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第五章ー聖女と魔法使いとー

思わぬ再会と出会い

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「あれ?これ、お義父さんが今日、必要だって言っていた書類じゃない?」

「あー、そうだね。朝、予定より早く、しかも城から迎えが来たから…忘れてしまったのかもしれないな。」

いつも完璧なゼンさんにしては、珍しい事もあるんだなぁ…あ!

「はい!私、暇なので、王城に届けに行きます!」









と、自ら立候補して、レフコースとルナさんと共に、王城迄やって来ました。

「あ、ハルさん、こんにちは。今日はどうしたんですか?」

城門の検問所に居たのは、顔見知りの騎士様だった。

「ゼンさんの忘れ物を届けに来ました。取り次ぎをお願いできますか?」

「ゼン殿の!?勿論!今すぐに取り次ぎますし、ハルさんも入城書に記入してすぐ入城して下さい!!」

そう言っている間に、奥に居た騎士様が急いで取り次ぎをしに行った。

ーゼンさんの影響力が凄すぎるー



ゼンさんは国王様の執務室に居るそうだが、私がそこまで行く事はできないので、王城内にある一般の応接室で会う事になり、迎えに来てくれた王城付きの女官の人の後を付いて行った。











「ハル様、態々持って来て頂いて、ありがとうございます。」

ゼンさんが、応接室に入って来るのと同時にお礼を言ってくれた。

「ふふっ。どういたしまして。ゼンさんも、こんなミスをするんだなぁって、何となくホッとしました。」

「それは…誉められているんでしょうか?」

「さぁ?どうでしょう?ふふっ…。」

「もう少しお話しをしたいところてすが、この書類が急ぎで必要なので…。本当に助かりました。お見送りもできませんが、ハル様の部屋だった庭に入る許可をもらったのですが、帰りに寄って行かれますか?」

「はい!寄って行きたいです!」

「では、そこの女官に伝えていますので、庭でゆっくりして下さい。すみませんが、私はこれで失礼致しますね。」

と、ゼンさんはまた国王様の執務室へ、私はレフコースとルナさんと共に庭へと向かった。










「それじゃあ、このかすみ草はハル様が植えたんですか?」

「うん。私と、サエラさんと2人で植えたの。私が居なくなってからは、サエラさんと、時間がある時はベラトリス様も手入れをしてくれてるって言ってた。」

ー本当に、2人には感謝しかないよねー

『主は。本当にかすみ草が好きなのだな。』

レフコースは、かすみ草に鼻を近付けてスンスンしながら、尻尾がユラユラ揺れている。本当に可愛いな─と、顔がニマニマしかけた時─




『─えっ!?何で!?何でレフコースがここに居るの!?』



ーえ?ー

思わずの日本語が耳に入り振り返ると、聖女である宮下香が居た─そして…その彼女が腕を組んでいるのが…エディオル様だった。

ルナさんとレフコースが、スッと私の前に出る。

「あなた…前に訓練場に居た人ですよね?何故、一般の人がこんな所まで入って来てるんですか?」

彼女が、私を睨むように言って来るが、側に居るエディオル様は何も言わない。すると、私達をここまで案内してくれた女官の人が

「ここには許可を得て来ております。ここは、王女殿下、若しくは王太子殿下の許可がなければ立ち入る事はできません。失礼ではございますが、聖女様は…許可を得ていらっしゃるのでしょうか?」

ーえ?ここ、ベラトリス様か王太子様の許可が要るの!?ー

ギョッと驚いたのはルナさんもだったようで、私と2人で瞠目して固まった。

すると、彼女は目をウルッとさせてエディオル様にしがみつき

「そんなに怖い顔して怒らないで下さい。私はただ、この庭の花を見たかっただけなんです。」

ーえー…何?この子…ヒロインって…こんな感じなの?ー

と、遠い目になるのは許して欲しい。

「でも…来て良かったわ!フェンリル…レフコースに会えたんだもの!」

と言って、先程とは一転してパッと表情を明るくさせ、彼女がレフコースの側に駆け寄る。

『やっと会えた!やっと、シナリオが動き出したんだわ!』

と、嬉しそうにレフコースを撫でている。そして、撫でられているレフコースも…目を細めて笑っていて…尻尾もユラユラと揺れている。




『あんた達の繋がりは…とても脆い。そこに、本当に繋がる筈だった宮下香が割り込んで来たら…どうなるんだろうね?』




リュウの言葉が甦り、知らず知らずのうちにルナさんの服をギュッと握り締めていた。

「…ハル様、大丈夫ですか?」

「あ…ごめんなさい…あの…私…帰りたい…」

心配そうな顔をするルナさんに、小さい声でお願いをすると、ルナさんはコクリと頷いて

「すみません。今日はこれで、失礼させていただきます。」

と、ルナさんが同行してくれていた女官の人に声を掛けた後、私は宮下香にもエディオル様にも視線を向ける事なく、その場を後にした。




だから気付かなかった。



エディオル様が苦しそうな顔で、私を見ていた事を─。



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