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第一章

第22話:皇太子正使

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 皇紀2217年・王歴221年・秋・エレンバラ王国男爵領

「ハリー殿、この度の献金、誠にありがとうございました。
 皇太子殿下は勿論、皇国貴族もみな心から喜んでいます」

「爺様、そのように頭を下げないでください、私は孫ではありませんか」

「いや、そういう訳にはいかない、今日は皇太子殿下の正使としてこさせてもらっているのだ、公式な使者として私的な態度や会話は許されないのです」

 などと言っているが、ヴィンセントの爺様は内心とても喜んでいる。
 代替わりするだろう皇太子から正使に任じられたのだ。
 この役目を上手く果たして、俺との仲介役に成れれば、新たになる皇国の組織で出世できる可能性がとても高い。
 実力など全くない、子供のお遊びのような組織ではあるが、皇国貴族にはそのお遊びの組織で役職を得るくらいしか楽しみがない、とても哀しい現実がある。

「そうですか、では私的な会話は公務が終わってからさせていただきます。
 それで、周りの連中は包囲を解いて関所通行料も安くすると言っているのですか」

「いや、残念ながら、軍事的な事だから商人や領民の通過は認められないと言われてしまったが、皇国に対する献金や献上品を邪魔する事はないと言っている」

 公的にと言っている割には、祖父が孫に対する口調だな。
 まあ、その程度の事で怒ったりはしないよ、ヴィンセントの爺様。
 これからも色々と役に立ってもらう心算だからな。

「それは、私が皇家から名誉爵位を与えられたからですか」

「そうだ、他の事なら皇国貴族を隠れ蓑にして王国貴族として軍事活動をしていると叩けるが、皇家や皇国に対して皇国貴族として献金や献上品を送る事までは咎められないからな」

「では、その献上品を皇太子殿下や皇国が財政のために売り払ったとしても、誰も咎めたりはできないですよね」

「ふむ、そうだな、それはできないであろうな」

「皇太子殿下や皇国が、献上品に対する御礼として、私に金品や品物を下げ渡されても、誰も咎められないでしょうね」

「ふむふむふむ、それもできないであろうな」

「それが頻繁に行われて、皇太子殿下や皇国は勿論、使者に立たれる貴族が利益を上げられたとしても、誰も咎められないでしょうな」

「あああああ、そう、そうだな、誰も咎められないな」

 ふっふっふっ、ヴィンセントの爺様、使者として利を得られると考えているのだろうが、それは捕らぬ狸の皮算用だぜ。
 まあ、俺にも思惑があるから、幾らでも利益をあげてもらって構わない。
 利益が上がる分、危険も多くなるだろうから、護衛の兵を集めてくれよ。
 だが金や戦力以上に期待している大いなる利益がある。

 皇国貴族は戦力も経済力もなく、多くの皇国貴族が極貧過ぎて首都では暮らしていけないから、地方の有力王家貴族の家に逃げ込んで暮らしている。
 そこから伝えられる情報を集めて検討すれば、貴重な情報を得られる。
 今後の事も考えて、ヴィンセントの爺様を抱き込んでおくのだ。
 ヴィンセント子爵家は多芸で、地方に行っても喜ばれているからな。

「今回の名誉男爵叙勲の御礼を爺様に御渡しいたします。
 皇太子殿下には私の方から、信用できる皇国貴族として爺様の名前を伝えさせて頂きましょう。
 できましたら、皇太子殿下や皇国から下賜品が頂けましたらありがたいです。
 他の物は領内で産出したり作れたりするのですが、塩だけは領内にないのです」

 別にないわけではないのだが、影衆が担いで運ぶと効率が悪くて高くなるのだ。
 船とは比べものに成らないが、馬車や牛車で運んだ方が効率がよく安くできる。
 最悪は草を焼いて灰塩を作る事もできるが、あまりにも非効率だから、影衆の輸送も灰塩作りも、領地を完全に封じられた時の最終手段に取ってある。

「おお、そうか、そうか、できるだけ早く塩を届けさせてもらおう」
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