初恋の還る路

みん

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第二章

キリアンの森①

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「そう言えば、ユキ様はその後、大丈夫なんですか?」

魔導師長の執務室で、机を挟んでお互い向かい合って座りお昼をとっていた。

ー何で向い合わせなの?せめて、斜め前の椅子に座って欲しかったのにー

「あぁ、ギリューの報告によると元気だそうだ。ルドヴィル王子のフォローもあったようだしね。」

成る程。流石第二王子だ対応が早いね。第二王子も、雪の事まんざらでもないのかもしれない。

「で?タクマ殿の方はどうだ?」

「タクマ様は…特に問題は無いですね。魔法に関しては吸収も早くて、1説明すると8は理解実行出来てます。魔導師として羨ましいと言うか…嫉妬するレベルですよ…」

本当に羨ましい。私も魔法の習得は早かった方だが、琢磨はもっと凄い。琢磨が本気になれば、あっと言う間に上級位魔導師になれるだろう。魔導師として一緒に働くのは嫌だけど。この前、第一騎士団長と手合わせをしている琢磨を見た。『見習いじゃなかった?』と、思いたくなるような動きだった。絶対チートだよね。

「ふぅ…御馳走様でした。魔導師長も終わりました?キリアンの森には、いつ行きますか?何か必要な物はありますか?あるなら、片付けついでに用意して来ますけど?」

「特に必要な物は無いが、一応記録石を持って行く。それは用意済みだから、片付けが終わったらすぐに行く。」

「分かりました。すぐに片付けて来ます。」

私は急いで片付けをした。







キリアンの森は、王都の外れにある森である。空気が清んでいて、森の奥に行くと大きな湖がある。昔は、その湖に精霊が住み着いていると言う話があった程、その湖は透明度が高く季節によって色んな色に変化するのだ。その湖が、"歪み"の影響を受けた時、透明度が低くなったり色が濁ったりする。その為、このキリアンの森は王が管理するようになり、定期的に視察しているのだ。そのキリアンの森に、私は初めて来たのだ。

「ここが…キリアンの森…」

魔導師長の執務室で魔法陣を展開し、転移魔法でやって来た。やって来ましたよ!何故か、魔導師長にエスコートされるように腰に手を回され、2人一緒に魔導師長の魔法陣でやって来ましたよ!腰に手を回す必要なかったよね?色んな意味で緊張するから止めて欲しい…帰りは…拒否ろう…。

「ミュー、森の状態をしっかり確認したいから、フードを外しておけ。何か見落としてもいけないから。」

「……」

魔導師長の言い分はごもっともだ。でも…外したくない…でも…と、葛藤していて魔導師長の行動に気が付かなかった。ふと、自分の顔に影が落ちて来た。何?と思っていたら…魔導師長の顔が私の顔の真横に…魔導師長が私の目の前に立ち、腰を屈め私の耳元に顔を寄せて居たのだ。

「仕事を全うする気が無いのか?それとも…私に顔を見られるのが…嫌なのか?」

ーゾクリー

「ーなっ!?」

威圧でも威嚇でも無いー色気を含んだような甘い囁き。

囁かれた側の耳を押さえながら一歩後ずさる。

「ん?」

と、言いながら、魔導師長が一歩前に進む。

どどどどどーしてこーなった!?えーっ!??魔導師長、何のスイッチが入ったの!?
私が2歩下がると、魔導師長は一歩で私まで近付いてくるー足長いよね!ーじゃなくて!

「分かりました!分かりましたから!フード外しますから!その訳の分からない威圧??収めて下さい!!」

と言いながら無造作にフードを外した。何だかよく分からないが、身体中変な汗は出るし涙も出そうになるし心臓は痛いし…もー無理…フード位外します!!
それでも、囁かれた側の耳が熱を持ったままで、くすぐったいやら恥ずかしいやらで…その耳を押さえながら魔導師長を睨み付けた。

「……くっ…そ…」

「?」

魔導師長の動きが一瞬固まったかと思ったら、のろのろと片手で顔を覆い小さく呻いた。


「えっと…あの…大丈夫…ですか?」

先程の魔導師長の攻撃?には腹が立つが、あまりにも動かないので心配になってきた。悪い物を食べたって事もないよね?気分でも悪くなったんだろうか?


「はぁー…。大丈夫だ。問題無い。」

魔導師長は大きく息を吐いてから、ゆっくりと顔を上げた。そして、久し振りに間近で目が合った。黒曜石の様な綺麗な瞳だ。少し前に見た時はその黒さが深くなったような、影が落ちたような輝きを失ったような瞳だったけど…。今はまた、輝きを取り戻した様に清んだ瞳をしている。

ーあぁ。魔導師長は、本当に前に進めたのねー

「ふっ…ミューのその青い瞳…久し振りにちゃんと見たな。」

魔導師長は目を細め、フワリと優しい甘い顔で微笑んだ。

ーひぃぃっー

魔導師長、今日は色気の特売日ですか!?イケメン耐性はある方だと思ってたけど、魔導師長この人には適応されないみたいだ。心臓が痛い位にうるさい。

「それじゃあ、森の中を観察しながら湖迄行くぞ。」

魔導師長が踵を返し、湖の方へと歩きだした。

「…はい!」

私はうるさくなった心臓を落ち着かせるように深呼吸をしながら、魔導師長の後ろを歩いて行った。
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