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第一章

第21話:第百五代皇帝崩御

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 皇紀2217年・王歴221年・秋・エレンバラ王国男爵領

「ハリー殿、皇帝陛下が崩御なされました、この前の約束は……」

 母上が言い難そうに話しかけられる。
 この前確約したのに、まだ心配しておられる。
 母上よりも前に、影衆からの報告で皇帝陛下が崩御されたのは知っていた。
 ただイシュタム衆の事は母上にも話せない秘中の秘だ。
 爺様は知っているが、他の誰も知らない我が家最大の秘密なのだ。
 表にでているのは、戦に敗れた影衆の残党が頼って来ている事だけだ。

「分かりました、では山衆に首都への伝言を頼みます。
 既に山衆に頼んで、首都の商人にお金は預けてあるのです。
 ただ商人が皇太子殿下に直接お金をお届けする事などできませんから、一旦ヴィンセント子爵家の爺様と伯父上にお願いするように手配しております」

「そうですか、ありがとうございます、ハリー殿。
 これで皇太子殿下も妹も安堵する事でしょう」

 さて、今回の件で首都の状況はどう動くのだろうか。
 王家の面目は丸潰れになるし、カンリフ騎士家も思惑を外される事になるだろう。
 カンリフ騎士家としては、葬儀の出せない皇家を追い詰めて、散々に恩に着せた上で葬儀費用を出す心算だったのだろう。
 ステュアート王家を否定させて、カンリフ騎士家を新たな王家として認めるように、経済的にも軍事的にも皇家と皇国を脅かす気だったのかもしれない。

 皇家もいきなり王家にはできないだろうから、皇国貴族として認めさせるか。
 確か母上の話しでは、カンリフ騎士家には皇国選帝侯家から令嬢が嫁いでいた。
 そうだ、当主ルーカスの三弟、ライリーに嫁いでいて男子が生まれていたはずだ。
 嫁がせた選帝侯家は没落していて、地方に行って養って貰うような状況だ。
 しかも跡継ぎとすべき男の子がいなかったはずだ。
 ライリーの子供に選帝侯家を継がせて、大昔のように皇帝を操る方法がある。

 遥か昔のやり方だが、まだ皇国がこの国を支配していた時代には、皇家の外戚となった選帝侯家がこの国を支配していたと母上が言っていた。
 カンリフ騎士家がその方法を狙っているとしたら、俺のやった事は激怒モノだな。
 俺が王家と敵対してエクセター侯爵とクレイヴェン伯爵に挟撃されたとしても、助けようとは思わないだろうな。
 どうする、今からでも葬儀費用を出すのを止めるか。

 いや、そんな事は絶対にできない、許されない事だ。
 覇道のためなら何でもやっていい訳じゃない。
 葬儀ができないようにして、御遺体に蛆が湧くような状態にする。
 御遺体が皇帝ではなく平民だったとしても、人として絶対に許されない事だし、見て見ぬ振りでは屑と同列になってしまう。
 なにより母上の面目を潰す事になってしまう。

 母上の面目を潰すくらいなら、王家とカンリフ騎士家の両方を敵に回した方がまだましだ、何時でもかかって来やがれ。
 渓谷を護る城は十三に増えているし、攻撃魔術を組み込んだ巻物も量産した。
 相手が百万の大軍であろうと、我が領内なら負ける気がしない。

 だがまだ戦争がしたいわけではないので、こちらからは誰も攻撃をせずに内政を行い、しばらくは様子見だな。
 敵も国王が我が領内にいる時に手を出す事はないだろうから、国王が宗教都市に離宮を移した時が勝負時だな。

「母上も随分と不安だったでしょうが、もう安心されてください。
 今美味しいものを食べるのは不謹慎なのでしょうか。
 そうでなければ一緒に美味しいものを食べましょう。
 肉や魚が不謹慎と言う事なら、果物やナッツを甘くして食べませんか。
 母上は昔から甘いものがお好きだったではありませんか」

「気にかけてくれてありがとう、ハリー殿。
 皇国は王家貴族に嫁いだ者にまで、葬儀期間中だからと言って魚肉を禁止したりしていませんから、喜んで一緒に食べさせてももらいますよ。
 食後の甘いモノも美味しく食べさせて頂きますとも。
 ただ妹や実家の者は、皇国貴族として葬儀期間中は魚肉を断つことになります。
 ハリー殿に話した事はないかもしれませんが、皇国貴族は古い神々を信仰していますので、そういう点は厳しいのです。
 ハリー殿が皇国貴族に成られるのでしたら、そういう点を改めなければいけませんし、色々な知識も必要になります。
 ハリー殿の正室は、やはり皇国貴族の令嬢を迎えた方がいいですね」

 駄目です母上、魔力の弱い子供に家を継がせる事はできません。
 はっきりと断りたいけど、母上を傷つけそうで言い出せないよ。
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