【完結】雪女と炎王子の恋愛攻防戦

雪村

文字の大きさ
26 / 53
6章 恋の行方と愛が辿り着く場所 (後編)

26話 やっと会えた

しおりを挟む
「イグニ、イグニ」

「う…ん」

「そろそろ起きてください。足が痺れてきました」

「ヒダカ……後5分だけ…」

「1秒で起きなさい。それにヒダカ?ではありません」

「ヒメナ…騒がないでくれ…」

「騒いでません。それにヒメナ?ではありません」


優しい声だけど言葉は何だか厳しい。先程よりも思考は落ち着いてきたけど頭がボーッとするのは治らなかった。

でもそんな頭の下はとても柔らかい。すると上の方からため息らしきものが聞こえたと思えば僕の額に痛みが走った。


「イテッ!」

「デコピンですから」


咄嗟に目を開ければ誰かが僕を見下ろしている。記憶の中にあった破片とその人の顔が一致した。


「雪、女様…?」

「フロスです。起きたならここから退いてください」


僕は少しだけ首を動かすと横たわっていたことがわかる。周りを見れば氷で形成された壁。そして頭の下は太もも。


「す、すみません!!僕はなんということを!」


僕はいつの間にか雪女様の膝で寝ていたようだった。慌てて起き上がるとその勢いで冷たい床に落ちてしまう。

しかしその痛みは目の前にある雪女様の綺麗な足で消された。どうやらここは氷の塔の内部。そして雪女様の自室らしい。

僕はベッドに座った雪女様の膝の上で意識を取り戻して、現在床に頬っぺたを付けている。


「貴方は2時間もの間氷の塔の前で立っていたのです。夜は極寒になるこの場所で2時間居るの神経までバカなのですか?私が倒れた貴方を保護しなければ確実に死んでいました」


雪女様はベッドに座りながら淡々と教えてくれる。僕は2時間もあの場所に居たのか。立ち上がった僕は雪女様に感謝を込めたお辞儀をする。


「助けていただきありがとうございます」

「ええ。では帰ってください」

「それは出来ません!」

「はぁ!?」


僕が頭を上げると嫌そうな顔をしながらも驚く雪女様が目の前にいる。出ている肌はどこまでも白く、余計な肉がない。

そしてクールな顔立ちなのに表情を見せてくれるのはまたフレイヤと違う性格なのだとわかる。僕は久しぶりに見た雪女様の姿に見惚れてしまった。


「イグニ?」

「………」

「立ったまま気絶したんですか?」

「……本当にお綺麗です」

「なっ…!?」


雪女様はじわじわと顔を赤らめてくれる。肌が白いから余計に赤く感じた。僕は膝を着いて雪女様の片手を取る。正反対な体温は僕にしては冷たくて、雪女様にしては熱いのだろう。


「今日、ここに来たのはただお話しするだけではありません。僕と一緒にオーロラを見ませんか?」

「…そのために2時間も突っ立ってたのですか?」

「はい。以前送った手紙で約束しましたから」

「私は約束なんてしてません」

「それでも僕は雪女様なら来てくれると信じていました」


僕達の手は繋がれたままだ。一方的に僕が手を取っているだけだけど、雪女様は振り払うことなく迷った様子で手を取られている。普段は熱い指先の体温は雪女様の体温と交わって普通の体温になっていた。


「実際、私は貴方の元に行きませんでした」

「でもこうやって助けてくれて僕の目の前に居ます」

「氷の塔で死なれるのが嫌だからです」

「理由は何であれ僕達は約束を守れましたよ」

「だから約束なんて……」


呆れたように雪女様は顔を歪める。そんな表情さえも綺麗で愛おしかった。


「雪女様、好きです」

「帰りなさい」

「夜明け前には帰ります」

「今すぐに帰りなさい。ヒートヘイズの王子が夜な夜なアイシクルの領に出向いたなんて大問題ですよ」

「承知の上です。でもこれが最初で最後なので」


僕の体は氷の塔の中に居ても凍えることはなかった。むしろ熱くもなく冷たくもない室温で居心地が良い。

雪女様の手が次第に暖かくなるのを感じて僕の体温で染まってくれることが何よりも嬉しかった。するとため息をついた雪女様は僕に手を取られながら立ち上がって、片方の手を天井へと掲げる。


「雪女様?」

「今日だけです」


氷の天井はパリパリと音を立てるとあっという間に消えていく。その上にはアイシクルの夜空が見えた。


「立ちなさい。その態勢ではちゃんと見ることが出来ません」

「は、はい」

「あの緑色と青色の光がオーロラです。アイシクルでは毎晩見れる景色なので特に感動はありませんが」

「凄い…あれがオーロラ」

「来る途中に見なかったのですか?」

「雪女様と見たかったので一切見上げませんでした」


僕の瞳にはオーロラが映り込む。本当に光の布みたいだ。これが自然から発生する現象だと信じられない。

誰かが光でも操作しているのではないのかと疑ってしまう。しかしただ1つわかること。それは好きな人と見る幻想的な風景は僕に凄まじい感動を与えることだった。


「不思議です。心が和む気がします」

「そうですか」

「それにしても雪女様は氷の塔の天井を開けることが出来るのですね」

「雪の女神なので当たり前です」


僕は今、雪女様とオーロラを同時に見ることが出来ている。こんな幸せなことがあって良いのだろうか。掴んでいる綺麗な手は握り返されないけど、振り払われることもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...