白猫様は悩める乙女の味方なり~こちら、しろねこ心療所~

恵喜 どうこ

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case2 浜崎千歳『恋せよ乙女、下着を捨てて』

第10話【モニタリング】恋せよ乙女、下着を捨てて

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「本当にその節はいろいろすみませんでしたっ!」
「いえ。私のほうこそ失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」

 生霊事件から一週間後、私は『しろねこ心療所』を訪れていた。
 電車で40分。
 一時間に一本しかないバスに乗ること30分。
 『神代山入り口』バス停で降りて山道を登ること20分。
 人里離れた辺鄙な場所へわざわざ足を運んだのは他でもない、非礼を詫びにきたのだ。
 白夜様のおかげで命を狙われることもなくなった。
 彼にしても、彼の生霊にしても、出てくることはまったくなくなったのだ。
 完全に別れた状態になったから、その後の彼がどうなったかも、今はもうわからない。
 でもこれでやっとモラハラの呪縛から解き放たれたんだと思う。
 この先、彼のことを思い出すことは二度とない。
 黒歴史にはなるだろうけど。

「これ、三日月村のみかんの瓶詰じゃないですか! 実は白夜さんはみかんが大好きなんですよ」
「猫は普通柑橘系を嫌がると思うんだけど、この間のほら、喫茶店で。プリンアラモードに乗っていたみかんをおいしそうに食べていたから」

 久能先生がフフッと笑みをこぼした。
 縁側で日光浴をしながら、のんびりくつろいでいる白夜様がピタンッと床板を打つ。
 お腹を見せていることからも、今はリラックスタイムのようだ。

「あの……久能先生。今度来るときはまた白夜様の好きなおやつを持ってきたいんだけど、みかんのほかに何かあります?」
「ああ、それでしたら……」

 私の耳元でコソコソと久能さんはささやいた。

「え? 本当ですか?」
「ね? かわいいでしょう?」
「本当に。かわいすぎて萌え死にそう」
「あのプルプルが大好きなんですよ。お皿の上でゆれるときには一緒に体ゆらしてるんですから」

 私たち二人のやりとりが気に入らない白夜様がじろりとこちらをにらみつける。
 目が三角形に変化していて、ひげがピンっと強く伸びている。

「今度、持ってきますね! キタムラヤのぷるぷるプリン」
「だそうですよ、白夜さん! よかったですね!」

 白夜様が起き上がった。
 片手を突き出し、ぐんっと伸びをする。
 それから前足を行儀よく揃え、縁側に座り直した。
 エジプト座りだそうだ。
 私たち二人のことを警戒しているのだと、隣でこそっと久能先生が説明してくれた。

 白夜様が「ウナア」と小さく鳴く。
 まるで「いいかげんにしろよ、愚民ども」とでも言いたげに――

 かくして、私は『しろねこ心療所』の大ファンとなった。

「恋をしろ……か。新しい恋は当分ムリかもなあ」

 ひょんなきっかけから出会った彼、白夜様の憑依後のお姿を思い出す。
 
 また会いたい。
 そのときはぷるぷるプリンを「あーん」ってしたい。

 キタムラヤでぷるぷるプリンを買って帰ろうとバスに揺られながら、私は新しい恋に思いを馳せた。
 
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