上 下
4 / 5

2(野ションしないままバスに行っちゃったend)

しおりを挟む
「…りせ?有瀬?」
「…ああ、何?」
「いや、飯食ったしそろそろ降りよーぜって。…なぁ…お前小便行っとけよ」
突然耳打ちでヒソッと囁かれた言葉。
「ソワソワしすぎ。今から山降りて、バスだぜ?もたねぇだろ」
「で、も…」
「荷物持っててやるから。ほら」
無理矢理背中を押されて青いタイルを踏む。
(虫…いる、)
薄く砂の被った便器、地面を走る大きな虫。それだけで鳥肌が立って、逃げ出したくなる。薄汚れた便器でも、16年間の習性は、脳に刻み込まれている。白い陶器を見ると、おしっこが迫り上がってくる。
「~~~っ、」
おしっこ、でも、虫が。トントンと足を踏んで、ジャージを引っ張り上げて。便器の水に巻き込まれているハエが、地面をわさわさと歩き回る足の多い虫が気持ち悪い。居ても立っても居られなくて、外に出た。
「あ、帰ってきた。ちゃんと出来たか?」
「う、うん、」
「お、成長。皆先行くって。急ぎ目で行くか」
「…ん、」


 たっぷりのおしっこを抱えたまま、バスに乗り込む。ああ、少なくとも1時間はトイレに行けない、それを考えるとブルリと体が震えた。

「んっ、っふ、」
半数以上の生徒が寝ている中、パンパンの水風船を抱えた俺は眠れないでいた。膝を閉じたり開いたりして、紛らわせる。隣に座っている田中はうつらうつらと船を漕いでいて、今にも寝てしまいそう。
何度も何度も座り直して、時折ジャージを引っ張って。
(まだ…5ふん…!?)
体感30分だったのに、時計を見て絶望する。おしっこが、したくてしたくてたまらない。出したくて出したくて、それしか考えられなくて、頭の中はおしっこと便器で埋め尽くされている。
(ああああ…といれといれといれといれ…)
ガタガタと座席が揺れるたび、出口がキュンと疼く。まだ漏らしそうなほど、前を握りしめるほど切迫詰まってはいないが、いつこの均衡が崩れるかは分からない。いつ、あの恐ろしいおしっこウェーブが来るか分からない。
ガタッ…
もじっ…
ガタタッ…
「っ、~~~、」
もじもじっ、
腹あたりのジャージのチャックを握りしめ、内股を重ね合わせ、尻を突き出し左右に揺れる。おしっこ、おしっこおしっこおしっこおしっこおしっこ。といれ。早く。着いて。早くっ、早く早く早く早く!!!!!
こんなの、小学校でも中学校でも経験したことない。あの時よりもずっと膀胱は育ったはずなのに。おしっこ、おしっこ、おしっこ。
 ふと、気づいた。ああそうか。俺、おしっこを我慢するの、久しぶりだ。あの時からぐんと育ったおしっこ袋は、休み時間トイレに行きそびれたぐらいでは、半日トイレに行かなかったくらいでは決壊しない。いつも、あーおしっこしたい、程度のものだ。今日は家を出る前、学校を出る前に済ませた。だけど。あまり催さなかったタイミングで行ったに過ぎない。水分があまり排出されないままバスに乗り込んでしまった。トイレに行けないという緊張が、秋晴れ特有の肌寒さが尿意を加速させたのだ。

 こんなしょうもない自己分析をして、でもどうしようもない状況で。もどかしくてもどかしくて仕方がない。途中で誰か…。そう言えば小学校の頃は、自己管理のなってない奴らがトイレを訴えてサービスエリアに寄れて事なきを得たことがあったっけ。だからこんなに切羽詰まることが無かったのか。
「っ、ふっ、んっぁ、」
ガタンっ!!!!
大きく座席が揺れた。急ブレーキだろう。
「ぁっでっでぅ、」
小さな叫びが思わず声に出てしまった。今にもヒクヒクと悲鳴をあげて、力の入れ方を間違えればチビってしまいそうな前をぎゅうううう…と握りしめる。
「っはぁっはぁ~っ…~」
両手でグニグニと揉みくちゃにして、内股を何度も閉じたり開いたり。おしっこを我慢しています、と体中で体現していて、誰が見てもわかるだろう。1番後ろの窓際でよかった。
とにかくおしっこがしたい。駆け込みたい。早く着いてくれ、そんな願いを込めて、ギュッと前を握り直した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

笑って誤魔化してるうちに溜め込んでしまう人

こじらせた処女
BL
颯(はやて)(27)×榊(さかき)(24) おねしょが治らない榊の余裕が無くなっていく話。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

風邪ひいた社会人がおねしょする話

こじらせた処女
BL
恋人の咲耶(さくや)が出張に行っている間、日翔(にちか)は風邪をひいてしまう。 一年前に風邪をひいたときには、咲耶にお粥を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったりと甘やかされたことを思い出して、寂しくなってしまう。一緒の気分を味わいたくて咲耶の部屋のベッドで寝るけれど…?

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...