【完結】彼此繋穴~ヒコンケイケツ。彼の世と此の世を繋ぐ穴~

月城 亜希人

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誘拐犯の独白劇~前編~

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 では、どうしてそうしなかったんです? 真面目そうなのに。

 ああ、なるほど、そうですか。理由は、『意味がないから』ですね?

 ふふふっ、合っているみたいですね? そういう感情の色です。驚きと恐怖がない交ぜになったマーブル色です。あなたの場合は、そこに興味と好奇心と畏怖に近い色が入ります。実に面白い色をしています。考え方と同じで素晴らしいですね。芸術的です。

 たぶん、あなたは、『羊が群れを成しても、狼に襲われれば必ず犠牲が出る』と思ったんじゃないですか? 自分が助かるために誰かを犠牲にするのも、誰かが助かるために自分が犠牲にされるのもいやだった。そうですよね?

 前者の場合、重い荷物を背負って生きなくてはならなくなりますし、後者の場合は怨みを抱いて死ぬことになってしまう。

 だから、あなたは一人で良かった。いえ、一人が良かったんですよね?

 一人きりで帰路に着くのは心細かったでしょうね。ですけど、その積極的に孤独に向かう姿勢は評価に値しますよ。人を迂闊に信用しないのはお父さん譲りですかね?

 そのお父さんは、ようやく私を誘拐犯だと認めてくれたようです。『今すぐ娘を解放するなら警察に通報しないでやる』だそうです。ふっ、私を逆に脅してきましたよ。あなたのお父さんは交渉上手かもしれません。この場合、まるで無意味な交渉ですが。
 
 私は主人から二つの選択肢しか与えられていません。

 百万円を受け取ってあなたを救うか、受け取れずにあなたを殺すか。

 お金を貰わずにあなたを解放することはできないんです。

 少し待ってくださいね。

 はい、ここに姿見を用意しました。見えますか? それが今のあなたです。

 驚いたでしょう? そうですよね。見知らぬ女子高生が映っていますからね。

 これ、すごいですよね。人形ですよ。

 先ほど話したテレビ番組の関係者が所有していたものです。駆除ついでに貰いました。

 リアルドールと言うらしいです。知ってます? 男性用の愛玩具ですね。

 ラブドールとも言うそうですよ。いやらしいですね。

 つまり、あなたはお人形さんになっているということです。

 だから動けないということです。拘束も不要です。

 では、あなたの目の前にいる女性は誰だと思います?

 今、麻袋を取りますね。

 はい、見覚えがあるでしょう? 本来、こちらが鏡に映るはずの姿ですよね?

 そう、この女性はあなたです。間違いありませんよ?

 よく眠っているでしょう? 薬を打ってありますからね。

 あら、恐怖の色が濃くなりましたね? 大丈夫ですよ。安心してください。

 これは、あなたを救うための措置ですから。

 さて、状況がまた一つ進みましたね。とはいえ、まだ序の口です。謎が増えただけで、何も解決していませんからね。これからそれを解き明かしていきましょう。

 ここに、古びたノートがあります。

 これは、昭和二十三年の夏につけられた、ある人物の日記です。

 この日記の中に、現在の状況を理解するために必要な情報が含まれています。

 今から、あなたの魂をこの日記に触れさせます。

 何があったのかを、自分の目で確認してきてください。

 それでは、行ってらっしゃい。

 
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