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51.年上の甥

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 エミリアンは何も言わずに奥側の席に着いたかと思うと、長い足を組んだ。

「さすがは叔父上と言ったところかな。こんな素敵な人を屋敷に隠していたなんて」
 流れる様にお世辞が出てくる。その間も、彼は決して笑みを絶やさない。シャルルは整った顔をしているが、こんなふうに微笑んでいることは少ないから対照的とも言える。

 ロイクが二人分の紅茶を淹れて静かにテーブルに置いた。

「自己紹介がまだだったね。俺はシャルルの甥で、エミリアンと言うんだ」
 カップを持つ仕草も洗練されたものだ。

「エミリアン様……」

「あの子は君に何も話していないのかな?」
 そういえば、シャルルの家族のことについては何も聞いたことがない。一度だけ、ロイクが「大旦那様」と言うのを耳にしたことがあるだけだ。

 甥ということは、シャルルには兄弟がいて、その者の子がこのエミリアンということになる。けれど、見たところ彼はシャルルよりも年上に見える貫禄がある。

「そうか。そういうことか」
 うんうんと頷いたかと思うと、勝手にエミリアンは納得してしまった。

「ロイク、席を外してくれないか」
 おもむろに振り返った彼は、静かに控えるロイクにそんなことを言った。

「恐れながら、エミリアン様と言えど、それは……」
「ロイク。今、俺の言うことを聞かないとどうなるか、分からないお前じゃないだろう」

 途端にエミリアンの声が一段低くなる。二人はまたしばし見つめ合ったまま、微動だにしなかった。

「なに、取って食ったりはしないさ」
「……承知いたしました」

 明確に執事が敗北したのだと分かる。縋りつくような目がアネットを捉えて、

「お嬢様、何かあればわたくしめをお呼びください」

 とだけ言った。

「暮らしはどうだい。何か困ったことはないかい?」
 この状況に理解がまだ追い付けないアネットに、追い打ちをかける様に問いかけが飛んでくる。

「ええ。旦那様には大変よくして頂いて」
「うん」

 すっと、金の目が細められる。顔は人懐っこい笑みのままなのに、纏う空気が冷たいものに変わる。足元から這い上がってくるのは、怒りにも似た何か。それが肌を伝って、びりびりと触れるような気がする。

「その服を見ればすぐに分かる」

「あの、わたしは」
 彼の言い方だとまた何か勘違いをされたかもしれない。庶民のアネットにはあずかり知らないことだが、貴族の婚姻ともなれば色々とややこしいことがあるかもしれない。これは、マダム・ローランの店にいた時とはわけが違う。

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