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エピローグ
エピローグ
しおりを挟む小春日和の空を夕陽が赤く染め上げていた。
セピア色に染まった世界には微風が吹いていた。
誰もいない廃れた小さな公園をカラスが歩く。
砂場、滑り台、ブランコ。
雲梯、ジャングルジム、木造のベンチ。
剥げた塗装、赤い錆び付き、まばらに生えた雑草。
少ない遊具と側に立つアパートが長い影を落としている。
そこに、新聞を握り締めた会社員の男が疲れた様子で歩いてきた。
白髪交じりの短い黒髪はだらしなく乱れ、顔には剃り残された無精髭。
痩身に着せたスーツには皺が入り、みすぼらしくよれている。
その見るからにくたびれた男は、よろめきながらベンチに歩み寄る。
そして倒れるように腰を下ろすと、震える手で新聞を開いた。
またも警察不祥事。証拠品保管庫から誘拐事件の物証紛失。
男が確かめるように眺めた新聞には、そんな文字が書かれていた。
それは一年前に起きた、男の娘が巻き込まれた事件に関わることだった。
ほどなく新聞は破られた。乱暴にまとめられ、紙くずにされて捨てられた。
男は俯いた。頭を掻きむしり、顔を覆った。
微かな嗚咽のような呻きが、もの寂しげな景色に陰惨な味わいをもたせた。
誘拐された娘は警察に保護されたが、搬送先の病院で姿を消した。
後に残ったのは、首を食いちぎられた女性看護師の遺体だった。
男は戸惑っているようだった。
或いは、恐怖、後悔、または絶望に近いものを感じているようにも見えた。
すべてが誘拐犯の送ってきたメッセージ通りになっていた。
やがて、証拠品が消えることまでも――。
「どうして、あのとき」
男は誰にも聞こえないような声で囁いた。
「違う、俺の所為じゃない。警察が悪いんだ。警察が」
男の乾いた唇から、責任転嫁の言葉が出始めた頃、ひっそりと影が増えた。
公園の入り口に、高校の制服を着た少女が立っていた。
少女はベンチに向かってゆっくりと歩き出す。
たまに覚束なくなるような素振りを見せながらも、着実に近づいてくる。
砂地を擦る、ざらついた足音を鳴らして。
男はそれが迫っていることに気づいているようだった。
だが立ち去りはしなかった。細かく体を震わせ、自己弁護の言葉を呟き続けていた。
やがて足音が止まり、男は肩を跳ねさせた。
隣に誰かが座った。その事実に気づいたようだった。
男はゆっくりと顔を上げて、隣に視線を向けた。
そこには、少女の端整な横顔があった。
肩に届く黒髪、薄い色の肌、何もかもが整いすぎている。
人と見紛うほど精巧に作られた、美しい少女の人形がそこにいた。
その人形が、ガタついた動きで男に顔を向ける。
「た、ダイ、ま」
壊れた機械のような音声が、動きもしない口から流れた。
「オ、父、サん、かえ、ロう?」
「ああ、帰ろう。ごめんな……。うう、ごめんな……」
男が顔を覆って嗚咽を漏らすと、カラスが鳴いて漆黒の翼を広げた。
そして大きく羽ばたき舞い上がり、御影山に向かって飛んでいった。(了)
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