上 下
27 / 53
6章 恋の行方と愛が辿り着く場所 (後編)

27話 歴史と血が許さない2人の恋

しおりを挟む
「ヒートヘイズの夜は星が少し見えるくらいです。その代わり月がとてもはっきりと見えます。いつか雪女様にも見てもらいたいです」

「それはたぶん無理ですね。私は雪の女神なので」

「……確か、気温が高い場所には行けないのでしたっけ」

「ええ」

「ならば僕がその風景を描いてきましょう!楽しみにしていてください!」

「貴方の絵はもう散々です!要りません!」


確かにこれまで神獣や風景画、自画像を送っていた。ならばもう仕舞う所がないのかもしれない。あまり女性の部屋をジロジロ見れないから贈り物がどこあるのかもわからないけど。

それにしても本当に綺麗だ。オーロラも雪女様も。

もしかしたら夢なのかと思ってしまう。けれど掴むての感触は確かにあった。僕は少しだけ手に力を入れる。そうすれば雪女様が動揺したように肩が微動した。


「こっちを見ないでください。貴方はオーロラを見に来たんでしょう?」

「オーロラと雪女様を見に来たんです」

「私を見たって何も起こりません。オーロラだけを見なさい」


照れ隠しなのは耳を見ればわかった。そんな反応をしてくれるなんて期待しても良いのだろうか。確かめたい思いが悪戯心になってしまい僕は口角を上げて目を細めた。


「雪女様を見ていると、これ以上無いほどにドキドキします」

「心臓病じゃないですか?」

「偽りのない恋の病です」

「……恋なんてバカみたいです」


雪女様が呟いた言葉は小さくても僕には届いた。それと同時に雪女様の想いが半分理解できる。きっと寿命や雪の女神の体質で恋や愛を諦めているのだろうなと。


「僕の顔を見るのは嫌ですか?」

「嫌です」

「僕と手を繋ぐのは嫌ですか?」

「…嫌です」

「僕と話すのも嫌ですか?」

「……嫌、です」

「それは全部嘘ですよね?」

「………」


僕の問い詰めに黙り込んでしまう雪女様。オーロラはずっと変わらずにぼんやりと光っている。僕はアイシクルの夜空から目を離して雪女様と向かい合った。雪女様の瞳は僕を映さずに氷の床だけを見ている。


「フロス様。僕、イグニは貴方の事が好きです」

「……そう」

「ヒートヘイズの王子としてこんな事を言ってはいけないのは重々承知です。でも僕は…貴方の前では普通の人間でありたい。だから言います。好きです」


いつものように膝も着かず、用意したようなセリフも使わない。それは僕が人間のイグニだからだ。雪女様の前では作らなくても良い。事前に用意しなくても良い。その時に思ったこと感じたこと全てをそのまま言葉にしたい。

…やっと僕はわかった。言葉で1番伝わるのは、思った瞬間に口にすることだと。頭で考えなくても雪女様の側にいれば自然と想いが溢れ出てくる。

それは傷つけるような単語じゃない。この人を笑顔にしたい、愛したいと心の底から信じた瞬間に出てくるもの。それが告白なんだ。雪女様は僕の告白を聞いて震える口をゆっくり動かす。


「…寿命も、違う」

「はい」

「住む場所も、違う」

「そうです」

「立場だって、違います…」

「わかってます」


長くて100年を生きる人間とそれ以上を生きる神。炎の国と氷の国。そしてどこにでも居るような王子と寒さを司る神。全く違う。それは今に始まったことではない。

雪女様は1歩、僕に向かって進む。そしてまた1歩。手を掴んで伸ばしていた僕の腕が曲がるくらいまで近くに来た。


「何で私が、雪の女神なんかになったのか…今でもわかりません」

「僕も何で自分が王子として産まれたのかわかりません」

「イグニ…貴方のせいです」

「……」

「貴方のせいでそう思ってしまうようになってしまった…」

「はい」

「罰です」


僕はこの夜、初めて相手の体温の冷たさを間近で感じた。そんな僕とは逆に雪女様は熱さを感じたと思う。

夜空に浮かぶオーロラが泣くかのように雪が降り始める。天井が開いているのでその雪達は僕と雪女様に落ちて行った。


「離れたくない…」

「僕もです」


この場所だけ何もかもが静止してしまえばいいのに。そう思ったのは炎と氷の温度が、初めて1つに重なった時だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...