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第四章ー王都ー
クレイル=ダルシニアン
しおりを挟むー君は、元の世界に還れて喜んでいる?笑って過ごせているだろうか?きっと、笑って過ごしているだろう。その姿が想像できてしまい、なんだか腹が立つ自分が嗤えるー
何がだ─。ハル殿は、還ってはいなかった。還れなかった。ずっと、パルヴァンに居たのだ。
王城─王都にすら行く事を嫌がり、ずっとパルヴァンに居たのだ。視察で会った時にも…きっと、あの森で偶然遇わなければ、会ってもいなかっただろう。
『私は…ルディです。パルヴァン邸付きの薬師です。宜しくお願いします。薬草を採りに来ていただけなので、気にしないで下さい。』
あの時、彼女はそう言ったのだ。もう、“ハル”として、クレイル=ダルシニアンとは関わりたくないと…言う事だったんだろう。そう思うと、胸の辺りがギュッと痛みを覚えた。
ハル殿が還ってから自覚した気持ち。
月日が経てば、忘れられるだろうと思っていた。
謁見の場に同席を求められ、グレン様とルディ殿が来たと思ったら…まさかの告白。容姿は全く違う。あの時、似てる?と一瞬思ったけど…まさかの本人だったとは…。
ハル殿が還っていなかった。この世界に居るのだと…喜びそうになった自分に呆れた。
「実は私は“ハル”です」と告白した時、国王陛下もランバルトも宰相もイリスも驚いていたけど…エディオルだけは、静かにハル殿を見つめていただけだった。
エディオルは、視察の時には“ルディ”としても会っていない筈なのに。あの夜会の時には、薬師のルディの容姿を聞いた瞬間走り出した。
今思えば、エディオルは視察から王都に帰る間はずっとおかしかった。と言う事は…視察中のどこかでルディ殿を見掛けて、しかも、それがハル殿だと…気付いていたと言う事だろう。1年以上経っていて王城に知らせなかったと言う事は、我々と関わりたくないから…と言う結果を出したから…エディオルは何も言わずにここまで来たのだろう。
ーホント、素直じゃないよねー
もともと、エディオルがハル殿に好意を持っている事に気付いて、女嫌いのエディオルと仲良くなってくれれば良いのにと思っていた。だから、自分の気持ちを自覚したからと言って、私自身がハル殿とどうこうなるつもりは…無い…筈だ…。
だけど…ハル殿を“可愛い”と思う事位は…許して欲しい。へにょりと困った様に笑った顔。フェンリルに抱き付くハル殿は…本当に可愛い…。その度に、エディオルに視線で殺され掛けてるけど…狭量な奴は嫌われるぞ?
おそらく、この世界で生きていくと決めたハル殿を、エディオルはもう逃がすつもりは…ないだろうと思う。ハル殿は多分─いや、絶っっ対に、全く気付いてはいないだろうが、エディオルはもう、ハル殿に好意を寄せている事を全く隠してはいないのだ。
ーハル殿が気付いていないから、意味があるのかどうかは微妙なところだがー
ただ、外堀は埋まって来ているような…気もしないわけではない。
何せ、一番ネックになる最大級の障壁である、グレン=パルヴァン辺境伯が、エディオルを認めているからだ。グレン様がそうならば、きっとシルヴィア様とゼン殿もそうなのだろうと予想がつく。
そして、あのフェンリルもエディオルを気に入っているようだ。それもそうか…と思う。エディオルは、二度もハル殿を助けたのだ。王城に居た時の失敗は、ハル殿も謝罪を受け取っているし、帳消しだろう。
私は、幼馴染であり、共に王太子であるランバルトの側近であり近衛騎士のエディオルの事を尊敬しているし、大事な仲間であり、友だとも思っている。
まだ、この胸の痛みには慣れないし、直ぐには無くならないとは思うけど、そんなエディオルには、ハル殿と幸せになって欲しいと…思う。ハル殿が更に、“この世界に居て良かった”と、思える位に。
ーうん。私は良い奴だ…だから、可愛いと思う位は…やっぱり許してもらおうー
「エディオル、ちょっと話があるんだけど、聞いてくれる?」
自分の気持ちを整理する為にもと、早速エディオルを呼び止めた。
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