24 / 94
第一章
第23話:正使交易
しおりを挟む
皇紀2217年・王歴221年・冬・エレンバラ王国男爵領
「ハリー男爵、今回は砂鉄と兵を届けさせてももらいましたぞ」
俺の予定通り、ヴィンセントの爺様が皇太子殿下の正使となった。
仲介料や売買手数料が欲しいヴィンセントの爺様は頻繁にやってくる。
皇家や皇国への献金や献上品なら関所通行料を取らないと約束した、ロスリン伯爵やエクセター侯爵は勿論、首都までの王国貴族は地団太踏んで悔しがっている。
特に我が家に兵士が送られてくるのと、武具や防具を作るのに必要な砂鉄が運ばれてくるのを、歯軋りして悔しがっているはずだ。
「とても助かります、ヴィンセント子爵。
形だけの事ですが、下賜品を検品させていただきますので、お付き合いください。
終わりましたら城で歓迎させていただきます」
「分かっておりますとも、エレンバラ男爵。
公式な役目の間はちゃんとしておかねばなりませんからな」
俺とヴィンセントの爺様は互いに目で笑いながら話をしている。
万全の体制を敷いているとは思うが、敵も老練な王家貴族だ。
ロスリン伯爵程度なら恐れる事もないが、エクセター侯爵やカンリフ騎士が抱えている影衆を甘く見る訳にはいかない。
皇国の使者が密貿易だと言う証拠を与える訳にはいかないのだ。
★★★★★★
「いや、いや、皇太子殿下や皇国の正式な御役目は肩が凝る」
「ご苦労様でした、爺様」
「ああ、気遣ってくれてありがとう、ハリー殿」
「我が領地で作った酒でもいかがですか」
「おお、儂にあの酒を飲ませてくれるのか、ありがたい事だ。
首都でも商都でもとても人気で、凄い値がついておる。
儂らのような貧乏貴族には、とても手に入れる事などできぬ品じゃ」
俺が最初に開発した酒は日本酒の清酒だが、これは濁酒からの改良で、前世の知識があるからできたのだ。
俺が持っているのは知識だけなので、実務の経験はない。
だから酒造りの実務経験者が必要なのだが、これがとても難しかった。
酒造りは教会が独占していたから、王家でも手出しできなかったのだ。
だが幸いなことに、今は教団ごとに血で血を争う戦いをやっている。
爺様が国王べったりの時に、その伝手で、教団戦争で焼け出された教会の醸造技術者を我が家に引き取ることができたのだ。
基本の酒造りができる技術者が手に入れられたら後は簡単だ。
国王の権力を利用して、首都にある王家の図書館や権力の及ぶ教会や貴族家から、酒造りの技術書を手に入れることができたのもよかった。
この世界ではワインがよく飲まれていたが、ブランデーの醸造技術が失われていたので、書物に書かれていた技術を俺が復活させた。
麦を蒸留させた酒はあるが、禁酒法がなく、密売によるワイン樽の保存などが行われていなかったので、ウィスキーと呼べるような酒はなかった。
まだ熟成できるほどの年月が経った酒はないが、蒸留してから短期間ワイン樽に保存しただけでも、今までの無色無臭の酒とは比べ物に成らないくらい美味いらしい。
そんな酒のお陰で、経済封鎖前は莫大な利益を得ることができた。
前世が下戸だった俺には、酒の違いも美味さも全く分からないが、今生は酒が飲めるようになるのかな。
「領地を封鎖されてしまっていますから、皇太子殿下や皇国に献上した品が下賜され、下賜された方が売りに出した分しかありませんからね、高値になります。
ですがこの領地にはいくらでもありますから、好きなだけ飲んでください」
「おお、では、家族として遠慮せずに飲ませてもらおう」
好きなだけ飲んでくれ、ヴィンセントの爺様。
皇太子殿下から皇国に伝わる酒造りの秘伝書の写本をもらえる事になっている。
それを実用化できれば更なる資金源にできるから、爺様一人が泥酔して醜態を見せるくらい飲んでくれても構わない。
それに、帰りには皇太子殿下や皇国に献上する酒を運んでもらうのだ。
盗み酒されたらたまらないからな。
魔力を使って無尽蔵に生み出せる麦や米、椎茸や舞茸、毛皮も運んでもらわなければいけないからな、頼みましたよ。
頭に来た王国貴族の誰かが、暴走して襲うかもしれませんから、その酒が末期の酒になるかもしれません。
襲ってくるのがロスリン伯爵なら、それを理由にこちらから開戦する事ができる。
人材も揃ってきたから、ロスリン伯爵と分家を併せて合計六家を占領しても、十分維持できる。
「ハリー男爵、今回は砂鉄と兵を届けさせてももらいましたぞ」
俺の予定通り、ヴィンセントの爺様が皇太子殿下の正使となった。
仲介料や売買手数料が欲しいヴィンセントの爺様は頻繁にやってくる。
皇家や皇国への献金や献上品なら関所通行料を取らないと約束した、ロスリン伯爵やエクセター侯爵は勿論、首都までの王国貴族は地団太踏んで悔しがっている。
特に我が家に兵士が送られてくるのと、武具や防具を作るのに必要な砂鉄が運ばれてくるのを、歯軋りして悔しがっているはずだ。
「とても助かります、ヴィンセント子爵。
形だけの事ですが、下賜品を検品させていただきますので、お付き合いください。
終わりましたら城で歓迎させていただきます」
「分かっておりますとも、エレンバラ男爵。
公式な役目の間はちゃんとしておかねばなりませんからな」
俺とヴィンセントの爺様は互いに目で笑いながら話をしている。
万全の体制を敷いているとは思うが、敵も老練な王家貴族だ。
ロスリン伯爵程度なら恐れる事もないが、エクセター侯爵やカンリフ騎士が抱えている影衆を甘く見る訳にはいかない。
皇国の使者が密貿易だと言う証拠を与える訳にはいかないのだ。
★★★★★★
「いや、いや、皇太子殿下や皇国の正式な御役目は肩が凝る」
「ご苦労様でした、爺様」
「ああ、気遣ってくれてありがとう、ハリー殿」
「我が領地で作った酒でもいかがですか」
「おお、儂にあの酒を飲ませてくれるのか、ありがたい事だ。
首都でも商都でもとても人気で、凄い値がついておる。
儂らのような貧乏貴族には、とても手に入れる事などできぬ品じゃ」
俺が最初に開発した酒は日本酒の清酒だが、これは濁酒からの改良で、前世の知識があるからできたのだ。
俺が持っているのは知識だけなので、実務の経験はない。
だから酒造りの実務経験者が必要なのだが、これがとても難しかった。
酒造りは教会が独占していたから、王家でも手出しできなかったのだ。
だが幸いなことに、今は教団ごとに血で血を争う戦いをやっている。
爺様が国王べったりの時に、その伝手で、教団戦争で焼け出された教会の醸造技術者を我が家に引き取ることができたのだ。
基本の酒造りができる技術者が手に入れられたら後は簡単だ。
国王の権力を利用して、首都にある王家の図書館や権力の及ぶ教会や貴族家から、酒造りの技術書を手に入れることができたのもよかった。
この世界ではワインがよく飲まれていたが、ブランデーの醸造技術が失われていたので、書物に書かれていた技術を俺が復活させた。
麦を蒸留させた酒はあるが、禁酒法がなく、密売によるワイン樽の保存などが行われていなかったので、ウィスキーと呼べるような酒はなかった。
まだ熟成できるほどの年月が経った酒はないが、蒸留してから短期間ワイン樽に保存しただけでも、今までの無色無臭の酒とは比べ物に成らないくらい美味いらしい。
そんな酒のお陰で、経済封鎖前は莫大な利益を得ることができた。
前世が下戸だった俺には、酒の違いも美味さも全く分からないが、今生は酒が飲めるようになるのかな。
「領地を封鎖されてしまっていますから、皇太子殿下や皇国に献上した品が下賜され、下賜された方が売りに出した分しかありませんからね、高値になります。
ですがこの領地にはいくらでもありますから、好きなだけ飲んでください」
「おお、では、家族として遠慮せずに飲ませてもらおう」
好きなだけ飲んでくれ、ヴィンセントの爺様。
皇太子殿下から皇国に伝わる酒造りの秘伝書の写本をもらえる事になっている。
それを実用化できれば更なる資金源にできるから、爺様一人が泥酔して醜態を見せるくらい飲んでくれても構わない。
それに、帰りには皇太子殿下や皇国に献上する酒を運んでもらうのだ。
盗み酒されたらたまらないからな。
魔力を使って無尽蔵に生み出せる麦や米、椎茸や舞茸、毛皮も運んでもらわなければいけないからな、頼みましたよ。
頭に来た王国貴族の誰かが、暴走して襲うかもしれませんから、その酒が末期の酒になるかもしれません。
襲ってくるのがロスリン伯爵なら、それを理由にこちらから開戦する事ができる。
人材も揃ってきたから、ロスリン伯爵と分家を併せて合計六家を占領しても、十分維持できる。
35
お気に入りに追加
403
あなたにおすすめの小説
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる