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❋竜王国編❋
36 選定式②
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今回の選定式に参加するのは5人。
選定は5人一気に─ではなく、1人1人個別に行われる。不正を防ぐ事と公平性を期す為なのだそうだ。
黒龍の巫女ともなれば、それなりの特権を得る事ができるし、あわよくば竜王妃に──と、過去にも不正を働く者も居たらしい。
今回の5人の聖女のうち、4人は人間で、後の1人は獣人だった。その獣人は4人目で選定式の部屋に入って来たけど、入室した途端顔色が少し悪くなった。
ー緊張してるのかな?ー
入室した時は、見た目人間だったけど、今では獣の耳と尻尾が出て来て、耳は忙しなく動いているのに、尻尾だけはクルンと包まって動かない。
そんな様子を見た宰相様が、その獣人の聖女に何か声をかけると、その聖女は少し落ち着いたようで、そこからは普通に対応ができていた。
その4人目も終わり、いよいよ最後の1人となった。
と言う事は───
ー5人目が……ジュリエンヌ様だー
過去通りにいけば、ジュリエンヌ様は黒龍の巫女だ。予定よりも早い選定でどうなるのか──
「5人目の聖女様、お入り下さい」
宰相様の掛け声で扉が開かれて────
「…………」
金髪の長い髪をフワリとなびかせ、背筋をピンッと伸ばし、堂々たる姿勢で歩みを進めるジュリエンヌ様は、私の記憶の中の姿より少し幼い。トルトニアに留学生としてやって来た時は、もう少し大人の色香を纏っていた。
「ジュリエンヌ=トワイアル様で、よろしいでしょうか?」
「はい。間違いありません」
「──では、選定を行います」
「宜しくお願い致します」
宰相様の確認の後、ジュリエンヌ様が答え、軽く頭を下げる。
ーん?ー
フワリ──と微かに甘い香りがした。
「…………」
何処かで嗅いだ事のある……記憶にある甘い香りに似ている。それがいつだったのか──必死になって思い出そうと頑張っていると、私の横に立っているオーウェンさんが少しふらつくのが視界に入り、視線をそのままオーウェンさんに向けると、眉間に皺を寄せた険しい顔をしていて、見て分かるぐらいの汗を掻いていた。
ーえ!?だっ……大丈夫!?ー
ついさっきまでは、普通に立っていた。他の人達は……特に変わりはない。オーウェンさんだけだ。ここでは喋れない。
ーイロハ!ー
声は出せないから、隣に居るイロハのローブの裾をギュッと握る。すると、イロハが私の方を見てくれて視線が合い、私はその視線をズラしてオーウェンさんに視線を向ける。すると、イロハはオーウェンさんの異変に気付いてくれたようで、コクリ─と頷いた後、部屋全体に視線を巡らせた。
イロハはそのまま、何かを探すように部屋全体を見ている。勿論、その間も、ジュリエンヌ様の選定は行われている。
「────っ……」
オーウェンさんの顔色が悪くなり、片手で自身の顔を覆って倒れそうになった時、何か温かい光がオーウェンさんを包み込んだ。
ーえ?光??ー
ただ、不思議な事に、オーウェンさんが光に包まれているのに、私以外の人がその事に全く気付いていない。そのまま光がなくなると、オーウェンさんの顔色は元に戻り、掻いていた汗もなくなっていた。
「「………」」
私とオーウェンさんが無言のままイロハに視線を向けると───
私とオーウェンさんではなく、選定式を見つめたまま恐ろしい程の笑顔をしたイロハが視界に入った──のは一瞬で、フードを深く被り直してしまった為、イロハがどんな顔をしているかは──それからは全く分からなかった。ただ、オーウェンさんは、それ以降は普段通りだったけど、何となく怒っている?ような雰囲気だった。
そうして、ジュリエンヌ様の時は色々とあったけど、予定通りに5人の選定式は無事に終了した。
結果は直ぐに出ると思っていたけど、どうやら明日になるそうだ。怪我をした竜人を癒やすと言う試験で、直ぐに治せる時と、少し時間が空いてから効いてくると言う事もあるらしい。
控室に戻って来てすぐ、イロハと宰相様は「急ぎの案件ができたので」と言って、部屋から出て行き、今はオーウェンさんと大神官様と……ティータイム中だ。
ー緊張するよね!!ー
「あ!オーウェンさん、えっと…大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。急に…気分が悪くなってしまって……」
「光は…イロハ……ですよね?」
「おや?エヴェリーナ嬢には、あの光が視えましたか?」
「光?」
やっぱりオーウェンさんにはあの光は視えていなかったようで、やっぱり大神官様には視えていたようだ。
「あの光は、大聖女イロハの力…ですか?」
「そうです。大聖女の力です。あの光が視えるとは……流石ですね。これで……ようやく……本当に………うっ…………」
「えっ!?大神官様!?」
「アル─ピーヌ様………」
ハラハラとまた泣き出した大神官様。どうやら、本当に……涙腺が緩いようです。
ー“流石”とは……どう言う意味だろう?ー
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
*.*⸜(*ˊᗜˋ*)⸝*.*
選定は5人一気に─ではなく、1人1人個別に行われる。不正を防ぐ事と公平性を期す為なのだそうだ。
黒龍の巫女ともなれば、それなりの特権を得る事ができるし、あわよくば竜王妃に──と、過去にも不正を働く者も居たらしい。
今回の5人の聖女のうち、4人は人間で、後の1人は獣人だった。その獣人は4人目で選定式の部屋に入って来たけど、入室した途端顔色が少し悪くなった。
ー緊張してるのかな?ー
入室した時は、見た目人間だったけど、今では獣の耳と尻尾が出て来て、耳は忙しなく動いているのに、尻尾だけはクルンと包まって動かない。
そんな様子を見た宰相様が、その獣人の聖女に何か声をかけると、その聖女は少し落ち着いたようで、そこからは普通に対応ができていた。
その4人目も終わり、いよいよ最後の1人となった。
と言う事は───
ー5人目が……ジュリエンヌ様だー
過去通りにいけば、ジュリエンヌ様は黒龍の巫女だ。予定よりも早い選定でどうなるのか──
「5人目の聖女様、お入り下さい」
宰相様の掛け声で扉が開かれて────
「…………」
金髪の長い髪をフワリとなびかせ、背筋をピンッと伸ばし、堂々たる姿勢で歩みを進めるジュリエンヌ様は、私の記憶の中の姿より少し幼い。トルトニアに留学生としてやって来た時は、もう少し大人の色香を纏っていた。
「ジュリエンヌ=トワイアル様で、よろしいでしょうか?」
「はい。間違いありません」
「──では、選定を行います」
「宜しくお願い致します」
宰相様の確認の後、ジュリエンヌ様が答え、軽く頭を下げる。
ーん?ー
フワリ──と微かに甘い香りがした。
「…………」
何処かで嗅いだ事のある……記憶にある甘い香りに似ている。それがいつだったのか──必死になって思い出そうと頑張っていると、私の横に立っているオーウェンさんが少しふらつくのが視界に入り、視線をそのままオーウェンさんに向けると、眉間に皺を寄せた険しい顔をしていて、見て分かるぐらいの汗を掻いていた。
ーえ!?だっ……大丈夫!?ー
ついさっきまでは、普通に立っていた。他の人達は……特に変わりはない。オーウェンさんだけだ。ここでは喋れない。
ーイロハ!ー
声は出せないから、隣に居るイロハのローブの裾をギュッと握る。すると、イロハが私の方を見てくれて視線が合い、私はその視線をズラしてオーウェンさんに視線を向ける。すると、イロハはオーウェンさんの異変に気付いてくれたようで、コクリ─と頷いた後、部屋全体に視線を巡らせた。
イロハはそのまま、何かを探すように部屋全体を見ている。勿論、その間も、ジュリエンヌ様の選定は行われている。
「────っ……」
オーウェンさんの顔色が悪くなり、片手で自身の顔を覆って倒れそうになった時、何か温かい光がオーウェンさんを包み込んだ。
ーえ?光??ー
ただ、不思議な事に、オーウェンさんが光に包まれているのに、私以外の人がその事に全く気付いていない。そのまま光がなくなると、オーウェンさんの顔色は元に戻り、掻いていた汗もなくなっていた。
「「………」」
私とオーウェンさんが無言のままイロハに視線を向けると───
私とオーウェンさんではなく、選定式を見つめたまま恐ろしい程の笑顔をしたイロハが視界に入った──のは一瞬で、フードを深く被り直してしまった為、イロハがどんな顔をしているかは──それからは全く分からなかった。ただ、オーウェンさんは、それ以降は普段通りだったけど、何となく怒っている?ような雰囲気だった。
そうして、ジュリエンヌ様の時は色々とあったけど、予定通りに5人の選定式は無事に終了した。
結果は直ぐに出ると思っていたけど、どうやら明日になるそうだ。怪我をした竜人を癒やすと言う試験で、直ぐに治せる時と、少し時間が空いてから効いてくると言う事もあるらしい。
控室に戻って来てすぐ、イロハと宰相様は「急ぎの案件ができたので」と言って、部屋から出て行き、今はオーウェンさんと大神官様と……ティータイム中だ。
ー緊張するよね!!ー
「あ!オーウェンさん、えっと…大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。急に…気分が悪くなってしまって……」
「光は…イロハ……ですよね?」
「おや?エヴェリーナ嬢には、あの光が視えましたか?」
「光?」
やっぱりオーウェンさんにはあの光は視えていなかったようで、やっぱり大神官様には視えていたようだ。
「あの光は、大聖女イロハの力…ですか?」
「そうです。大聖女の力です。あの光が視えるとは……流石ですね。これで……ようやく……本当に………うっ…………」
「えっ!?大神官様!?」
「アル─ピーヌ様………」
ハラハラとまた泣き出した大神官様。どうやら、本当に……涙腺が緩いようです。
ー“流石”とは……どう言う意味だろう?ー
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