女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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「どうしよっか…動けるうちに帰っちゃおっか」
 しゃがんだ先生の肩に手を乗せ、何とか体勢を保っている俺にされる提案。まあ妥当な判断だろう。濡れて気持ち悪くなった尻をも自分で拭けないんだから。
 帰りたくない。そうは思うも口には出せない。出してはいけない。それは多分、ここはそういう場所じゃないから。ここは一時的に休むところ。体調が悪くなったら自分の家に帰らなくてはならない、先生と生徒、ただそれだけの関係性の人に踏み込ませていい問題ではない。
「…うん、」
「親御さんって家に居たっけ」
「…いい、1人でかえる」
「いやでもそんな状態じゃ…」
「あの人車もってないから…いっしょだよ」
「…んー…やっぱ心配だから先生の車で送るよ」
「…ぇ、いいよ、おれほんとに、」
まともに着替えることも出来なくて全部全部やってもらっているんだから、そう言いたくなるのはわかる。でも、今の時刻は12時。まだ帰りたくない。流石に今日は夜になったら帰ろうとは思うけど、それまではカラオケとかネカフェとかで逃げていたい。あの人と一緒の空間になるべく居たくない。
「だーめ。途中で倒れたらどうすんの。大人しく乗ってきなさい」
「………はい…」






「…せんせ、といれ寄れる?」
「どした?気持ち悪くなっちゃった?」
「…え…と…ぅん…」
「りょーかい。そこのスーパー寄ろっか」
もちろん嘘である。少しでも家に着くのを遅らせるための。そんなことを知らない先生は、袋を手渡し我慢しなくていいからね、と背中を軽く摩ってくれて、良心が痛い。
「場所わかる?着いてこっか」
「…いい、」
比較的早く駐車場に収まった車。いってらっしゃいとシートベルトまで外してもらったのに、力がはいらない。何度も何度も足に力を入れるけど、頭がぐらぐらして本当に酔ってしまいそうになる。
「動けない?」
「ごめ…やっぱいい…」
「ここで吐いちゃおっか。動くのしんどいでしょ」
背中を摩りながら胃の辺りもゆっくり温めてくれる先生。何で嘘ついちゃったんだろう、後味の悪い後悔が胸を締め付ける。
「やっぱだいじょうぶ…マシになった…」
「そう?んじゃあ今のうちに早く帰っちゃおっか」
 嫌だ、帰りたくない。今急に事故が起こって3時間ぐらい渋滞すればいいのに。このナビが俺の家を間違えてくれたらいいのに。
 そんなしょうもない夢も叶うわけない。徒歩15分のコンビニが見えたと思ったら茶色い屋根の家が見えてくる。
 腕を担がれるようにして玄関の前に行くと、チャイムも鳴らしていないのにあの人が出てくる。
「あらーー…わざわざすみません…私が迎えに行くべきなのに…」
「いえいえ、あ、女性の力じゃ大変でしょう。このままお部屋の方まで…」
「本当にすみません…助かります…あれ、制服は…」
よく言うよ、分かってるくせに。心配面でおでこやら頬やらを触るその手が気持ち悪い。
「あー…少し気分が悪かったみたいで…こちらで洗濯しておきますので元気になったら取りに来てもらえれば…」
「それはそれはご丁寧に…本当にありがとうございます…あ、こっちです先生」
俺の部屋のドアが開いた瞬間、血の気が引いた。ものの少ない部屋の真ん中にドンと置かれたオムツ。先生は気づいていないフリをしてくれているけどそれが逆に辛い。
「…俺、いらないって言っただろ」
顔が熱い。耳まで多分真っ赤だろう。
「だってあなた毎晩失敗するじゃない。それで寝不足で体調崩したんでしょ?」
「…うるさい、」
「先生すみませんねぇ…この子、学校でも失敗したんでしょう?」
「いえいえそんな…」
「最近急にしちゃうようになって…もう高校生なのに…」
「そー…うですねぇ…でも珍しくないんですよ。気づかないうちにストレスが溜まっちゃってるのかも…」
「ストレスですか…やっぱり病院、いった方が?」
「一度行ってみてもいいかもしれないですね。あとはまあ、あまり気にしないで良いですよ。ちゃんと寝る方が大切なので」
「そうですか…何を抱えちゃってるんだろうこの子は…」
あんただよ、そのストレスの元凶は。ジリジリと胃が焼けるみたいに不快で死にそう。
「最近はずっと帰ってきたらすぐ部屋に篭っちゃって…こんなになるまで気づけなくて…ごめんねぇ…」
「触んなって!!!ストレスなんてあんたに決まってんだろが!!」
もう顔に指が触れただけで鳥肌が立つ。声を聞くだけで血の気がひく。
「あやせ、」
「そーやって母親面して、こんなもん買ってきて、マジで気持ち悪い…」
「あやせいいすぎ、」
「母さん何で死んだんだろ…こんな血も繋がってない人と住まなきゃならないないなんてマジで地獄だわ…」
「綾瀬っっ!!!!」
突然部屋に響く怒鳴り声。誰のものかなんて分かんないはずがない。だけど、いつもの柔らかい声を知っているから脳が信じてくれない。
「あやせ、それは言っちゃだめでしょ?あとものに当たっちゃダメ」
ムカついて蹴って倒れたオムツを起こす先生。顔を見てヒュッと喉が鳴った。全然笑ってない。たしなめるような、ひどく冷たい声色。怒られている、初めて、先生に。
 シーンとした室内に啜り泣く声が響く。顔を覆って白々しい。
「…わかるよね?この服、誰が洗濯してくれてるの?ご飯を作ってくれてるのは誰?」
 先生まであの人と同じようなこと、言うんだ。スゥッと何かが冷えていく。イライラする。
「…何もしらないくせに」
先生は悪くない。俺が反抗期で、暴言をぶつけてしまったから。この環境を我慢できない俺が悪い。でも俺は我慢できない。もう、本当に嫌で嫌で仕方ない。
「出てって…もーむり…ひとり、なりたい…」
「あやせ…」
「おねがい、ほんと、むりだから、」
力の入らない手で先生とあの人を外に押しやってドアを閉め、鍵もかける。外で何かを言っているようだけど、聞きたくもない。ジャージのまま着替えることもせずベッドに潜った瞬間、目に溜まった涙が枕に落ちた。







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