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第五章ー聖女と魔法使いとー

パルヴァンの森

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「─リュウ…。」



その名を呼ぶと、一瞬のうちに風が舞い上がり

「案外…呼ぶのが早かったな?あ、、懐かしいな。」

と、嬉しそうな顔をしたリュウが現れた。

「しかも…パルヴァンの森ここに呼ばれるとは…嬉しいね。」

流石はゲームの製作者と言ったところか…ここがパルヴァンの森と言う事を知っているようだ。

「それで?自分の居場所だと思っていた場所は…どうだった?どうなった?」

「……」

「…ははっ…可哀想なハル…。」

“可哀想”といいながら、嬉しそうに嗤うリュウ。この人は、本当にゲームのシナリオにしか関心がないんだろう。自分で作ったゲームを完成させたいんだろう。

「約束通り、俺が、ハルの居場所を作ってやる。俺の手を取れ─。」

と、右手を差し出すリュウ。私はその手を一瞥した後

「…その前に…訊きたい事がある。」

「何?」

「自分で選んだ道が、“ゲームのシナリオと違うから”と言う理由だけで…それが全て無駄になる世界に居て…リュウは幸せなの?リュウの幸せは…この世界で宮下香が幸せになる事だけなの?」

リュウの表情は変わらないけど、差し出されていた手をスッと下げた。

「─そうだよ。ここは、俺が作った世界だからね。初めて大きな仕事を任されたのに…ゲーム完成前に死んでしまって…。だから、俺は、この世界で、このゲームを完成させたいんだ。」


「なら、私は…リュウの手は…取れない。」

「は?」

断られるとは思っていなかったのだろう。リュウは、こんな時でも笑える程の間抜けな顔をしている。
そのリュウの気が緩んでる隙に、自分の周りに防御の魔法を掛ける。“結界”みたいなものだ。誰にも邪魔をされたくないから。

「私は…例え報われなくても、失敗しても辛い事があっても…自分の意思で選んだ道を歩く事ができない─そんな世界で生きていくなんて…嫌だ。」



「…私の名は“ハル”。“レフコース”…だ…ごめんね…。」

すると、私の中からレフコースの魔力とが消えて行くのが分かった。

「リュウ、あなたには感謝するわ。」

「…何を?」

「私は、内緒にしていた事があるの。」

そう話しながら、足下に魔法陣を展開させる。

「え!?何で!?その魔法陣は─!?」

その魔法陣を見て、リュウが目を見張る。

そう、リュウが言ったのだ



『─そうだよ。魔法使いには…それができるだけの魔力があるからね。まぁ、それでも、できるのは1回だけだろうけどね。2度目は多分…魔力が足らなくて死んじゃうかもしれないからね。』




1回だけでも召喚ができるなら




私自身が還る事もできるんだ




「私は…私も…魔法使いだったのよ。しかも…あなたより…格上の…ね?」

「─っ!?」

リュウが慌てて私に何か魔法を飛ばすが、私が掛けていた結界に全て弾き飛ばされていく。

「─ハル!!」

そして、私の魔力を一気に練り上げて、魔法陣に魔力を注ぎ込む。

「さようなら─。」

淡い水色の光が一気に溢れて─

その光が収まると…そこにはもう、ハルの姿は無かった。










*****


『ありがとう。サエラさん。』

「え?」

何となく、名前を呼ばれたような気がして振り返る。

「あれ?」

今さっき、そこに居た筈の薬師様が居なかった。
この庭には、本来であれば、ベラトリス様か王太子殿下の許可が無ければ入れない。でも、その薬師様はここに居た。普段であれば、私も警戒するのだが…。

ベラトリス様の視察に付き添い、帰りにトラブルがあり、帰城予定が延びた為、この庭の花のお世話が出来ず、帰城してすぐに確認に来ると、何となく元気がなくなっていて…どうしたものか…と思っていたところ、その薬師様が魔術で元気にしてくれたのだ。悪い人ではないのだろう。

そして、その薬師様もかすみ草が好きだと言う。だから、お礼に─と、かすみ草のブーケを作り、その薬師様にお渡しをした。

『…ありがとう…ございます…。』

と、震えるような声で囁く薬師様は…容姿は全く違うけれど、雰囲気がハル様に似ていた。それが何だか嬉しくて、─ゆっくりしていって下さい─と口にしていた。

お互い、初めて会った筈で、お互い名乗りもしなかったから、その薬師様が私の名前を知っている筈がない。だから…呼ばれたと思ったのは…気のせいでしょう─と、気持ちを切り替えて、ベラトリス様の元へと足を向けた。













足元で丸まっていたレフコース殿の耳がピクリッと動き、スッと立ち上がり

『主の魔力が…途切れた─』

そう言った瞬間、レフコース殿は本来の大きさになった。そして、そのままその場所でじっとしたまま動かず、耳だけがピクピクと動いていた。

『…主の魔力を感じぬ─主が…何処にも居ない─』

レフコース殿の“主”とは、“ハル殿”の事だ。そのハル殿が何処にも居ないとは…どう言う事だ?

俺自身、意味が分からず、ただただレフコース殿を見ていると

「別に…あのハルって人が居なくなっても…問題はないんじゃないかしら?」

と、俺の横に居る女…聖女様が口を出した。



    
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