロ!シロだけでも逃げて!』
『クロ!!』
『大丈夫よ。お前を始末した後、すぐにシロもクロに追い付くようにしてあげるから』
その女がスッとクロに向かって手を翳す。
シロは、そんな女に向かって飛び付き、その勢いのまま女をなぎ倒した。
『ちっ─生意気な子狐が!』
『シロ!!!』
『クロ────クロだけでも………』
クロの目の前で、シロの体が赤く染まって行く。
『あ………シロ………』
ー誰か……助けて……お願い………ー
『**様!お願い、シロを助けて!!』
『ようやく繋がったわ!』
『シロ!クロ!』
そこで光を放ちながら現れたのは、長い黒髪を靡かせた着物を着た女性と、琥珀色に輝く毛並みの3尾の狐だった。
******
「………し…………ろ」
「あっ!アンバー!気が付いた!?」
「───え?し………コユキ?」
「良かった……えっと、すぐにお医者さんを呼んで来るから、このまま動かずに待っててね!」
そう言うと、コユキはバタバタと走って行った。
「………」
ーまだ欠けている処もあるけど、思い出したー
何故黒色で魔力が無いのかも分かった。
私はクロ─黒狐。そして、コユキがシロ─白狐。
妖力を持つ妖狐だ。
159
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜
雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。
モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。
よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。
ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。
まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。
※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。
※『小説家になろう』にも掲載しています。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。
花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。
フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。
王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。
王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。
そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。
そして王宮の離れに連れて来られた。
そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。
私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い!
そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。
ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。
【完結済み】番(つがい)と言われましたが、冒険者として精進してます。
BBやっこ
ファンタジー
冒険者として過ごしていたセリが、突然、番と言われる。「番って何?」
「初めて会ったばかりなのに?」番認定されたが展開に追いつけない中、元実家のこともあり
早々に町を出て行く必要がある。そこで、冒険者パーティ『竜の翼』とともに旅立つことになった[第1章]次に目指すは? [おまけ]でセリの過去を少し!
[第2章]王都へ!森、馬車の旅、[第3章]貿易街、
[第4章]港街へ。追加の依頼を受け3人で船旅。
[第5章]王都に到着するまで
闇の友、後書きにて完結です。
スピンオフ⬇︎
『[R18]運命の相手とベッドの上で体を重ねる』←ストーリーのリンクあり
『[R18] オレ達と番の女は、巣篭もりで愛欲に溺れる。』短編完結済み
番外編のセリュートを主人公にパラレルワールド
『当主代理ですが、実父に会った記憶がありません。』
※それぞれ【完結済み】
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる