10 / 192
3.転校生
3.注目の的
しおりを挟む
ホームルームが終わった直後。興味津津のクラスメートに取り囲まれて、陸は埋もれていた。
出身はここ辺りであること。小学生の時に引っ越して高知に行ったこと。根掘り葉掘り訊き出されている。
舞という名の女子が言った。
「それじゃ、私と同じ小学校じゃん、私達友達だったんだね」
見上げる陸に、顎ほどまである黒髪をすきながら舞がはにかむ。だが7歳の時のことだから、お互い憶えていない。
話しかけたさそうにしている有紀子を見かねて、加奈子が落ち着いた声で言った。
「小学校一緒だったみたいだね、知ってる男子?」
陸の話はさんざん聞かされている。加奈子は、有紀子の想い人をフルネームで記憶していなかったが、陸という名前と有紀子の反応から、思い出の彼氏である、と推察した。
有紀子の横顔はいつもと違う。少し赤らんだ頬、何かに期待するかのようにほころびた唇。明らかに恋の予感を感じさせる表情だ。
実際、加奈子の問いかけに対して、有紀子はほとんど上の空だった。有紀子は、何とかして陸のそばに寄りたい、と自分が割り込む隙を探すが、翡翠色の人の壁に縫い入る隙が無い。
表情を消した加奈子が陸を見やりながら、少し小さめの声で有紀子に言った。
「なかなか格好良い男子になったね」感嘆の吐息を吐く。「有紀から見せてもらった写真の面影も残っていて少し可愛い顔もしているけれど、やっぱり男の子らしいね」
「私のこと憶えているかな?」
不意に不安になった有紀子は、教科書を準備しながら言う。
「忘れていてもいいんじゃない?」
「どうしてそんなこと言うの?」有紀子が眉をひそめる。
「冗談よ、冗談。私には恋人がいないから、足引っ張ってやろうと思っただけ」
加奈子には大学生の彼氏がいたはずだ。彼氏いない歴実年齢の有紀子は、今の発言にムッとした。まだ子供の自分がからかわれたように感じた。
「遅ればせながら、私も高校生デビューを目指しますよ」有紀子がつっけんどんに意気込む。
「頑張れ、ゆっこ」
ぷくっ、と頬を膨らませる有紀子に、加奈子は「ニシシシシ」という擬音が合いそうな面白い笑顔を浮かべた。
休み時間や昼休みに話しかけようとした有紀子であったが、全く機会が無い。もともと積極性に欠ける。今まで気にしなかったが、この時ばかりは恨めしかった。
休み時間は陸に興味を持った数人の女子が学校を案内し、昼休みは男子に誘われて校庭に蹴鞠をしに行ってしまった。
有紀子がため息をついて後ろの席の加奈子を見ると、やっぱり「ニシシシシ」と笑った。そのまま結局放課後を迎えてしまった。
出身はここ辺りであること。小学生の時に引っ越して高知に行ったこと。根掘り葉掘り訊き出されている。
舞という名の女子が言った。
「それじゃ、私と同じ小学校じゃん、私達友達だったんだね」
見上げる陸に、顎ほどまである黒髪をすきながら舞がはにかむ。だが7歳の時のことだから、お互い憶えていない。
話しかけたさそうにしている有紀子を見かねて、加奈子が落ち着いた声で言った。
「小学校一緒だったみたいだね、知ってる男子?」
陸の話はさんざん聞かされている。加奈子は、有紀子の想い人をフルネームで記憶していなかったが、陸という名前と有紀子の反応から、思い出の彼氏である、と推察した。
有紀子の横顔はいつもと違う。少し赤らんだ頬、何かに期待するかのようにほころびた唇。明らかに恋の予感を感じさせる表情だ。
実際、加奈子の問いかけに対して、有紀子はほとんど上の空だった。有紀子は、何とかして陸のそばに寄りたい、と自分が割り込む隙を探すが、翡翠色の人の壁に縫い入る隙が無い。
表情を消した加奈子が陸を見やりながら、少し小さめの声で有紀子に言った。
「なかなか格好良い男子になったね」感嘆の吐息を吐く。「有紀から見せてもらった写真の面影も残っていて少し可愛い顔もしているけれど、やっぱり男の子らしいね」
「私のこと憶えているかな?」
不意に不安になった有紀子は、教科書を準備しながら言う。
「忘れていてもいいんじゃない?」
「どうしてそんなこと言うの?」有紀子が眉をひそめる。
「冗談よ、冗談。私には恋人がいないから、足引っ張ってやろうと思っただけ」
加奈子には大学生の彼氏がいたはずだ。彼氏いない歴実年齢の有紀子は、今の発言にムッとした。まだ子供の自分がからかわれたように感じた。
「遅ればせながら、私も高校生デビューを目指しますよ」有紀子がつっけんどんに意気込む。
「頑張れ、ゆっこ」
ぷくっ、と頬を膨らませる有紀子に、加奈子は「ニシシシシ」という擬音が合いそうな面白い笑顔を浮かべた。
休み時間や昼休みに話しかけようとした有紀子であったが、全く機会が無い。もともと積極性に欠ける。今まで気にしなかったが、この時ばかりは恨めしかった。
休み時間は陸に興味を持った数人の女子が学校を案内し、昼休みは男子に誘われて校庭に蹴鞠をしに行ってしまった。
有紀子がため息をついて後ろの席の加奈子を見ると、やっぱり「ニシシシシ」と笑った。そのまま結局放課後を迎えてしまった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
律と欲望の夜
冷泉 伽夜
大衆娯楽
アフターなし。枕なし。顔出しなしのナンバーワンホスト、律。
有名だが謎の多いホストの正体は、デリヘル会社の社長だった。
それは女性を喜ばせる天使か、女性をこき使う悪魔か――。
確かなことは
二足のわらじで、どんな人間も受け入れている、ということだ。
“純”の純愛ではない“愛”の鍵
Bu-cha
恋愛
男よりも“綺麗で格好良い”と言われる“純”が仕舞ったはずの“愛”が、また動き出す。
今後は純愛ではない形で。
ホワイトデー、30歳の誕生日の夜に再会をしたのは3年前に終わったはずの身体の関係“だけ”の相手。
2人で何度も通った店で再会をし、3年前と同じように私のことを“純ちゃん”と呼び、私のことを“女の子”として扱ってくれる。
ちゃんと鍵を掛けて仕舞ったはずの“愛”がまた動き出してしまう。
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』連載中
『朝1番に福と富と寿を起こして』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高21位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
※イラストもBu-cha作

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる