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第一章

第23話:正使交易

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 皇紀2217年・王歴221年・冬・エレンバラ王国男爵領

「ハリー男爵、今回は砂鉄と兵を届けさせてももらいましたぞ」

 俺の予定通り、ヴィンセントの爺様が皇太子殿下の正使となった。
 仲介料や売買手数料が欲しいヴィンセントの爺様は頻繁にやってくる。
 皇家や皇国への献金や献上品なら関所通行料を取らないと約束した、ロスリン伯爵やエクセター侯爵は勿論、首都までの王国貴族は地団太踏んで悔しがっている。
 特に我が家に兵士が送られてくるのと、武具や防具を作るのに必要な砂鉄が運ばれてくるのを、歯軋りして悔しがっているはずだ。

「とても助かります、ヴィンセント子爵。
 形だけの事ですが、下賜品を検品させていただきますので、お付き合いください。
 終わりましたら城で歓迎させていただきます」

「分かっておりますとも、エレンバラ男爵。
 公式な役目の間はちゃんとしておかねばなりませんからな」

 俺とヴィンセントの爺様は互いに目で笑いながら話をしている。
 万全の体制を敷いているとは思うが、敵も老練な王家貴族だ。
 ロスリン伯爵程度なら恐れる事もないが、エクセター侯爵やカンリフ騎士が抱えている影衆を甘く見る訳にはいかない。
 皇国の使者が密貿易だと言う証拠を与える訳にはいかないのだ。

 ★★★★★★

「いや、いや、皇太子殿下や皇国の正式な御役目は肩が凝る」

「ご苦労様でした、爺様」

「ああ、気遣ってくれてありがとう、ハリー殿」

「我が領地で作った酒でもいかがですか」

「おお、儂にあの酒を飲ませてくれるのか、ありがたい事だ。
 首都でも商都でもとても人気で、凄い値がついておる。
 儂らのような貧乏貴族には、とても手に入れる事などできぬ品じゃ」

 俺が最初に開発した酒は日本酒の清酒だが、これは濁酒からの改良で、前世の知識があるからできたのだ。
 俺が持っているのは知識だけなので、実務の経験はない。
 だから酒造りの実務経験者が必要なのだが、これがとても難しかった。
 酒造りは教会が独占していたから、王家でも手出しできなかったのだ。
 だが幸いなことに、今は教団ごとに血で血を争う戦いをやっている。

 爺様が国王べったりの時に、その伝手で、教団戦争で焼け出された教会の醸造技術者を我が家に引き取ることができたのだ。
 基本の酒造りができる技術者が手に入れられたら後は簡単だ。
 国王の権力を利用して、首都にある王家の図書館や権力の及ぶ教会や貴族家から、酒造りの技術書を手に入れることができたのもよかった。
 この世界ではワインがよく飲まれていたが、ブランデーの醸造技術が失われていたので、書物に書かれていた技術を俺が復活させた。

 麦を蒸留させた酒はあるが、禁酒法がなく、密売によるワイン樽の保存などが行われていなかったので、ウィスキーと呼べるような酒はなかった。
 まだ熟成できるほどの年月が経った酒はないが、蒸留してから短期間ワイン樽に保存しただけでも、今までの無色無臭の酒とは比べ物に成らないくらい美味いらしい。
 そんな酒のお陰で、経済封鎖前は莫大な利益を得ることができた。
 前世が下戸だった俺には、酒の違いも美味さも全く分からないが、今生は酒が飲めるようになるのかな。

「領地を封鎖されてしまっていますから、皇太子殿下や皇国に献上した品が下賜され、下賜された方が売りに出した分しかありませんからね、高値になります。
 ですがこの領地にはいくらでもありますから、好きなだけ飲んでください」

「おお、では、家族として遠慮せずに飲ませてもらおう」

 好きなだけ飲んでくれ、ヴィンセントの爺様。
 皇太子殿下から皇国に伝わる酒造りの秘伝書の写本をもらえる事になっている。
 それを実用化できれば更なる資金源にできるから、爺様一人が泥酔して醜態を見せるくらい飲んでくれても構わない。
 それに、帰りには皇太子殿下や皇国に献上する酒を運んでもらうのだ。
 盗み酒されたらたまらないからな。

 魔力を使って無尽蔵に生み出せる麦や米、椎茸や舞茸、毛皮も運んでもらわなければいけないからな、頼みましたよ。
 頭に来た王国貴族の誰かが、暴走して襲うかもしれませんから、その酒が末期の酒になるかもしれません。
 襲ってくるのがロスリン伯爵なら、それを理由にこちらから開戦する事ができる。
 人材も揃ってきたから、ロスリン伯爵と分家を併せて合計六家を占領しても、十分維持できる。
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