【完結】彼此繋穴~ヒコンケイケツ。彼の世と此の世を繋ぐ穴~

月城 亜希人

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日記

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 七月二十一日(水)晴れ

 日記を持っていくのを忘れたので、二日書いていない。帰ってから書こうと考えていたが、取り立てて書くようなこともなかったので、省くことにした。

 女が馬鹿にしたので、離れ屋に戻ってきた。もう一晩くらいは泊めて欲しかったが、

「良ちゃん、怖がりねぇ。私が代わりに帰ってあげようか?」

 と子供を相手にするように笑われたので、恥ずかしくなってしまって、

「これ食ったら帰るよ」

 と、ふて腐れた振りをして、女が謝るのを聞きながら飯を食い、金を置いて帰った。

 女は、良い人だ。俺の二つか三つ上のはずだが、本当のところは知らない。夜の町で、「私を買ってくれませんか」と声を掛けられてから、こういう仲になった。

 どうして夜鷹みたいなことをしているのか訊ねたが言わない。

 同じ身を売るにしても、どこかで働かせてもらった方が良いのではないかとも言ったが、雇ってくれる店がないし、警察にも取り締まられるから、と言って聞かない。

「パンパンで良いのよ、気楽だし」

 と意地を張っているように言う。

 身の上について訊くと、その都度、寂しそうな顔になるので何も訊かないことにしている。だから、名前すら知らない。

 訊いたことはあるし、言いもするのだが、訊く度に名前が変わるので、どれが本当か分からない。だから女と書いている。

 一緒にいるときは、お嬢、とか、姉さん、とかで事足りるので、名前なんて知らなくとも、別に不便はない。俺も、あんまり自分のことを言わないし、女も訊かない。それで良いと思っている。

 俺が親から貰った金の半分ほどは、この女に流している。良い人だし、危ないことはして欲しくないが、言っても聞かないので止められない。

 薬局のおばさん同様、悪癖があるので、そのうち死ぬかもしれないと心配している。薬をやっていないだけまだましだが、その性的嗜好は、おばさんのよりも性質が悪いので、何の救いにもなっていない。

 女は痛みが好きなのだ。中でも鋭い痛みを特に好むらしく、ことの始めには必ず刃物を持ち出してきて、枕の側に置く。そして、ことの最中に気が昂ぶると、刺してくれとか、切ってくれとか言いだすのだ。

 当然、頼みを聞いてやったことはない。正確にはしようにもできない。俺は刃物を見ただけでその場から逃げ出したくなる。そんなことを頼まれたってできる訳がないのだ。

 しかし、女の白い肌に浮かぶ桃色の創傷痕は、会う度に増えていて、それが、自分でつけたものなのか、他の男につけられたものなのか、気になっている。

 他の男が切っているとしたら、そいつをどうにかしないと危ない。

 女は美人だ。そして妖しい。惹きつけられて、願いを聞いてやる奴がいたとしても不思議はない。下手をすれば、殺してしまう奴が出てくるかもしれない。

 それは駄目だ。許せん。

 女がいなくなると、俺は寂しい。

 惚れているのだ。いてもらわなくては、生きていけない。
 
 
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