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第4章 樹聖エルフ王国編

第93話 謎が解ける

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 昨日の場所に行ってみた。
 千の屍骸は領軍によって綺麗に片付けられている。
 獲物をさらわれた気分だが、まあ良いだろう。
 こんな事もあるさ。

 肝心の塗料はっと。
 一匹ずつ痕跡を辿る事にする。
 最初のは途中で途切れていた。
 気づかれたか。
 それとも領軍に討伐されたか。
 はたまた地に潜ったか。
 入念に地下に何か無いか調べるが、魔力視にも反応がない。
 土も掘り起こされた形跡がないから、領軍の仕業だろう。
 偉い人に掛け合って袋を着けたソルジャーアントを討伐しないように通達すべきだったかな。

 気を取り直して次に行こう。
 次の痕跡は魔獣に出会ったらしく、戦いの跡があって袋が落ちていた。
 駄目か。
 次に行こう。

 次の痕跡は樹の幹で途絶えていた。
 登っている最中に袋を落としたのか。
 落ちた袋は無いが、魔獣が食ったのかもしれない。

 次の痕跡は樹の幹でまたもや途絶えている。
 一度なら偶然だが、二度あると何かありそうだ。

 樹を入念に調べる。
 叩くと中に空洞があるのが分かる。
 これはたしかハズレの木だったかな。
 樹は茂っているのに中が空洞だったはずだ。

 待てよ。
 空洞ってことは出入り口にぴったりじゃないか。
 樹を切り倒す事にした。
 樹を切り倒すと空洞で塗料が中に続いている。
 切り株の部分はしっかりあるから、この切り株が蓋になっていれば推測通りなんだけど。
 切り株を調べると線みたいな物があってナイフを差し込むと鍋の蓋みたいに持ち上がる。
 そして、パカリと穴が現れた。

「ライタ、どういう事だと思う」
『蟻塚みたいなものだな』
「そうか、幹の部分は土と蟻の唾液みたいな物で出来ているのか」
『そうだな。葉の部分は宿り木の種でも植えたのだろう』
「どおりで入り口が中々分からないはずだ」
『木を隠すなら森の中って事だろう』
「よし、試しに少し潜ってみよう」

 巣穴の中は暗くて何も見えない。
 むっとする暖かい空気が流れてくる。
 照明スキルを使うと薄い茶色の壁が曲がりくねっているのが見えた。

 なんとなく香ばしいような干草のような良い匂いがする。
 壁を触ってみるとしっとりと濡れていて暖かい。
 少し進むと壁一面にキノコが生えていた。
 更に進むと青臭い臭いのする壁になっていた。

「ライタ、これ何」
『ワーカーアントが葉っぱ集めていただろう。あれだよ。キノコ栽培しているんだよ』
「これが主食って訳か」
『そうだろうね』

 魔力視に反応がある。
 この先にミリタリーアントが居る。
 俺は冷却手榴弾を投げた。
 パシュと音がして冷たい空気が押し寄せてくる。
 通路の先に踏み込むとワーカーアントが縮こまって動けなくなっていた。
 ここがミリタリーアントの巣穴だと証明されたな。
 今日のところはこんなところで良いだろう。

 帰りがけにキノコを幾つか採取して地上に出た。

 さて忙しくなるぞ。
 領軍の重歩兵の隊長を呼び出した。

「遂にミリタリーアントの入り口を突き止めたよ」
「本当か」

 俺はハズレの木の事を説明した。

「俺にどうして欲しいんだ」
「見つけた手柄は譲ってやるから、巣穴攻略に参加させてほしい」
「冒険者も連れていくだろうから、問題は無いと思うぞ。そんなので良いのか」
「ああ、それで良い。突入の日程が決まったら知らせてくれ」

 俺は席を立ってリンナを探して城壁の所に行った。
 リンナはまた城壁の上に立っていた。
 俺はスルスルとスキルで這い上がり話し掛ける。

「ミリタリーアントが出入りする入り口を突き止めたぞ」
「遂に謎が解けたのね」
「俺は突入の兵士と一緒に行くがどうする」
「もちろん私も参加するわ」

 それから俺は冒険者ギルドで魔石を大量に集めた。
 冷却手榴弾を作る為だ。
 ギルドはミリタリーアントの巣穴突入のメンバーを集める声が飛び交っている。
 丁度良いギルドに掛け合って冷却手榴弾を売り払おう。
 狭い通路で絶大な効果を発揮するであろう冷却手榴弾の評判は良い。
 一万個の発注を受けた。
 モリーとユフィアにも頑張ってもらわないとな。
 それと、照明の簡易魔道具が沢山いるな。

「なあ、ライタ。他に何かない」
『棒の先に小さい鏡をつけるんだ。そうすれば魔力視を使わなくても先が見えるだろう』
「なるほどね。マリリに言って道具職人に作らせよう」

 そうだ。
 キノコの事を忘れていた。
 弱点に繋がるとは思えないが、リンナに分析を依頼した。

 キノコは食用には適さない事が分かった。
 蟻蜜酒の幻覚を見せる成分が含まれていたからだ。
 食ったからといって健康に被害が出るほどではないが、食べない方が良いとのリンナの言だった。

 準備期間は生産の日々で過ぎて行く。
 十日ほどで全ての準備は整った。
 そして更に三日後に突入の知らせがやってきた。
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