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日記
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しおりを挟む「なんだって泣き寝入りなんかするんだい」
と訊くと、鳴神はやれやれといった様子で、
「強姦された子はどうして良いか分からないし、親も恥じて、届け出ないことが多いから、そういうことになる。まして、ここは田舎だ。取り締まる法律は存在するが、ほとんど機能していないといっても過言ではないんだよ」
と、溜め息まじりに言った。
「ははぁ、あの男は、そこに目をつけたってことか」
「あぁ、大丈夫だと覚って犯行に及んだ訳さ。あの男はね、良さん、十二歳の義理の娘と、その友人を二人、強姦していたんだよ。手口もなかなかに狡猾でね、飲み屋で知り合った女にまだ幼い娘がいることを知って、内縁の妻にするところから始まるんだ。まずは義理の娘を犯して、痛めつけて、『母親ともども殺されたくなかったら友達を呼んでこい』と言ったそうだ。怯えた娘は言うことを聞いて、友人を呼んだ。そうやって一人ずつ手篭めにして、『口外すれば家族もろとも殺す』と脅したんだ」
俺は胸やけを起こしたようになって、
「親は気づかんかったのか」
と、苛々しながら言った。すると鳴神は、
「一人は親に相談したんだが、その親がまた酷くてね、汚らわしいとか恥ずかしいとか言って子供を家から追い出してしまったんだよ。その子は行き場をなくしたもんだから、警察に行こうとしたんだが、途中で怖くなったらしく、どうして良いか分からなくなって、泣く泣く男の元に戻ってしまった。すると、酷い暴力が待っていた。薬も打たれた。見せしめにされたのさ。子供たちは男が怖くて、どんな命令にも従った。男は最初からそれが目的だったんだろうが、強姦した子供たちに春を売らせていたんだ。中には初潮前の子もいてね、女としての機能を果たせなくなったのもいるんだよ。雀荘に来てるお客さんから、あの男は鬼畜生だって話を聞いてね、気になって調べてみたら、悪い証拠が出るわ出るわ」
と言った。俺はもう不快感と憤りで、
「なんて奴だ。そんなものは社会のクズだ。百さんが見過ごせんのも分かる」
と言ったのだが、鳴神は笑って、
「良さんは僕を買い被ってる。そう思ってくれたのは嬉しいが、大間違いだ。僕がそんな風に思う訳がないだろう。興味があって調べはしたが、誰かに依頼された訳でもないし、ただ働きするほど暇でもない。子供たちにも話は聞いたが、僕に殺しを依頼するだけの金は持っていなかった。後払いは受け付けてないし、善意で飯が食える訳でもないから、放っておくことにしたんだよ」
と言った。
「いや、でも殺したんだろう」
と訊くと、
「まぁ、最後まで聞いてくれ。放っておくことにはしたが、飯の種にできそうな話であることには違いない。どうしたものかと考えたところでピンと来た。男から金を巻き上げれば、被害に遭ってる子供らが依頼を出したのと変らないだろうってね。男の手にある金を稼いだのは彼女たちだ。もしそれが手元にあったなら、鬼畜生を成敗してくれと、僕に救いを求めるに違いない。と、勝手にそういうことにしておいた。それで良さんにイカサマ麻雀の話を持ち掛けたのさ。良さんが乗らなかったら、この話は忘れようと思っていた。だけど乗った。初っ端が大事だったが、良さんは手先が器用だから、上手いこといった。スカンピンだ。そうなると取り返しに来る。思った通り、あいつは連日顔を出した。けど肝心の良さんが来なかった。手元の額じゃ依頼料には足りない。暴力に訴えて金を奪ってしまえば楽だが、それでは仕事でも何でもない。単なるごろつきの恐喝だ。それは僕のポリシーに反する。あの男が来なくなれば、計画は失敗。いつまでも奴の金が続くという訳でもないし、熱も冷めてきているように見えた。ああ、これは駄目だなって依頼の破棄を考え始めたところで良さんが来た。まったく絶妙な焦らし方をする人だと思ったよ。まぁ、それはいいか。知っての通り、イカサマは失敗した。これで終わりだと思った。だけどさ、そこで面白いことが起きた。良さんが財布を置いていったんだ。あの男がそれを懐に入れたら僕の勝ち。そう思って見てたら、そうなった。笑ったね。客の財布を取り返すのは僕の仕事の範疇だ。お客さん困りますよって、首根っこ掴んで店の裏に連れて行った。そしたら奴は、とんでもなく狼狽えちゃってね、こっちはまだ何もしてないのに、良さんの財布と自分の財布を出したんだ。疚しいことがあるから、そういう風になるんだろうね。で、まぁ、一応訊いたんだよ。何でこんなことしたんだって。あ、先に言っておくけど、僕は、良さんの財布を盗んだことを訊いたんだよ。それがさ、奴は、『目くじら立てるようなことでもないだろう。減るもんじゃないんだから。あの子らも、どうせ、あと何年かしたら普通に誰とでもやるだろう。それなら、早いうちに覚えておいた方が良いじゃないか。俺は教えてやっただけだ。親切心だよ』なんて言うんだよ。実に恣意的じゃないか。これぞ正に悪人って感じだったね。自分の欲求を満たした上での恩着せがましい弁明弁解なんて常人にはできないよ。一体こいつは何を勘違いしてるんだろうと思いながら財布の中身を確認したら、二つの財布の中に入っていた金が、最初に巻き上げた分と合わせると依頼料に達した。言っておくけど、これは恐喝ではないからね。僕が手を出す前に、奴が財布を出したんだ。店で暴れた迷惑料として貰っただけだよ。それと、良さんの金だけど、先読みして貰うことにした。正義感溢れる良さんなら、事情を知れば依頼するだろうから勝手に依頼を引き受けたんだ。という訳で、僕はあの男と、少女を買ったことのあるペドファイルをすべて殺したんだよ。散々な目に遭わせてからね」。
ものは言いようだ。俺は苦笑しつつ、
「そうか。それで、子供らはどうなったんだ」
と訊いた。すると鳴神は神妙な顔をして、
「帰る家のある二人は泣いて喜んだけど、家に帰れなかった子は興味がなさそうだった。薬漬けだったし、頭も大分やられてたみたいだから、分からなかったのかもしれない。或いは、どうでも良かったのかもしれないね。その日のうちに、また春を売りに行ったよ。そうやって生きるのも一つの手段だ。僕には関係のないことだから、その先は知らない」
と、何の感情も含んでいないような口ぶりで答えた。俺には少し寂しさが見て取れたような気がしたが、それもまた定かではない。友人とはいえ気持ちを察するのは難しい。
内容が衝撃的だったので、しっかりと記憶に残っている。
おそらく、一言一句、間違うことなく書けたのではないかと思う。
俺の財布と金の件に関して言えば、まぁ、そうしただろうと思わざるを得なかったので、別段、腹も立たなかった。
見透かされているのは、やや癪ではあるが嬉しくもあった。
「だがやはり、警察に届けるべきだったんじゃないか」
と言う俺に、鳴神は、
「それじゃあ金が貰えないじゃないか。それに害獣駆除は警察の仕事じゃないだろう」
と嘲笑の混じったような笑顔で言い、
「餅は餅屋、害獣駆除にはそれ専門の駆除業者。人の振りする獣もいる。人の皮を被っただけの成りすまし。それはもはや化け物だ。化け物退治は僕の仕事だ。毎度あり」
と続けて、俺の財布を放ってよこした。
言うまでもなく、もとい、書くまでもなく空だった。
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