9 / 192
3.転校生
2.甦る初恋
しおりを挟む
前髪は目にかかる程度まで長い。だいぶすいているようなので、長髪気味のわりにはあまり長さを感じさせない。奥二重で一重と変わらないが、瞳はぱっちりとしていて眉目秀麗。ホームルームの時間に教壇の横に立つ転校生に、クラスの女子は一斉に色めきたった。
新しい制服が間に合わなかったのだろうか。前の学校の黒い学ラン姿が新鮮だ。
何人かいるブレザーの生徒、白いワイシャツの男子と、エメラルドグリーンのベストを着た女子の中で、たった一人の黒い学ランだから、とても目立つ。
「うわ、なかなか格好良いじゃん」
後ろのほうから加奈子の声が水面の波紋のように広がり、みんなの耳に滲み入る。
180cmを超えているだろうか。他の男子より頭一つ高いように思える。とてもスマートだが、ひょろりとした感じはしない。スポーツをしていたのだろうか。脱いだらすごいかも、と加奈子は思い、同時に無理やり脱がしてやろう、とも思った。
力では敵わないから、実際には出来ない。でも妄想すると、そばでドギマギする有紀子が面白い。「シシシ」と笑いながら、加奈子は有紀子を見た。
先生に返事をした声も悪くなかった。当然声変わりしているはずなのに、少し幼さが残る声質。まろやかでとろみのある聞き心地。まるで鼓膜を撫でられているようだと、女子はみんな思った。
その声は、丸みのある天然水のように柔らかく肌にあたる。少し毛穴がくすぐったい。
サッカー部に誘おうとか、野球部に誘うとか、男子の声が聞こえる。やっぱり男女で見ているところが違う。
しばらく妄想に耽っていた加奈子が、有紀子の様子がいつもと違うことにふと気が付いて、じっと見ていた。有紀子は背をピンと伸ばして、しっかりと転校生を見つめているように思えた。その背中に、少し只ならぬ雰囲気を感じた。
無表情の、というか真剣な真顔の加奈子は転校生を見やる。少しムッとして、もう一度有紀子の背中を見た。
有紀子はビックリして、息をするのも忘れていた。
転校生は、さっき確かにこう言った。
「上条陸です。高知県から来ました。ですが東京出身で、ここが地元です。よろしくお願いします」と。
間違いない陸君だ。有紀子がそう確信すると、急に心臓の鼓動が激しくなった。
「それじゃあ、そこ、真ん中の席に座って」
担任の曽我原が言った。座ると、みんなとあまり変わらない。座高が低いということは、足が長いということか。
真ん中より後ろの席の有紀子は、ホームルームの時間中、ずっと陸の後姿を見つめていた。
加奈子は思った。
(陸君のヤツ、有紀子の写真で見た時よりだいぶ格好良くなっていいなー)
加奈子は、「チッ」だか「ケッ」だか口を鳴らした。一目見て、陸に憧れの念を覚えた。
新しい制服が間に合わなかったのだろうか。前の学校の黒い学ラン姿が新鮮だ。
何人かいるブレザーの生徒、白いワイシャツの男子と、エメラルドグリーンのベストを着た女子の中で、たった一人の黒い学ランだから、とても目立つ。
「うわ、なかなか格好良いじゃん」
後ろのほうから加奈子の声が水面の波紋のように広がり、みんなの耳に滲み入る。
180cmを超えているだろうか。他の男子より頭一つ高いように思える。とてもスマートだが、ひょろりとした感じはしない。スポーツをしていたのだろうか。脱いだらすごいかも、と加奈子は思い、同時に無理やり脱がしてやろう、とも思った。
力では敵わないから、実際には出来ない。でも妄想すると、そばでドギマギする有紀子が面白い。「シシシ」と笑いながら、加奈子は有紀子を見た。
先生に返事をした声も悪くなかった。当然声変わりしているはずなのに、少し幼さが残る声質。まろやかでとろみのある聞き心地。まるで鼓膜を撫でられているようだと、女子はみんな思った。
その声は、丸みのある天然水のように柔らかく肌にあたる。少し毛穴がくすぐったい。
サッカー部に誘おうとか、野球部に誘うとか、男子の声が聞こえる。やっぱり男女で見ているところが違う。
しばらく妄想に耽っていた加奈子が、有紀子の様子がいつもと違うことにふと気が付いて、じっと見ていた。有紀子は背をピンと伸ばして、しっかりと転校生を見つめているように思えた。その背中に、少し只ならぬ雰囲気を感じた。
無表情の、というか真剣な真顔の加奈子は転校生を見やる。少しムッとして、もう一度有紀子の背中を見た。
有紀子はビックリして、息をするのも忘れていた。
転校生は、さっき確かにこう言った。
「上条陸です。高知県から来ました。ですが東京出身で、ここが地元です。よろしくお願いします」と。
間違いない陸君だ。有紀子がそう確信すると、急に心臓の鼓動が激しくなった。
「それじゃあ、そこ、真ん中の席に座って」
担任の曽我原が言った。座ると、みんなとあまり変わらない。座高が低いということは、足が長いということか。
真ん中より後ろの席の有紀子は、ホームルームの時間中、ずっと陸の後姿を見つめていた。
加奈子は思った。
(陸君のヤツ、有紀子の写真で見た時よりだいぶ格好良くなっていいなー)
加奈子は、「チッ」だか「ケッ」だか口を鳴らした。一目見て、陸に憧れの念を覚えた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ドクターダーリン【完結】
桃華れい
恋愛
女子高生×イケメン外科医。
高校生の伊吹彩は、自分を治療してくれた外科医の神河涼先生と付き合っている。
患者と医者の関係でしかも彩が高校生であるため、周囲には絶対に秘密だ。
イケメンで医者で完璧な涼は、当然モテている。
看護師からは手作り弁当を渡され、
巨乳の患者からはセクシーに誘惑され、
同僚の美人女医とは何やら親密な雰囲気が漂う。
そんな涼に本当に好かれているのか不安に思う彩に、ある晩、彼が言う。
「彩、 」
初作品です。
よろしくお願いします。
ムーンライトノベルズ、エブリスタでも投稿しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる