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日記
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しおりを挟む七月二十二日(木)晴れ
締めて、区切りがついたので、こちらに続きを書くことにした。
日記というのは、日付の区切りをはっきりさせんといかんと思う。
だから、これからは、そうする。
部屋の中が蒸しているので、窓を開けて換気したところ、すぐに涼しくなって眠気が出た。窓を閉めて、少しばかり横になった。すると、体に痒みが出た。
耳の横を、細い羽音が通り過ぎた。俺は舌打ちした。蚊だ。迂闊だった。
一体、何匹入り込んだか分からない。飛び起きて、文机の端で蚊取り線香を焚いた。その燃えてゆくのを見ながら、これを書いている。
蚊はこれで死ぬが、人に害はないのかと考えることがある。
生き物を殺す訳だから、害がない訳はないだろう。
それで、使うことに抵抗があるが、俺は体を刺すとか、刺されるとかいう方が、もっとおぞましく感じるので、やむなく使った。
こういうことを書いていると、あの友人が話していたことを思い出す。
戦時中、捕虜に対して行われた人体実験だ。
殴る蹴るは当たり前で、眠らせないとか、切るとか、刺すとか拷問して、人間の耐性を調べていたらしい。
ドイツでは、ユダヤ人が虐殺されたと言っていた。
色々と話していたが、その中でも毒ガスが特に印象に残った。
俺は、そのとき飲み屋で友人と飲んでいたのだが、気分が悪くなってしこたま吐いた。
何だってそういう話になったのかは、よく覚えていない。いや、思い出した。
友人は、人の痛みだとか、苦しみだとかを見ても、何も感じないと言っていた。
そうだ、確か、こんなことを言っていた。
「僕は幼い頃、すべての生き物に平等に愛着を持っていたんだ。異常だよ。食卓に着いても何も口に運べない。野菜でさえ口に入れたくないんだ。まるで人らしくないだろ。それが、ちょっと変わった経験をしたら、すぐに頭のどこかが壊れてしまって、人らしくなれたんだよ。いや、どちらかと言えば化け物に近いかな? 感覚が薄いんだよね」
この言葉を皮切りに、
「そういや、若狭湾で獲れた人魚を実家で飼っているんだけど、それを捌いて食べたら人肉を食べたことになるのかな。人肉の味はどんなものだろうか。興味があるんだが、踏み越えてはいけない一線のような気がしていて、まだ手が出せていないんだよ。戦時中はカニバリズムが起きやすいよね。誰か人肉を食べたことのある知り合いはいるかい」
などと悪趣味な話になって、その流れで人体実験の話が続き、俺は吐く羽目になったのだ。
蚊取り線香を、毒ガスと結びつけて考えるようになったのも、友人がそういう話をしたからだ。あいつは、ろくなもんじゃない。そのとき、
「戦争に行っていたら、どんだけ殺せたのかね」
とも言っていた。遠いところを見て、憧れるように言っていたので、
「不謹慎だぞ」
と俺は堂々と批判した。そしたら、笑われた。手を叩いて、さも可笑しげに笑われて、不愉快になったのを、今思い出した。友人のことを、思い出すのはもうやめる。
気分が落ち込んだが、薬を飲むのはやめておく。
眠れなくなるのは、良くない。
そろそろ、蚊も死んだろうし、一眠りする。
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