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12.検品 ※

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「あなたのせいじゃないの」
 自分から人の呼吸を奪っておいてよく言う。

「ジェルヴェーズから何も教わらなかったのか?」
 またあの女の名前だ。それだけでどうしてこんなにも、心が毛羽立ったようになるのかが分からない。

「その人の話をしないで」
 顔を背けて逃れようと思うのに、細身の割に力強い腕はアネットに逃れることを許さない。

「なんだ」
「なんでも、いいじゃない」

 かろうじてそう返すのがやっとだった。突き刺すように、紫の目はこちらを見つめている。顔が上げられない。まだ、あの口づけのせいで頬が熱い。

「そうか」
 軽々とアネットを抱き上げたかと思うと、シャルルはそのまま歩き出す。

「えっ、何下ろしてっ!」
 バタバタと両手を動かしてみても何の抵抗にもならない。

「じっとしていろ。床に叩きつけられたいというなら話は別だが」
 そんな願望はない。しゅん、とされるがままになって、アネットはただ荷物のように抱えられるままになる。

 長い足は、颯爽と部屋を横切って寝台の前に来る。言葉とは裏腹に恭しいほどの手つきで、そこに下ろされた。

 何を隠そう、最初に自分が寝かされていたのが、この天蓋付の寝台だった。

 肩を押されて世界がくるりと回る。背中に感じる寝台の感触。
 男の手は、また頭の横にある。

「……あとから苦情が来ても困るからな。売る前の商品を確認しておくのは重要なことだ」
「なに、するのよ」

「いい機会だ。検品・・といこうじゃないか」

 申し訳程度に掛けられていた夜着を、シャルルが払う。

 この目に、わたしはどんな風に映るのだろう。この小枝のような、色気のない体は、彼にどう思われるだろう。

「やっ」

 男が覆いかぶされば、その分だけやわらかな寝台は沈み込む。
 このままわたしは食べられてしまうのだろうか。身を捩って顔の上で手を交差させた。

「力を抜け」
 そんなことを言われて「はいそうですか」と力が抜けるわけがない。ぎゅっと目を瞑って、これから起きることにアネットは身構えた。

「ったく」

 この夜何度目かの溜息の後に、手が頭に触れた。子犬を撫でるみたいにわしゃわしゃと。

 腕の中に囲い込まれて、ぎゅっと抱き寄せられる。そうされてはじめて、自分が震えていたのだと気が付いた。息を吸い込めば、またあのシャルルの香りがする。

「悪いようには、しないから」

 転がすように甘い声が、耳元で囁く。この声は、だめだ。毒のように体に回って、溶かされていく。

 小鳥がついばむようにこめかみに口づけられる。それは顎を伝って首筋まで続く。薄い皮膚を吸い上げられたら、びくんと体が跳ねる。

 すっぽりと包み込まれるように、乳房に大きな手が触れる。やわやわと揉みしだかれたら、簡単にシャルルの手の中で形を変える。
 その一点を掠めた時、電流のような刺激が体に走った。

「ひゃっ」

 かぷりと頂きを食まれた。熱い舌がこりこりとそれを舐め上げて、じゅっと強く吸われる。すると、触られてもいない腹の奥が締まる。ずんと疼くような、知らない感覚。

「やっ……あン……だめっ」

 反対側は親指と人差し指できゅっと摘ままれた。舌に嬲られてまさぐられて、腰が揺らめいた。
 浮き上がった腰を、強い力で抑え込まれる。脇腹に手が這うだけで身の内が震えて、膝頭をこすり合わせていた。

「素質はあるみたいだな」

 恐る恐る目を開けたら当然のように目が合う。ぎらぎらとした目が、食い入るようにこちらを見つめている。
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