愛するということ

緒方宗谷

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3.転校生

2.甦る初恋

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 前髪は目にかかる程度まで長い。だいぶすいているようなので、長髪気味のわりにはあまり長さを感じさせない。奥二重で一重と変わらないが、瞳はぱっちりとしていて眉目秀麗。ホームルームの時間に教壇の横に立つ転校生に、クラスの女子は一斉に色めきたった。
 新しい制服が間に合わなかったのだろうか。前の学校の黒い学ラン姿が新鮮だ。
 何人かいるブレザーの生徒、白いワイシャツの男子と、エメラルドグリーンのベストを着た女子の中で、たった一人の黒い学ランだから、とても目立つ。
「うわ、なかなか格好良いじゃん」
 後ろのほうから加奈子の声が水面の波紋のように広がり、みんなの耳に滲み入る。
 180cmを超えているだろうか。他の男子より頭一つ高いように思える。とてもスマートだが、ひょろりとした感じはしない。スポーツをしていたのだろうか。脱いだらすごいかも、と加奈子は思い、同時に無理やり脱がしてやろう、とも思った。
 力では敵わないから、実際には出来ない。でも妄想すると、そばでドギマギする有紀子が面白い。「シシシ」と笑いながら、加奈子は有紀子を見た。
 先生に返事をした声も悪くなかった。当然声変わりしているはずなのに、少し幼さが残る声質。まろやかでとろみのある聞き心地。まるで鼓膜を撫でられているようだと、女子はみんな思った。
 その声は、丸みのある天然水のように柔らかく肌にあたる。少し毛穴がくすぐったい。
 サッカー部に誘おうとか、野球部に誘うとか、男子の声が聞こえる。やっぱり男女で見ているところが違う。
 しばらく妄想に耽っていた加奈子が、有紀子の様子がいつもと違うことにふと気が付いて、じっと見ていた。有紀子は背をピンと伸ばして、しっかりと転校生を見つめているように思えた。その背中に、少し只ならぬ雰囲気を感じた。
 無表情の、というか真剣な真顔の加奈子は転校生を見やる。少しムッとして、もう一度有紀子の背中を見た。
 有紀子はビックリして、息をするのも忘れていた。
 転校生は、さっき確かにこう言った。
「上条陸です。高知県から来ました。ですが東京出身で、ここが地元です。よろしくお願いします」と。
 間違いない陸君だ。有紀子がそう確信すると、急に心臓の鼓動が激しくなった。 
「それじゃあ、そこ、真ん中の席に座って」
 担任の曽我原が言った。座ると、みんなとあまり変わらない。座高が低いということは、足が長いということか。
 真ん中より後ろの席の有紀子は、ホームルームの時間中、ずっと陸の後姿を見つめていた。
 加奈子は思った。
(陸君のヤツ、有紀子の写真で見た時よりだいぶ格好良くなっていいなー)
 加奈子は、「チッ」だか「ケッ」だか口を鳴らした。一目見て、陸に憧れの念を覚えた。

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