【完結】わたしが愛されるはずがなかったのに~冷酷無比な男爵は高額買取した奴隷姫を逃さない~

藤原ライラ

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52.奴隷の子

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 きちんと説明しなければならない。けれど、なぜかうまく言葉が出てこなかった。

「知っているよ」
 すると、エミリアンが静かに言った。

「君は奴隷なんだってね。あいつは五百万クレールで、君を買ったんだ」
 立ち上がったエミリアンは、アネットを睥睨する。頭の上から、その視線が突き刺さる。

 その通りだ。何一つ、間違ってはいない。

「奴隷の子のくせに、奴隷に執着するんだな。いや、だからこそと言うべきなのか」

「どれ、い……?」
 エミリアンの顔に浮かんでいるのは、煮詰めたような濃い蔑みだった。

「君は何も知らないようだから、俺が教えてあげよう」

 杖を置いたかと思うと、ソファに座るアネットの前にエミリアンは立った。大柄な男の影に飲み込まれてしまう。

「シャルルはね、奴隷の子だよ。俺の祖父は戯れに買った奴隷に手を付けた」

 大きな手が、顔に伸びてくる。

「ちょうど今の、君みたいに」

 ひっ、と喉が鳴った。

「とんだ大嘘つきだよ。卑しい生まれを巧く隠しているんだ。そうやってみんなをいつも騙す。君も、哀れなものだ」

 慰める様に手は頭を撫でる。シャルルがよくそうするのよりも、もっと丁寧な手つきだ。けれど、ひどく恐ろしい。

「醜く、汚い」
 ねっとりと、その指が頬を伝って首筋を這う。

 この男から少しでも、離れなければならない。その一心で、立ち上がった。

「あれはどんなふうに君に触れた? どうせもう抱いたんだろう?」

「旦那様は、なに、もっ」
 縺れる足で部屋の隅へと逃れても、ゆっくりとエミリアンは追いかけてくる。案の定すぐ追い付かれて、背中に壁が当たった。

「いいねえ、その呼び方。俺のこともそう呼んでもらおうかな」
 胸元に右手が伸びてくる。腰に左腕が回されて、隙間ないほどに体が密着する。

「あの人は、わたしに何もしていませんっ!」

 かろうじてそう口にするのだけが精いっぱいだった。

「なら、好都合だ」
 すっとその顔が眼前に迫りくる。にやりと笑った口元から赤い舌が覗いて、音を立てて舌なめずりをする。

「俺はね、処女を抱くのが好きなんだ」

 耳元で、ぞっとするような声が囁く。金縛りにあったかのように動けなくなった。

「ああ、君の中はどれほど、熱く狭いんだろうね。想像しただけでも勃起しそうだ。これほど興奮することが他にあるかい?」

 強く腰を打ち付けられて、硬くて熱いものが触れる。何度も、何度も。そう、まるでそれ・・が胎の中でどんなふうに動くかを教え込むように。

「積もったばかりの雪に足跡を付ける様に、まだ何も知らない君の一番奥に俺自身を刻む。こじ開けて、鳴かせて、白濁を流し込むんだ」

 悍ましさにもう、息を吸うこともままならない。生温かい吐息が、鼻先にかかる。知らない男の人の匂い。

「君は、俺の為に生まれてきたんだよ」

 そう言って、彼はアネットに口づけた。
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