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誘拐犯の独白劇~後編~
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しおりを挟む怖ろしくなりましたか? そうですよね。拍車を掛けるようで悪いですが、お父さんとのやり取りも滞っています。この調子でいくと間に合いませんね。警察にも連絡を入れたようです。警察の協力者から連絡が来ました。これはよろしくないですね。
ふっ、本当に疑り深いお父さんです。賢いと言うべきですかね。既に詐欺ではないと分かっているのに、それでもお金を振り込まないのは、振り込めばあなたが殺されると思っているからでしょう。現実的に考えればそうですよね。誘拐犯の要求になんて、そう簡単には従えませんから。
とはいえ、これでは埒が明きませんね。このままだと間に合いませんから、一か八か、真実を伝えてみますか。お父さんが欺影虫を信じるかどうかに賭けてみましょう。
あ、そうでした。あなたがいつ欺影虫に取り憑かれたかを話していませんでしたね。危うく忘れるところでした。まぁ、話したところで何も変わらないんですけどね。それでも知りたいですか? そうですか。分かりました。では話しましょう。
あなたが欺影虫に取り憑かれたのは、あなたがいつも通り一人で帰路に着いていたときです。あなたは街外れの路地で倒れている瀕死の女性を見つけ、駆け寄り、手を握って励ましたんですよ。画像を見せましょうか。えぇ、はい。この三野瀬愛美さんという人です。家族でキャンプ旅行中に蜘蛛人になってしまった気の毒な人ですね。
愛美さんはあなたに笑みを向けて死にました。
まるで感謝するかのように。
見ている方まで欺かれているような気分になる、実に美しい光景だったと言っていましたよ、千鹿が。愛美さんが、千鹿の追い詰めた正真正銘最後の蜘蛛人でなければ、あなたの行為は素晴らしいものだったと思います。
残念でしたね、本当に。しっかり欺かれましたね。
こちらも余計な手間を増やされて、がっかりでした。ですが、ふふふっ、お喋りできて楽しかったですよ? ずっと胸が痞えたようなところがあったんですが、それが取れました。
たぶん、誰かに胸のうちを聞いてもらいたかったんだと思います。溜まっていたんですよ、鬱憤が。ギリシア神話にありますね。ミダス王の召使いです。分かりませんか? 別に構いませんよ。戻れたらイソップ童話でも読んでください。
最初は、あなたをからかいたい、いじめたい、困らせたいという気持ちしかなかったんですけどね。いつの間にか、自分でも気づかなかった思いが口から出ていました。
懺悔のようなものですかね。分かりませんね。何でもいいです。すっきりしたことに変わりはないので。
さ、もう話すことはありません。お父さんへの説明も終わりましたし、後はただ待つだけです。早く振り込みがあると良いですね。指定口座への入金を確認し次第、欺影虫の駆除を始めます。それが済めば、こんな場所からも解放されますよ。お互いに。
え、あら、大変。
予想外の事態が起きてしまったようです。今、千鹿から連絡が入ったんですが、こちらに警察が向かっているそうです。警察が一枚岩ではないと言ったのを覚えていますか? どうも、嗅ぎ回る人たちがいるようなんです。ここに向かっているのはその人たちですね。
どうやらあなたのお父さんが連絡を入れたことが原因みたいです。
念のために言っておきますが、先ほど私が送った一か八かのメッセージは関係ありませんよ? それ以前にアウトですからね? 私のミスじゃありませんよ?
あら、これは――。
ふっ、ふふふ、千鹿から新たな指示が出されましたよ?
蜘蛛人の駆除は終了したことにするそうです。
あなたは放置だそうですよ。放置。ぷっ、あはははは。
すいません、ああ、可笑しい。
こういうところは私に似てるんですよね。
殺す気も救う気も失せたそうです。馬鹿馬鹿しくて。
表でも裏でもない最悪な結末でしたね。
最後の一頭だったんですけどね。あなたの肉体。
どうなるんでしょう? 警察に保護されて、精神病院に直行ですかね?
それとも隙を見て御影山に入るんでしょうか?
いずれにせよ、また蜘蛛人が繁殖するんでしょうね。
まぁ、仕方ありませんよね。千鹿の命令は絶対ですから。
何しろ、主人なので。
あ、怨んでも構いませんよ?
むしろ、怨みに染まって呪いの人形にでもなってください。
大丈夫ですよ。怨み続けていればすぐになれますから。
有名になれば祓いに行ってあげますよ?
誰かが依頼料を払えば、ですけどね?
ふっ、ふふふ。
あはははは。あはははは。
ああ、すいませんね。重ね重ね。
長く生きてると、色々と腐っちゃうんですよ。
他人の不幸がもう、面白くて仕方ないんです。
だって、こんなことってあります? 放置って。
あはははは。あはははは。
失礼でしたよね? ごめんなさいね?
これじゃ愉快犯と言われても反論できませんね。
また笑っては悪いので、そろそろ失礼します。
私も笑い疲れましたし、警察と鉢合わせるのも面倒ですしね。
名残惜しいですか?
そうですか。
そうですよね。
でも、私には関係ないので。
もう行きますね?
では、さようなら。
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