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第二章
キリアンの森②
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キリアンの森は、人の手が入ってはいないが、程好く木々が生い茂り、木漏れ日で溢れている。空気も清んでいて心地良い。魔素の淀みなど確認できなかった。何の異変も確認できないまま湖まで辿り着いた。
木々が生い茂っていた今来た道なりとは違い、だだっ広い草原があらわれ、その草原の先に大きな湖があった。
雲一つ無い晴天。その真っ青な空を鏡で映したような真っ青に輝く湖面。
「わぁ…綺麗…」
前世では海にも湖にも行った事があったが、今世ではなかった。勿論、こんなにも綺麗な湖なんて見たことは無いけど…何となく懐かしい気持ちになる。仕事でなければ、湖に飛び込んでいたかもしれない。そうー前世では父にみっちり泳ぎも仕込まれたのだー。
そんな事を考えながら、湖を見つめながら立ち尽くしていた。
「仕事でなければ…もっと楽しめたのになぁ…」
「え?」
優しい声で言われ驚いて、魔導師長を見上げると…まるで眩しいものを見るような眼差しで私を見ていた。
ードクンー
また心臓が騒ぎ出す。
そんな目で見ないで欲しい。本当に、今日の魔導師長はどうしたんだろうか?本当に心臓に悪い。どう対応すれば良い?分からない。
「あ…あの…もっと、湖の近くに行って確認しても良いですか?」
魔導師長の言葉に対して反応はせず、仕事に戻るフリをした。そんな私に対して魔導師長は気を悪くした様子もなく、更に目を細めて笑いながら「良いよ」と言ってくれた。
湖面全体を見てみるが、特に穢れや濁りなどもなさそうだ。
「特に…問題はないみたいですね?」
「そうだな…"良かった"と言うべきところなんだろうが…それならば、どうして魔獣が現れたのか…と言う別の疑問が残る…」
そうですよねー王都で魔獣に出くわすなんて殆ど有り得ないのだ。
足元にしゃがみこんで、そっと湖面を覗き見る。湖面には、雲一つ無い空を反射させている為、湖を見ているのにまるで空を見ているような感覚に陥る。
"…やっと来た…"
「え?」
『魔導師長、何か言いました?』と言い掛けた言葉は、声に出なかった。
「ミュー!」
魔導師長が焦ったように私に手を伸ばす。
ーえ?な…に…?ー
湖面から小さな水柱が立ち上がり、私の体を飲み込むように覆い被さってきた。
咄嗟の事で魔法を使う事も、魔導師長の手を掴む事もできず、そのまま湖の中へと引き摺り込まれた。
ーちょっと…待って!どうなってるの!?ー
私に覆い被さってきた水柱は、そのまま人の手の形のようになり、私をどんどん湖底へと引っ張って行く。
ーこれ…いつまで息がもつ?ヤバくない?どうする?ー
息を止めながら、必死に解決策を考えるが何も浮かばない。何故か分からないが、湖に入った瞬間、自分の魔力が無くなったかのような感覚に陥った。実際、魔力が使えないのだ。
ー私…今世でも18歳で死ぬのだろうか……私が死んでも…哀しんでくれるだろうか?ー
何故か、ふと魔導師長の顔が頭の中に浮かんだ。
『ふふっ。大丈夫よ?ミューは、湖の中でも息ができるから。』
そろそろヤバイかも…と思った所で、私を引っ張る力が無くなり、誰か…先程耳にしたのと同じ声が聞こえた。
「ホントだ…息ができるし…喋れる…」
『私がミューを呼んだからね』
声がする方に視線を向けると、そこには…
透き通る程の白い肌、腰まである真っ直ぐなストレートで透き通る程の水色の髪なのに、その瞳は対称的に紺色に近い位の濃い色をしている。"人間"でな無い…と言うことが一目で判る。
「精霊?」
『ふふっ。昔はそう言われてたわね。でも、それは間違いね。私は…水を司る神ーウォルテライトー』
"ウォルテライト女神"
この大陸の神話に出て来る神の1人だ。確か…リーデンブルク女神の妹神にあたるとか…。"水"と一言で言うが、水は流れを司る。故に時の流れも司ると言われている。
『えぇ、その通り。私は水と時の流れ…流れる物全てを司っているわ。』
どうやら、ここでは思考も読み取られてしまうらしい。では、黙っていても無駄と言う事だ。
「ウォルテライト女神様…私が…話し掛けても大丈夫でしょうか?」
『そんなに畏まらないで。私は、ミューに話さなければならない事があるから…ここに呼んだの。ずっとあなたを待っていたのよ?』
「…待って…いた?」
『えぇ…ずっとね?』
ふふっと、ウォルテライト女神様は、本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。
『その前に…』
と、ウォルテライト女神様は上を見上げながら
『彼には、少しの間大人しくしてもらいましょう。』
"彼"とは、魔導師長の事だろう。"大人しく"とは一体…と、体が強ばる。
『心配しなくても大丈夫よ?少し眠ってもらうだけだから。』
あたり一面、先程目にした雲一つ無い真っ青な空に居るような空間。ただただ青い空間が広がっていて、そこにポツンとテーブルと1人掛けのソファーが二脚置かれている。そこに今、ウォルテライト女神様と私がテーブルを挟んで座って居る。
『それじゃあ、そんなに時間も無いから、サクサク説明するわね?分からない事があったら、その都度遠慮なく訊いてくれるかしら?』
「分かりました。宜しくお願いします。」
座ったままだったので、頭だけ下げる。
『先ずは確認をー。ミューは、前世の自分の名前を思い出せたかしら?』
ウォルテライト女神はは、ニッコリ微笑みながら私に問い掛けた。
木々が生い茂っていた今来た道なりとは違い、だだっ広い草原があらわれ、その草原の先に大きな湖があった。
雲一つ無い晴天。その真っ青な空を鏡で映したような真っ青に輝く湖面。
「わぁ…綺麗…」
前世では海にも湖にも行った事があったが、今世ではなかった。勿論、こんなにも綺麗な湖なんて見たことは無いけど…何となく懐かしい気持ちになる。仕事でなければ、湖に飛び込んでいたかもしれない。そうー前世では父にみっちり泳ぎも仕込まれたのだー。
そんな事を考えながら、湖を見つめながら立ち尽くしていた。
「仕事でなければ…もっと楽しめたのになぁ…」
「え?」
優しい声で言われ驚いて、魔導師長を見上げると…まるで眩しいものを見るような眼差しで私を見ていた。
ードクンー
また心臓が騒ぎ出す。
そんな目で見ないで欲しい。本当に、今日の魔導師長はどうしたんだろうか?本当に心臓に悪い。どう対応すれば良い?分からない。
「あ…あの…もっと、湖の近くに行って確認しても良いですか?」
魔導師長の言葉に対して反応はせず、仕事に戻るフリをした。そんな私に対して魔導師長は気を悪くした様子もなく、更に目を細めて笑いながら「良いよ」と言ってくれた。
湖面全体を見てみるが、特に穢れや濁りなどもなさそうだ。
「特に…問題はないみたいですね?」
「そうだな…"良かった"と言うべきところなんだろうが…それならば、どうして魔獣が現れたのか…と言う別の疑問が残る…」
そうですよねー王都で魔獣に出くわすなんて殆ど有り得ないのだ。
足元にしゃがみこんで、そっと湖面を覗き見る。湖面には、雲一つ無い空を反射させている為、湖を見ているのにまるで空を見ているような感覚に陥る。
"…やっと来た…"
「え?」
『魔導師長、何か言いました?』と言い掛けた言葉は、声に出なかった。
「ミュー!」
魔導師長が焦ったように私に手を伸ばす。
ーえ?な…に…?ー
湖面から小さな水柱が立ち上がり、私の体を飲み込むように覆い被さってきた。
咄嗟の事で魔法を使う事も、魔導師長の手を掴む事もできず、そのまま湖の中へと引き摺り込まれた。
ーちょっと…待って!どうなってるの!?ー
私に覆い被さってきた水柱は、そのまま人の手の形のようになり、私をどんどん湖底へと引っ張って行く。
ーこれ…いつまで息がもつ?ヤバくない?どうする?ー
息を止めながら、必死に解決策を考えるが何も浮かばない。何故か分からないが、湖に入った瞬間、自分の魔力が無くなったかのような感覚に陥った。実際、魔力が使えないのだ。
ー私…今世でも18歳で死ぬのだろうか……私が死んでも…哀しんでくれるだろうか?ー
何故か、ふと魔導師長の顔が頭の中に浮かんだ。
『ふふっ。大丈夫よ?ミューは、湖の中でも息ができるから。』
そろそろヤバイかも…と思った所で、私を引っ張る力が無くなり、誰か…先程耳にしたのと同じ声が聞こえた。
「ホントだ…息ができるし…喋れる…」
『私がミューを呼んだからね』
声がする方に視線を向けると、そこには…
透き通る程の白い肌、腰まである真っ直ぐなストレートで透き通る程の水色の髪なのに、その瞳は対称的に紺色に近い位の濃い色をしている。"人間"でな無い…と言うことが一目で判る。
「精霊?」
『ふふっ。昔はそう言われてたわね。でも、それは間違いね。私は…水を司る神ーウォルテライトー』
"ウォルテライト女神"
この大陸の神話に出て来る神の1人だ。確か…リーデンブルク女神の妹神にあたるとか…。"水"と一言で言うが、水は流れを司る。故に時の流れも司ると言われている。
『えぇ、その通り。私は水と時の流れ…流れる物全てを司っているわ。』
どうやら、ここでは思考も読み取られてしまうらしい。では、黙っていても無駄と言う事だ。
「ウォルテライト女神様…私が…話し掛けても大丈夫でしょうか?」
『そんなに畏まらないで。私は、ミューに話さなければならない事があるから…ここに呼んだの。ずっとあなたを待っていたのよ?』
「…待って…いた?」
『えぇ…ずっとね?』
ふふっと、ウォルテライト女神様は、本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。
『その前に…』
と、ウォルテライト女神様は上を見上げながら
『彼には、少しの間大人しくしてもらいましょう。』
"彼"とは、魔導師長の事だろう。"大人しく"とは一体…と、体が強ばる。
『心配しなくても大丈夫よ?少し眠ってもらうだけだから。』
あたり一面、先程目にした雲一つ無い真っ青な空に居るような空間。ただただ青い空間が広がっていて、そこにポツンとテーブルと1人掛けのソファーが二脚置かれている。そこに今、ウォルテライト女神様と私がテーブルを挟んで座って居る。
『それじゃあ、そんなに時間も無いから、サクサク説明するわね?分からない事があったら、その都度遠慮なく訊いてくれるかしら?』
「分かりました。宜しくお願いします。」
座ったままだったので、頭だけ下げる。
『先ずは確認をー。ミューは、前世の自分の名前を思い出せたかしら?』
ウォルテライト女神はは、ニッコリ微笑みながら私に問い掛けた。
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