155 / 203
第六章ー帰還ー
レフコースの散歩
しおりを挟む『馬なら、我が居なくても大丈夫だな?我も散歩しながら適当に帰る故、主は騎士、お前に任せたぞ?』
ー最近、主と騎士が良い感じだー
意識せずとも、嬉しくて尻尾が揺れてしまう。その揺れている尻尾を、時々主が心配そうに見てくるが…何か付いているのだろうか?
パルヴァンは、森林が多く、我にとっては住みやすい土地だ。特に、あのパルヴァンの森は気に入っている。この王都も、慣れれば楽しいが─緑が少ないのが…何とも─。
今日は、少し足を伸ばして…散歩でもして帰るか─。
『─ここは…』
気が付けば、城からだいぶ離れた所まで来ていた。そして見付けた、小さな森。パルヴァンの森とは比べようもない位の小さな小さな森。だが─
『白いの。お前は…綺麗な色だな。』
かつての我の主─パルヴァンの巫女─と、会った時のパルヴァンの森も…こんな雰囲気であったなぁ。
ー懐かしいー
その小さな森の中心にも大樹があった。
『ふむ。良いところを…見付けた。』
我は、その大樹の足元に丸まって昼寝をした。
『散歩していたら、王都の外れ迄行ってしまったのだが、そこでいい昼寝場所を見付けてな?グッスリ眠ってしまっていたのだ…』
ついつい心地がよく、眠り過ぎたようで、主の元に帰った時には、主を心配させてしまっていた。故に、素直に寝過ぎて帰りが遅くなった事を謝ると…何故か抱き付かれて撫で回された。主は、よく我に抱き付いて来る。大好きな主に抱き付かれるのも、撫でられるのも、我は気持ちが良くて大好きである。それに─主の魔力も温かくて大好きである。主が喜ぶと、我の中にある主の魔力も温かくなる。
基本、主の魔力はいつでも温かくて心地良いが─。
それが、いつからだろうか?時々、我の中の主の魔力が、不安定になる事が増えたのは─。
いや─原因はおそらく─あの魔法使いだ。主が奴と面会してから、主が時々影を落とす事も増えた。それと同じようなタイミングで、城の雰囲気も少しずつ悪くなっている感じがしていた。
『ふむ─。少し様子をみるか?』
我にとっては主が一番─主が良ければそれで良し─だが、この城には主が大切にしている者や場所がある。故に、主が悲しむ事がないように、我が城の様子を見ることにした。巫女や聖女のように、悪いものや穢れは完璧には祓えぬが、減らし抑える事はできる。
おかしい─。今、この城には聖女が居なかったか?
主と同郷の聖女。主と同じで、温かい力を持っているのだろうか?一度は…会ってみたいな─。
そうして、我は、あの小さな森での昼寝と、城の見回りが日課になった。
主を守ろうとした─筈だったのに。我は、城のソレに気を取られ過ぎていた。
主と、主が植えたと言うかすみ草を見た。そのかすみ草は、主みたいに優しい匂いがした。スンスンと匂いを嗅いでいると─ふいに名前を呼ばれ、振り向くと、主と同郷の聖女が居た。何故か、騎士にへばりつき、主に悪態を吐く。その横では何かに堪えるように立っている騎士─。そして、その騎士の腕には気持ちの悪い何かが纏わり付いている。
ーこの城で、何かが起こっているのか?ー
思案していると、また我の名を呼び、我を撫でて来る聖女。主と同郷のせいか、優しい雰囲気を纏っていた故、少し嬉しくなった─のだが、撫でられているうちに、どんどん気持ちが悪くなって来た。それと同時に、主の魔力が一気に乱れた。
『あ…ごめんなさい…あの…私…帰りたい…』
ー主に、一体何があった?ー
それでも、主は邸に戻る頃には落ち着いていた。それに我は安心して、再び騎士のもとに向かい、騎士に纏わり付くソレを定期的に祓う事を約束した。
結果、我は─主と過ごす時間が減ってしまっていたのだ。“主の大切なモノを守る為”などと思っていた我は
一番大切なものを見落としていた─。
あの日は、いつもと違う、城の奥にある庭園に、騎士と聖女が居た。聖女とはあまり関わりたくはないが、その日は騎士に纏わり付いているモノが、酷かった故に聖女には構わず、騎士に纏わり付いているソレを、少し時間を掛けて祓った。
『少し…魔力を使い過ぎたか?』
と、疲れた体を持ち上げると、フワリとあの匂いがした。
ー主のかすみ草の…匂いだー
匂いの方へと足を向けると、やはり、そこにはかすみ草があった。
『主─。』
そう言えば、最近はゆっくり一緒に居ておらぬな─
帰ったら…また…撫でてくれるだろうか…?
主のかすみ草の優しい匂いに包まれて、安心してしまった我は、そのかすみ草の前で眠ってしまっていた。
ゾワリッ
『─っ!?』
一気に血の気が引く様な感覚。この感覚には…覚えがあった。
『主の魔力が…途切れた─』
一気に魔力を解放し、元の姿に戻り、主の魔力を探る。
あの時は、もっと痛みを伴った。それは、無理矢理に、繋がりが断たれた故だった─。
痛みが無いと言う事は─
『…主の魔力を感じぬ─主が…何処にも居ない─』
我は、一番大切なものを見落としていた。
我は、一番守りたかったものを…また、守れなかった。
一番大切で守りたくて大好きだった主は
この世界から居なくなってしまった
主に─会いたい─
68
お気に入りに追加
2,325
あなたにおすすめの小説
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる