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第5章
第51話 社食
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出社していつも通りに支度を済ませると、フロアに急いで行きそれからいつも通りに給湯室の掃除とカップの片づけを始める。昨日の大騒ぎの後で、なんだか居心地が悪くなってしまうような気がして、芽生は振り払うようにてきぱきと準備をした。
コーヒーを落して、その間に自分の机を拭いていると、冬夜が現れた。
「折茂おはよ。大丈夫?」
あとくされのないさわやかな笑顔に、芽生は「大丈夫です、ありがとうございました」とお辞儀をした。
「いやいや、社長が全部ちゃちゃっと処理したからね」
「ずいぶんと、信頼されているんですね」
「俺、バスケでポイントガードだったの。で、先輩があのでかさだったからセンターでね。そのころはめっちゃ言い争ってたけど、まあ、ここの信頼関係が無かったらバスケって勝てないからさ。まあ、腐れ縁かな?」
冬夜が言い争うとは全くもって想像ができなかったのだが、涼音とそれができるなんてすごいなと芽生は感心した。
「あの頃の先輩は今よりもっと性格ひねくれてたんだけどね。まあこんだけの企業の社長の御曹司だから、みんなから浮いていたんだけど、俺そういうの気にしないから。ガンガン言いまくっていたら、いまだにこんな感じ。ポイントガードだったらこのフロア管理して報告しろって言われた時には、ちょっと殴りたくなったよ」
本当にイラついた顔をしたので、芽生は思わず笑う。多くの社員たちが入り口から入ってきて、芽生のことを見ると一瞬戸惑った。しかし冬夜があまりにも楽しそうに話しているので、何だろうと興味を引かれている様子だった。
「あ、ちなみにあんまりこのこと内緒ね、俺と先輩の話。じゃあ、今日からまたよろしくな、折茂。頑張らないと仕事終わらないぞ」
「はい」
始業のベルと共に朝礼が始まり、伝達事項で急きょ異動が出たことを伝えられて、芽生はほんの少し心が痛んだ。もっと、ちゃんと話しておけば、誤解されなかったかもしれないと思った。
気持ちを切り替えて、猛烈に忙しい午前中をやり過ごし、鬼のように仕事をさばく。抜けた穴は小さくはない。増員の見込みはなく、新入社員が入ってくれば、教える仕事があるのでまた忙しくなるのは目に見えていた。
(できる事をやるんだ。集中しなくちゃ)
パソコンの鬼と化した芽生はすさまじく、人が抜けてしまった穴もあって無駄口を叩く輩もいなくなって、引き締まった雰囲気の中、午前中が過ぎていった。ベルが鳴って休憩時間になるまで、あっという間だった。
まだ終わらないデータの入力の資料を見つめて、芽生はまず一息つこうと鞄を持って社食へと向かった。
窓際に座って、鞄の中をごそごそとしてから、お弁当がないことに気がつく。
「あれ、陸が確か玄関に」
(玄関になかった……忘れてきちゃったんだ!)
芽生が慌てると、社食の入り口からざわざわと声が聞こえて、女子社員たちがきゃあきゃあと囲んでいる人物がいた。見ると、入社証を首からぶら下げた海斗に似た人物が立っていた。
群がるOLたちに大丈夫ですという仕草をして、携帯を耳にあてている。芽生はまさかと思って携帯を見ると、海斗から電話がかかってきていた。
「もしもし海斗? ちょっと私の会社に海斗っぽい人いるんだけど……社食に」
『バカ、俺だよ』
芽生は通話を切ると、大慌てで海斗へと駆け寄った。
コーヒーを落して、その間に自分の机を拭いていると、冬夜が現れた。
「折茂おはよ。大丈夫?」
あとくされのないさわやかな笑顔に、芽生は「大丈夫です、ありがとうございました」とお辞儀をした。
「いやいや、社長が全部ちゃちゃっと処理したからね」
「ずいぶんと、信頼されているんですね」
「俺、バスケでポイントガードだったの。で、先輩があのでかさだったからセンターでね。そのころはめっちゃ言い争ってたけど、まあ、ここの信頼関係が無かったらバスケって勝てないからさ。まあ、腐れ縁かな?」
冬夜が言い争うとは全くもって想像ができなかったのだが、涼音とそれができるなんてすごいなと芽生は感心した。
「あの頃の先輩は今よりもっと性格ひねくれてたんだけどね。まあこんだけの企業の社長の御曹司だから、みんなから浮いていたんだけど、俺そういうの気にしないから。ガンガン言いまくっていたら、いまだにこんな感じ。ポイントガードだったらこのフロア管理して報告しろって言われた時には、ちょっと殴りたくなったよ」
本当にイラついた顔をしたので、芽生は思わず笑う。多くの社員たちが入り口から入ってきて、芽生のことを見ると一瞬戸惑った。しかし冬夜があまりにも楽しそうに話しているので、何だろうと興味を引かれている様子だった。
「あ、ちなみにあんまりこのこと内緒ね、俺と先輩の話。じゃあ、今日からまたよろしくな、折茂。頑張らないと仕事終わらないぞ」
「はい」
始業のベルと共に朝礼が始まり、伝達事項で急きょ異動が出たことを伝えられて、芽生はほんの少し心が痛んだ。もっと、ちゃんと話しておけば、誤解されなかったかもしれないと思った。
気持ちを切り替えて、猛烈に忙しい午前中をやり過ごし、鬼のように仕事をさばく。抜けた穴は小さくはない。増員の見込みはなく、新入社員が入ってくれば、教える仕事があるのでまた忙しくなるのは目に見えていた。
(できる事をやるんだ。集中しなくちゃ)
パソコンの鬼と化した芽生はすさまじく、人が抜けてしまった穴もあって無駄口を叩く輩もいなくなって、引き締まった雰囲気の中、午前中が過ぎていった。ベルが鳴って休憩時間になるまで、あっという間だった。
まだ終わらないデータの入力の資料を見つめて、芽生はまず一息つこうと鞄を持って社食へと向かった。
窓際に座って、鞄の中をごそごそとしてから、お弁当がないことに気がつく。
「あれ、陸が確か玄関に」
(玄関になかった……忘れてきちゃったんだ!)
芽生が慌てると、社食の入り口からざわざわと声が聞こえて、女子社員たちがきゃあきゃあと囲んでいる人物がいた。見ると、入社証を首からぶら下げた海斗に似た人物が立っていた。
群がるOLたちに大丈夫ですという仕草をして、携帯を耳にあてている。芽生はまさかと思って携帯を見ると、海斗から電話がかかってきていた。
「もしもし海斗? ちょっと私の会社に海斗っぽい人いるんだけど……社食に」
『バカ、俺だよ』
芽生は通話を切ると、大慌てで海斗へと駆け寄った。
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