愛するということ

緒方宗谷

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3.転校生

1.花より団子

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 こういう話は、どこから仕入れてくるのだろう。少し前から転校生が来る、という噂が流れていた。今日正に来るらしい。一部の生徒が、男子なのか女子なのか話題にしていた。
 有紀子の席に椅子を持ってきてお喋りをしていた加奈子が、みんなを見やる。
「ふーん、格好良い人だったらいいねぇ、有紀子」
「え? どっちでもいいよ」
「でも、格好悪い人よりはいいじゃない?」
 何を期待しているのか。意味深な笑みを浮かべて加奈子が笑う。幼馴染みの陸が忘れられないのを加奈子は知っていた。中学2年生の時に、有紀子から聞いたからだ。
 加奈子は初めはいい話だと思ったが、3年の修学旅行の時から考えを変えた。夜寝る前に恋話に花を咲かせていた時、有紀子1人上の空だったのを見て、そう思った。
 陸の思い出が亡霊の様に憑いている。そう思った加奈子は、それからというもの、どの男子が有紀子に好感を持っているかなどを仕入れて、背中を押そうとする。
 元々外交的な性格でもない有紀子は躊躇したが、それでも加奈子は話す機会を設けたりして、進展するか様子を見た。有紀子は観察されているみたいで少し嫌だったが、同時に、加奈子は調整役としての資質がある、と感心した。
「はぁ」
 有紀子はため息をついた。加奈子は楽しそうだった。やる気満々だ。少し顔が良ければ、必ず奨めてくるだろう。お眼鏡に適ったのなら、自分で付き合えばいいのに、と有紀子は思った。
(ああ、大学生の彼氏いるのか)
 女子から見れば、男子はいつまでたっても子供に見える。特に中学生くらいは、本当男子はバカだった。今はさすがに体格差も出たし、頭の中も成長しているけど、大学生には敵わないのだろうか。男友達の多い加奈子であるが、話している様子を見ていると、男子の1個上にいる感じがする。
 高校生になると、殆どの女子は、対等か少し下から目線で男子と話す。それか一歩退いた感じで話す。だが、加奈子は男子との距離が近い。時々あなた男子ですか? と思うほどだ。しかも上から目線。
 卒業したら大学に進学するのだろうか。それとも親の経営する小さな会社を継ぐのだろうか。そうか、会社の跡取りだから、上から目線で人と接することに慣れているのか、と有紀子は妙な納得をした。
 外で就職すれば、加奈子は女性管理職として活躍するのだろう。有紀子は、私の恋路が彼女の成長の糧にされている、と悟る。諦観の念混じりに。
(見返りにクレープをおごらさせてやらねば)
 有紀子は、ふと甘い想像に浸る。
(いや、アイスか? ケーキか? それとも全部か?)
 幸せそうに頬が緩む有紀子の頭の中に、転校生のことは微塵もない。ただただスイーツが渦巻いていた。

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