愛するということ

緒方宗谷

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39.変態同盟

1.陸とマドレーヌ

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「で、なんでお土産がコンビニのマドレーヌなんだよ」
 教室のベランダ側にある自分の席で、怪訝そうな顔をする陸が小栗に言った。
「わはははは、地元の銘菓を買おうと思ったんだけど、電車(の時間)まで1分しかねーでやんの。
 それで、家の近所のコンビニに寄った時にマドレーヌ見つけて、これだって思って買ってきた」
「それで、何でマドレーヌ?」
「昼に飯食った時に、手作りマドレーヌも食ってさ、スッゲー美味かったんだよ。それ思い出して、これでいいやって思って」
 渡されたマドレーヌを受け取って、しげしげと見ながら、陸がツッコミを入れる。
「栗ちーの話だと、食ったの寺っちだろ? 食べてねーじゃん」
「ほんとだ。まあ気にすんな」
「適当だな」
「適当だよ。今気付いたのか?」
「知ってたよ」
 間髪入れずに言葉を返した陸に、小栗が破顔する。感情が先に出て、声や態度が追い付かない、といった感じに。
 どこにでも売っているお菓子で、特別珍しくもない。それでも陸は嬉しかった。3年になって小栗と寺西とはクラスが違ってしまったのに、今でも友達でいてくれたからだ。
 シャーペン事件から年度が変わって学年も上がった。今では話題に上ることもないし、陸の取り巻く環境も事件前と変わらなくなった。
 有紀子や加奈子ともクラスが変わってしまった。仲たがいしたまま2年の修学式を迎えて、未だにそのままだ。
「美味いな、これ」頬張った陸が言った。
「そうだろ? お前だけへの特別な土産だ」
「俺だけ?」
「ああ、正確には変態同盟メンバーだけに、だ」
「ぶっ!」と吹き出しそうになった陸は、喉にマドレーヌをひっかけて咳き込む。
「何だよ、俺は聖人だぞ」
「嘘つけ、お前も俺と同じ性人だ! 性人!」
 陸は鼻で深呼吸して笑いを飲みこむ。こぶしを作って唇にあて、モゴモゴしながら言った。
「口の中の水分がもってかれる。茶ないの?」
「わがまま言うなよ、水場で飲んでこい」
 陸は、半分無くなったマドレーヌを見た。とても優しい色だ。かじりかけの部分が笑っているようにも見える。
(この笑い方は加奈だな)と陸は思う。(変態同盟ってことは、加奈にもマドレーヌあげたんだろうな)
 3年が終わるまで、まだ7、8カ月ある。陸は、その間に仲直りできるだろうか、と心配になった。
 笑いの余韻を鼻から吐いた小栗が言う。
「上条、今度、同盟でどこかに遊びに行けたらいいな」
 不意の一言に、陸は言葉を返せないまま小栗を見上げた。目があった瞬間、小栗がスピーカーを見やる。
「あ、チャイムだ! んじゃあまたな、上条」
 そう言って肩を叩いてC組から出ていく小栗の背中を見送りながら、陸は最後の一口を頬張る。 
(なんか、最初の一口よりも最後の一口の方が美味い)
 もっと大切に食べれば良かった、と後悔した。

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