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3 淡い期待
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『───黒色持ちだとしても、勉強をする権利があるのだからね。ただ…体が不自由にでもなれば、学校に通う事はできなくなるだろうけど』
ーそこまで考えていなかったー
伯爵のあの発言の後、夕食が終わってしまったから、話の続きを聞く事はできなかった。
補助金欲しさに、嫌でもお金を使って学校には通わせるだろうと思っていた。でも──行けない状況を作り上げれば、学校に通わせなくても良い上に、私を閉じ込めておく事もできて、今迄通り補助金も手に入る。もし、そうなったら──もう二度と、ここから出る事はできないだろう。
入学予定迄、既に1年を切っている。後少し頑張れば外に出られるのに。
兎に角、何事も起こらないように、気を付ける事しかできない。味方なんて居ない私が、どこまで自分の身を守れるのか分からないけど、できる限りの事は頑張ろう。
******
「アンバー、少し痩せたんじゃない?これ、あげるから後で食べて」
「カリーヌさん、ありがとう」
味方は居ない─と言ったけど、今、私に優しい声を掛けてくれたのは、私よりも5つ年上で伯爵邸で使用人として働いているカリーヌさん。私がここにやって来てから、唯一、黒色持ちの私にも普通に接してくれる人だ。
『私が黒色持ちでも、気にならないんですか?』
と訊けば
『私は特に黒色に対して何も思わないし、私は貴方のその黒色の髪も琥珀色の瞳も綺麗で…素敵だなって思うわ』
と言ってくれた、とても優しい人だ。いつも気に掛けてくれて、時々お菓子をくれたりもする。仕事もできて魔力も力も強いらしく、私に話し掛けてくれていても、カリーヌさんが嫌がらせを受けたりする事もない。
「暑い日が続いているから、水分もしっかり摂らないと駄目よ。分かった?」
「はい」
カリーヌさんは、フランシーヌよりもお姉さんらしいお姉さんだ。
ただ、少し痩せたのは本当の事だ。
理由は、いつ伯爵が動くのか気になって、色々嫌な事を考えてしまって食欲が減ってしまっているから。動くとすれば、私を学校に通わせると言う意思を表してから─とすれば、入学申請書を出した後。それなら、『学校に行かせるつもりだったのに、事故に遭い体が不自由に…』と言い訳ができるから。入学する迄に、事故に見せ掛けて、大怪我なりなんなりさせれば良いだけ。そして、その入学申請書を出したのが1週間前。それから、いつどうなるのか─日に日に不安が増す一方なのだ。
「そうそう、アンバー、知ってる?来年、アンバーと同じ年の子で、他国から留学生が来るそうよ」
「留学生?それは、珍しい事なんですか?」
「留学生自体は珍しくないんだけど、来年来る留学生は────」
********
「来年やって来る留学生は2人居て、そのうちの1人が黒色持ちなんだそうだ」
家族揃っての夕食時に、食べ始めて直ぐにそう言ったのは、伯爵だった。なんでも、我が国の国王陛下が、黒色持ちの差別を無くす為に取り組む一環として、他国からの黒色持ちを多方面で積極的に受け入れる政策を勧めているからだそうだ。我が国の黒色持ちに対する差別意識は、ハッキリ言ってまだまだ残っているけど、魔法に関しては貴族平民問わずトップクラスの実力があり、魔法を学びたいと言う他国民が多い。そして、他国には、普通に黒色持ちも居たりするらしいけど、黒色持ちがこの国に来る事は滅多にない。そこを何とかしたい国王と、魔法を学ばせたいと嘆願書を送って来た友好国との利害が一致して、来年、黒色持ちの留学生が入学する事になったそうだ。
「不吉な黒色持ちではあるが、その留学生の魔力は大きいそうで、将来は魔道騎士団のトップに立つのでは?と言われているそうだ」
「なるほど。同じ黒色持ちでも、誰かさんとは違うのね。それなら、納得だわ」
確かに、そんなに強い人なら、黒色持ちだからと手を出される事もないだろうし、出されたとしても迎え撃てるだろう。
ー同じ黒色持ちでも、魔力があるのと無いのでは、こんなにも違うのねー
どうして私には何も無いのか。それでもやっぱり、無力な自分は嫌いなのに、黒色を嫌う気持ちは湧いてこない。
それよりも…黒色持ちの留学生が来るなら、ひょっとすれば、私も、このまま何事もなく学校に通えるのかもしれない。
そんな淡い気持ちを抱いてしまった。
******
それから伯爵家に私宛の入学許可書が届いたのは、1ヶ月後の事だった。入学予定の3ヶ月前だ。ここ迄何もなかったから、もう大丈夫なのかもしれない─なんて…油断していた。
「え?」
「来週の水曜日に、街に行って入学の準備や必要な物の買い物をして来なさい」
「………」
街に行って買い物を───
何て事は、今迄一度も言われた事はなかった。寧ろ、黒色持ちは外に出るなと言われて、邸の中から出た事が無い。ならば、今回のこの外出を促す理由は一つしかない。
ついに、伯爵が動いたのだ。
ーそこまで考えていなかったー
伯爵のあの発言の後、夕食が終わってしまったから、話の続きを聞く事はできなかった。
補助金欲しさに、嫌でもお金を使って学校には通わせるだろうと思っていた。でも──行けない状況を作り上げれば、学校に通わせなくても良い上に、私を閉じ込めておく事もできて、今迄通り補助金も手に入る。もし、そうなったら──もう二度と、ここから出る事はできないだろう。
入学予定迄、既に1年を切っている。後少し頑張れば外に出られるのに。
兎に角、何事も起こらないように、気を付ける事しかできない。味方なんて居ない私が、どこまで自分の身を守れるのか分からないけど、できる限りの事は頑張ろう。
******
「アンバー、少し痩せたんじゃない?これ、あげるから後で食べて」
「カリーヌさん、ありがとう」
味方は居ない─と言ったけど、今、私に優しい声を掛けてくれたのは、私よりも5つ年上で伯爵邸で使用人として働いているカリーヌさん。私がここにやって来てから、唯一、黒色持ちの私にも普通に接してくれる人だ。
『私が黒色持ちでも、気にならないんですか?』
と訊けば
『私は特に黒色に対して何も思わないし、私は貴方のその黒色の髪も琥珀色の瞳も綺麗で…素敵だなって思うわ』
と言ってくれた、とても優しい人だ。いつも気に掛けてくれて、時々お菓子をくれたりもする。仕事もできて魔力も力も強いらしく、私に話し掛けてくれていても、カリーヌさんが嫌がらせを受けたりする事もない。
「暑い日が続いているから、水分もしっかり摂らないと駄目よ。分かった?」
「はい」
カリーヌさんは、フランシーヌよりもお姉さんらしいお姉さんだ。
ただ、少し痩せたのは本当の事だ。
理由は、いつ伯爵が動くのか気になって、色々嫌な事を考えてしまって食欲が減ってしまっているから。動くとすれば、私を学校に通わせると言う意思を表してから─とすれば、入学申請書を出した後。それなら、『学校に行かせるつもりだったのに、事故に遭い体が不自由に…』と言い訳ができるから。入学する迄に、事故に見せ掛けて、大怪我なりなんなりさせれば良いだけ。そして、その入学申請書を出したのが1週間前。それから、いつどうなるのか─日に日に不安が増す一方なのだ。
「そうそう、アンバー、知ってる?来年、アンバーと同じ年の子で、他国から留学生が来るそうよ」
「留学生?それは、珍しい事なんですか?」
「留学生自体は珍しくないんだけど、来年来る留学生は────」
********
「来年やって来る留学生は2人居て、そのうちの1人が黒色持ちなんだそうだ」
家族揃っての夕食時に、食べ始めて直ぐにそう言ったのは、伯爵だった。なんでも、我が国の国王陛下が、黒色持ちの差別を無くす為に取り組む一環として、他国からの黒色持ちを多方面で積極的に受け入れる政策を勧めているからだそうだ。我が国の黒色持ちに対する差別意識は、ハッキリ言ってまだまだ残っているけど、魔法に関しては貴族平民問わずトップクラスの実力があり、魔法を学びたいと言う他国民が多い。そして、他国には、普通に黒色持ちも居たりするらしいけど、黒色持ちがこの国に来る事は滅多にない。そこを何とかしたい国王と、魔法を学ばせたいと嘆願書を送って来た友好国との利害が一致して、来年、黒色持ちの留学生が入学する事になったそうだ。
「不吉な黒色持ちではあるが、その留学生の魔力は大きいそうで、将来は魔道騎士団のトップに立つのでは?と言われているそうだ」
「なるほど。同じ黒色持ちでも、誰かさんとは違うのね。それなら、納得だわ」
確かに、そんなに強い人なら、黒色持ちだからと手を出される事もないだろうし、出されたとしても迎え撃てるだろう。
ー同じ黒色持ちでも、魔力があるのと無いのでは、こんなにも違うのねー
どうして私には何も無いのか。それでもやっぱり、無力な自分は嫌いなのに、黒色を嫌う気持ちは湧いてこない。
それよりも…黒色持ちの留学生が来るなら、ひょっとすれば、私も、このまま何事もなく学校に通えるのかもしれない。
そんな淡い気持ちを抱いてしまった。
******
それから伯爵家に私宛の入学許可書が届いたのは、1ヶ月後の事だった。入学予定の3ヶ月前だ。ここ迄何もなかったから、もう大丈夫なのかもしれない─なんて…油断していた。
「え?」
「来週の水曜日に、街に行って入学の準備や必要な物の買い物をして来なさい」
「………」
街に行って買い物を───
何て事は、今迄一度も言われた事はなかった。寧ろ、黒色持ちは外に出るなと言われて、邸の中から出た事が無い。ならば、今回のこの外出を促す理由は一つしかない。
ついに、伯爵が動いたのだ。
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