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第五章ー聖女と魔法使いとー

お出掛けの裏側②

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『背中を…預ける???何処に???』

そんな事をポロリと言葉にするから、俺みたいな男に隙を突かれるんだ。

預けるって事だ。』

そう言って、ハル殿を自分の方へと引き寄せた。

『ひゃいっ!?』

ー“ひゃいっ!?”って…何だ?ー

いや、分かっている。本当に驚いて、思わず出てしまった言葉なんだろう。本当に…可愛い。俺の腕の中で、顔を真っ赤にして呻いているハル殿は─本当に可愛いしかない。

ー俺は…よく今迄我慢できていたなぁー

と思う。











ハル殿と約束した日は、馬車も愛馬ノアもやめて、歩きでと決めていた。

グレン様とロン殿の計らいだろうが…婚約者でもないのに、俺と2人きりで出掛けるようにもっていかれた。
勿論、断る理由なんて皆無。喜んで受け入れたが─ソッとロン殿が近付いて来て耳打ちをする。

「帰りは遅くなっても構いませんが、羽目を外しませんように─と、グレン様からの伝言です。」

「分かっている。」

お互いが笑顔で牽制し合う。

流石、ゼン殿の息子…ロン殿の威圧も半端ないな…。

兎に角、時間が勿体無いと思い、戸惑うハル殿をエスコートしながらパルヴァン邸を後にした。



『カルザイン様は、本当に綺麗なお顔ですわね。』


よく言われる言葉だ。そんな事を言われても

「だから、何だ?」

位にしか思わなかったが─。
ハル殿に言われると嬉しいと思った。

『カルザイン様は瞳の色も…綺麗ですね。』

淡い水色の瞳が、じっと俺の目を見つめたまま言葉にする。

ーハル殿は…俺をどうしたいんだ?ー

『ん?そう…か?ありがとう。でも、私からしたら…ハル殿の淡い水色の瞳の方が…綺麗だと思うけどね。』

そう言いながら、ソッとハル殿の目元に触れると、一瞬にしてハル殿の顔が真っ赤になる。

ー本当に…可愛いー

もっと…もっと、俺を意識してもらわないとな─。
そう思いながら、再び歩き出した。





母の誕生日プレゼントを買い終えた後、気になっていた魔石が置いてあった店に向かう。
佩帯している剣に填める魔石を探していたのだ。
そう─。ハル殿の瞳の様な色の魔石を見付けたのだ。

ハル殿は、その魔石の横にある、青い魔石の方が俺に似合いそうと言う。きっと、俺の瞳の色に似ているからだろう…けど…

『ハル殿に“似合う”と言われたら嬉しいが…俺は…こっちのの方が…好きかな。』

目の前のハル殿が…固まった。

ーようやく…が分かったか?ー

最終的には、揶揄われたと思ったようだが、少しは意識したようにも思うから、今日のところはよしとする。
それから、ランチをとろうと、予約をしている店へ向かった。



勿論、個室を予約した。




“個室に二人きりなんて、大丈夫なの?”みたいな顔をするハル殿に


『どうも賑やかな所で食事をするのが苦手でね。個室の方が落ち着くんだ。』

と言うと、完全に納得した訳ではなさそうだが、

『あー、そうなんですね。』

と、自分に“大丈夫なんだ”と言い聞かせているようだった。

ーこの子…本当に大丈夫なのか?ー

いや、確かに、こうなるように俺が仕向けたが…なんだろう…本当に色々と心配になって来た…。

普段はしっかりしていると思う。意外と頑固?な処もある。流されてる…と言う訳でもないんだろうけど。

ーあぁ…そうか…ー

ハル殿の世界とここでは…色々なルールが違うのか…。聖女様達も言っていた。男女の付き合いは、自由なんだと。異性の友達でも2人で出掛ける事もあると。それが根本的にあるのなら…やっぱり心配の種にしかならないな…。

ーこれは、早目に方が良いなー

きっと、ハル殿はまた、顔を真っ赤にしたりするんだろうな…と、これからの事を考えると、自然と笑みが浮かぶが─取り敢えず、今は─


「ハル殿は、何を食べる?この店のお薦めは、グラタンだったかな?まぁ、どれも美味しいけどね。」

「そうなんですね。うーん…どれも美味しそうですね…グラタンかぁ…」

メニュー表を見ながら悩む姿も可愛いとか…

「何と悩んでいる?」

「あー違うんです…そのー…グラタンを食べようと思ってるんですけどね?あのー…えっと…この…デザートのケーキも美味しそうだなって。あのー…ケーキも食べて良いですか?」

顔を真っ赤にしたハル殿が、メニュー表で口元を隠して目だけを俺に向けて訊いてくる。

「──くっ…」

無自覚に煽って来るのは、本当に止めて欲しい。
そんな事か!なんならホールで頼もうか!?と言ってしまいそうになる。

ー落ち着こうー

「…個室でゆっくりできるから、頼んでも大丈夫だ。折角来ているんだから…頼めば良い。」

「はい。ありがとうございます。」

恥ずかしそうに、へにょりと笑う。

「……」

ー可愛いしかないと、辛くなるのか?ー

ハル殿と居ると、今迄俺には無かった筈の感情が色々と顔を出す。そんな自分が……嫌ではなかった。






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