61 / 94
piece7 卒業式、前日
バスケ部の2人組
しおりを挟む
翌日は、金曜日に行う卒業式の準備で、学内が湧き立っていた。
悠里はその中をひとり、すり抜けるようにしながら教室に向かう。
「橘さん!」
隣のクラスを通りかかったときだった。
聞き覚えのない声で苗字を呼ばれ、悠里の胸に緊張が走る。
身を固くしながら振り返ると、そこには笑みを浮かべた2人組がいた。
隣のクラスの人で、今まで特に話をした記憶はない。
しかし、この2人は確か――
「ねえねえ、橘さん!」
思考がまとまる前に、更に声を掛けられ、悠里は慌てて笑顔を繕う。
2人組は、ニコニコと悠里の顔を覗き込んだ。
「昨日、先に帰っちゃったんだね!」
「……え?」
問いかけの意味がわからず、悠里は目を瞬かせた。
2人組の笑みが大きくなった。
「カンナ会だよ、カンナ会! 昨日、カラオケにいたんでしょ?」
思いがけず飛び出した名前に、反射的に身体が竦んだ。
しかし、2人は悠里の反応を気に留めることなく、楽しげに話し続ける。
「ウチらも昨日、カンナ先輩からお誘い貰ってね? 部活を早退けして、急いで行ったんだけど、もう橘さん帰った後だったー」
「そうそう! 行ったらなんか、カンナ先輩と、勇誠の人2人しかいなくて! あれ?もっと人いるはずじゃなかったっけ?って」
ケラケラと、2人組は明るく笑い出した。
悠里は唇を噛み、2人の顔を見つめた。
――そうだ。
この人たち、バスケ部だ……
「でも橘さん、カンナ先輩と仲良かったんだね? なんか意外!」
「あ……いいえ、そういうわけじゃ……」
何とも説明のしようがなく、悠里は口籠もる。
「カンナ会に招待されたってことは、橘さんもカレシ募集中だ! よろしくねー!」
悠里は2人を見つめ、躊躇いがちに問いかけた。
「あの……カンナ会って……?」
2人は一瞬、顔を見合わせ、笑い出した。
「カンナ会はカンナ会だよー! 他校男子とのミーティングみたいなもん!」
「まあ、ぶっちゃけて言えば、合コンだよね!」
楽しげに2人は肩を叩き合い、また大きな声で笑った。
「カンナ先輩、勇誠とか、いろんなガッコに知り合いがいるからさあ。定期的に、ウチらバスケ部女子のために、そういう会を開いてくれてんの!」
「そうそう! やっぱウチら女子校だからさ! そういう人がいてくんないと、カレシゲットできないよねー!」
2人は矢継ぎ早に、悠里に向かって語った。
「カンナ先輩、バスケ部辞めた後も、こうやって面倒見てくれて助かるよー!」
「……そうなんだね」
悠里は困ったように眉を下げながら、曖昧な相槌を打つ。
「そうそう!カンナ先輩サマサマ!マジ頼りになるー!」
悠里はその中をひとり、すり抜けるようにしながら教室に向かう。
「橘さん!」
隣のクラスを通りかかったときだった。
聞き覚えのない声で苗字を呼ばれ、悠里の胸に緊張が走る。
身を固くしながら振り返ると、そこには笑みを浮かべた2人組がいた。
隣のクラスの人で、今まで特に話をした記憶はない。
しかし、この2人は確か――
「ねえねえ、橘さん!」
思考がまとまる前に、更に声を掛けられ、悠里は慌てて笑顔を繕う。
2人組は、ニコニコと悠里の顔を覗き込んだ。
「昨日、先に帰っちゃったんだね!」
「……え?」
問いかけの意味がわからず、悠里は目を瞬かせた。
2人組の笑みが大きくなった。
「カンナ会だよ、カンナ会! 昨日、カラオケにいたんでしょ?」
思いがけず飛び出した名前に、反射的に身体が竦んだ。
しかし、2人は悠里の反応を気に留めることなく、楽しげに話し続ける。
「ウチらも昨日、カンナ先輩からお誘い貰ってね? 部活を早退けして、急いで行ったんだけど、もう橘さん帰った後だったー」
「そうそう! 行ったらなんか、カンナ先輩と、勇誠の人2人しかいなくて! あれ?もっと人いるはずじゃなかったっけ?って」
ケラケラと、2人組は明るく笑い出した。
悠里は唇を噛み、2人の顔を見つめた。
――そうだ。
この人たち、バスケ部だ……
「でも橘さん、カンナ先輩と仲良かったんだね? なんか意外!」
「あ……いいえ、そういうわけじゃ……」
何とも説明のしようがなく、悠里は口籠もる。
「カンナ会に招待されたってことは、橘さんもカレシ募集中だ! よろしくねー!」
悠里は2人を見つめ、躊躇いがちに問いかけた。
「あの……カンナ会って……?」
2人は一瞬、顔を見合わせ、笑い出した。
「カンナ会はカンナ会だよー! 他校男子とのミーティングみたいなもん!」
「まあ、ぶっちゃけて言えば、合コンだよね!」
楽しげに2人は肩を叩き合い、また大きな声で笑った。
「カンナ先輩、勇誠とか、いろんなガッコに知り合いがいるからさあ。定期的に、ウチらバスケ部女子のために、そういう会を開いてくれてんの!」
「そうそう! やっぱウチら女子校だからさ! そういう人がいてくんないと、カレシゲットできないよねー!」
2人は矢継ぎ早に、悠里に向かって語った。
「カンナ先輩、バスケ部辞めた後も、こうやって面倒見てくれて助かるよー!」
「……そうなんだね」
悠里は困ったように眉を下げながら、曖昧な相槌を打つ。
「そうそう!カンナ先輩サマサマ!マジ頼りになるー!」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる