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第六章ー帰還ー
ラストチャンス
しおりを挟む「一つだけ、お願いがあります。」
「お願い?それを、聞いてやる義理がこっちにあると思ってるのか?」
魔法使いが、陛下の執務室で話しをした後、図々しくお願い─と言い出した。
「─思っては…いないけど…。ただ、本当に俺の国では穢れが年々酷くなっていて…。その犠牲になるのはいつも平民なんだ。貴族も王も何もしてくれないから…。聖女を召喚したのは俺だから…一度だけ…チャンスをもらえないか?」
「─チャンス?」
ゼンが、少し苛立ったようにリュウに聞き返す。
「聖女の行いがバレてる事は隠したままで、俺が召喚したから、聖女として隣国に来て欲しいと─。魔法使いである俺の魔力を少し分け与える代わりに、訓練して聖女のレベルを上げて欲しいと。それで、彼女が心を入れ替えてくれて頑張ってくれるなら…隣国に連れて帰りたい。もし、それでも彼女が変わらなければ─その時は、俺も込みで、どうしてもらっても良い。」
あの、飄々としていた魔法使いが、真剣な顔をして国王陛下にお願いをし、そのまま頭を下げている。
そこまで、隣国では穢れが増えているのか─。
「─うまくいったとしても…お前達に何も無しとはならないぞ?穢れが落ち着いてからでも、何らかの処罰は受けてもらうぞ?」
と、国王陛下が静かに言う。
「勿論、それは分かっています。」
国王陛下が宰相とゼンに視線をやると、2人ともがコクリと頷く。
「─分かった。最後の…チャンスだ。一週間で判断する。」
「!ありがとう…ございます!」
その魔法使いは、本当に嬉しそうに安心したように笑っていた。
シナリオに固執し過ぎて忘れていた。
宮下香を召喚したのは、シナリオを進めてゲームを完成させたかったから。
だが─
それが終われば、俺の国の穢れを浄化してもらおうと思っていた。本当に、俺の国のお貴族様は腐っている。俺が作った国ではないけど、このままでは平民が可哀想で─彼等だけでも救えたらと─素直にそう思った。
これで、宮下香が心を入れ替えないのであれば…もう一度、彼女を日本に送り返す─事もアリかもしれないな…。そう思いながら、宮下香の元へ向かった。
「あなたが、私を召喚してくれた魔法使いなの!?」
俺は、誰にも気付かれず、こっそり聖女に会いに来た─体を装って、宮下香の部屋に転移し、自分が彼女を召喚した魔法使いだと説明した。その上で、俺の魔力を少し与える代わりに、聖女のレベルを上げて、訓練もして、聖女の力を使いこなせるようになったら、隣国に行き、穢れを浄化して欲しい─と頼んだ。
「…ふふっ。勿論、私で良ければ、喜んで浄化をしに行きます。」
花が綻ぶ様に笑う聖女。第三者が見ると、見惚れてしまいそうな笑顔。でも─
ーあぁ…これは…駄目かもしれないなー
と、無意識のうちにそう思った。
「私は疲れているのよ?今日の訓練はこれで良いじゃない。それに、エディオル様ともお茶の約束をしているの。本当に、気が利かないのね?」
聖女の訓練を始めてから一時間程で、指導をしていた魔導師に聖女はそう言い出した。
「ですが、聖女様は殆ど聖女としての力を使えていません。このままだと─」
「うるさいわね。あなた…魔導師と言っても、ただの平民なんでしょう?聖女に逆らうなんて…身の程しらずじゃない?」
と、聖女はクスクスと嗤いながら、その場を去って行った。
「…はぁ──────」
深く溜め息を吐いた後、自身に掛けた魔法を解く。
ー本当に…駄目だったなー
あの日から4日目。俺は容姿を変え、魔導師として聖女の指導をしていたが…。彼女がまともに訓練をする事はなかった。
『疲れた』
『やればできるけど』
『エディオル様と─』
しか言わない。しかも─“魅了”を使い、色んな貴族の令息と…関係をもっている。ここまで来ると、一層、清々しい程だ。
だが─
俺が作った“宮下香”を…汚された様で…もう、彼女に対しては悪感情しか無い。
ー何の為に…召喚したんだかー
「もう、駄目です。無理です。」
俺は、一週間も経たないうちに、国王と宰相にそう報告した。
「…それでは…お前の国の穢れは、どうするのだ?」
「…許されるのなら、魔法使いの俺でも完璧には無理だけど、出来る限り浄化して─ある程度穢れが落ち着いてから、罰を受けたい。聖女の処分は…あんた達に任せる。元の世界へ還せ─と言うなら…俺が責任をもって還す。その場合も、俺がどうなるか分からないから、国が落ち着く迄…待ってもらいたいけど…。」
国王と宰相は顔を見合せた後
「お前の意思は分かった。こちらも協議してから判断を下す事にする。その間、これ以上被害が出ないように、アレが好き勝手しないように監視してくれ。」
国王が俺にそう言ってから、俺をその部屋から下がらせた。
監視─言われなくても…これ以上好き勝手にさせるつもりはない。チャンスは与えた。それを無駄にしたのは─宮下香─自分自身なんだ。
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