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第4章 樹聖エルフ王国編

第92話 檻

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 居ないな。
 今日の獲物であるアイアンカッターが居ない。
 生態などの詳しい事を調べなかったのが裏目に出たか。

 常時依頼だから違約金は取られないのだけど、なんとなくしゃくに障る。
 これは出直しかなと思い始めていた。
 人の悲鳴と駆けて来る足音がする。
 それはアイアンカッターの大軍に追いかけられている子供だった。
 アイアンカッターは虹色の外殻に身を包んで凶悪な顎をガチガチと鳴らしている。
 助けなきゃ。
 俺は水魔法で液体窒素を作って飛んでくるアイアンカッターにかけまくった。
 これで危険は去ったな。
 動かなくなるアイアンカッターに止めを刺し子供から話を聞く事にした。
 子供は皮のズボンに上着で防具のたぐいは着けてない。
 そして、短めの髪にぶかぶかの鉄兜を被っていた。

「どうしてこんな事になった」
「アイアンカッターで大もうけを狙ったんだ。ちょっと失敗したけどもさ」
「ちょっとじゃない気がするな」
「あいつら甘い物に目が無いから、甘い樹に穴を開けて樹液を出したんだよ。集めるのは上手くいったんだけど」
「どうやって討伐するつもりだったんだ」
「冷却地雷を樹の幹にしかけたんだ。作動したけど数が多くて」
「討伐はやめとけ」
「父ちゃんがゴールドスパークでおかしくなっちゃって。稼がないと弟と妹が」
「今仕留めたアイアンカッターを半分譲ってやるよ」
「うん、それだけ貰えれば三年は暮らせるよ」
「名前は?」
「ニッパ」
「俺はフィルだ。よし樹に集まったアイアンカッターを全て退治するぞ」

 ニッパの案内で樹に群がるアイアンカッターを全て退治した。
 樹の穴は魔石のくずで固めたからこれで後始末はいいだろう。
 こんなモンスターハウスモドキに出くわしたら良い迷惑だからな。

「お礼にとっておきの場所に案内するよ」

 ニッパからそんな事を言われた。
 無碍にするのもなんなので大人しく後をついて行く。

 そこは岩盤が露出したジャングルには珍しい景色だった。

「岩肌は珍しいけど、なんでとっておきなんだ」
「耳を岩盤に押し付けると奇妙な音がするんだ。不思議だろ」

 横になって、やってみると何やら音がする。

「あっ」

 ニッパの驚く声に立ち上がってみると岩盤が崩れている。
 崩れて出来た穴には木材の木組みが見えた。
 坑道に似ているな。
 穴からはソルジャーアントが出てきた。
 誰だ。こんな所に坑道を掘った奴は。
 だが、一体ずつしか出てこないなら楽なもんだ。
 水魔法で冷やしてゴーレムが止めを刺す。
 そして穴の入り口から退かす。
 この繰り返しだ。
 連続二時間となると流石に大丈夫なのかこれと心配になってきた。

 いよいよ終わりが見えた。
 ソルジャーアントが途切れ途切れになって仕舞いには出てこなくなった。
 千はやっつけたな。
 穴に入ると確かに人工物だった。
 更に進むと破られたでかい檻があった。
 これは坑道ではなくてソルジャーアントを閉じ込めておいたのだな。
 きっとアルヴァルあたりが仕掛けを作ったのだろう。
 そんな気がする。

「ニッパ。お前ギルドまで一っ走りして知らせてこい」
「うん、分かった」
「お駄賃だ」

 俺は金貨を投げた。
 ニッパは両手でお手玉してからニカっと笑ってから駆け出した。
 この屍骸の数だとソルジャーアントが寄ってくるな。
 この数だとアイテム鞄には入りきらない。

 俺は冷却地雷をありったけ仕掛けた。
 ソルジャーアントが次々に現れる。
 俺はこいつらにあの塗料を仕掛ける事を思いついた。
 あの塗料とはミリタリーアントの外殻を抽出して作った塗料だ。
 冷却地雷に掛かったソルジャーアントに小袋に詰めたそれをゴーレムを使い足にくくり付ける。
 そして、袋に鉄串で穴を開けた。

 再び動き出しそうになるソルジャーアントはスライムゴーレムで落ち着かせる。
 十匹ほど仕掛けを施したところでソルジャーアントの知覚圏外まで逃げた。

 後は塗料の後を追っていくだけだ。
 ニッパの通報で領軍が出動してきた。

「ソルジャーアントが地下に千ぐらい檻に閉じ込められていたんだよ。まだ他にも同じ様な場所があるかもしれないな」
「それは大変だ。おい付近を捜索するぞ」

 領軍の兵士はソルジャーアントの檻を探し始める。
 しばらくして兵士が報告に来た。

「ありました。檻にぎっしりソルジャーアントが詰まっています」

 やっぱり他にもあったか。
 千じゃ都市を一つ落とすには足りないと思ったよ。

「じゃあ、俺はギルドに戻っている。何かあれば伝言してくれ」
「情報提供、ご苦労」

 俺はニッパにアイアンカッターの半分を渡さないといけないと約束を思い出した。
 ギルドに着くとニッパが駆け寄って来た。

「逃げたかと思ったぜ」
「俺は約束は守る」

 俺は買取カウンターでアイアンカッターを出し始めた。
 十を越えると称賛の目で周りが俺を見る。
 まだまだ、こんなもんじゃないぜ。
 二十を越えると口をあんぐりと開け。
 三十を越えると呆れた顔になった。
 ニッパに約束の半金を渡した。

「おい、顔役は居ないか」

 俺は声を張り上げる。

「なんだ、俺は顔役ってほどじゃないが顔が利く」
「この十枚の金貨で皆に奢ってやれ」
「おお、あんた太っ腹だな」
「そうでもない気まぐれさ。ニッパ、このおっちゃんに採取の仕方とか教えてもらえ」
「なんだそういう事か。良いぜ。この坊主にレクチャーしてやるよ」
「ありがとう。フィルの兄ちゃん」

 さてと、塗料の袋は上手くいったかな。
 明日が楽しみだ。
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