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第2章

第16話 お味噌汁

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「あ、おはようございます社長!」

 寝室の扉が開いて、眩しそうな顔をした涼音が起きてきた。窓が全開なので、芽生はすぐにそれを閉めてから、ぼうっと立っている涼音に近寄る。

「窓開けてて寒いから、ガウンか何か羽織ってきてください」

「――ああ」

 寝室に戻っていき、何やらごそごそと音を立てて、それから大きなガウンを羽織ってから涼音が出てきた。

「じゃあ、ご飯の用意しますね!」

 先ほど完成した味噌汁に、再度火を入れて、卵を中にポンと落とす。薬缶でお湯を沸騰させると、ついでに買っておいたほうじ茶のティーパックをカップに入れた。

 歯を磨いて顔を洗ったのか、のそのそと涼音がやってくる。部屋を見渡して、まあまあだなという顔をした。

「……朝ごはん何?」

「ちょっと机を拭くんで、座っててください」

 布巾を濡らしてよく絞り、片づけた机を拭くと、どうにか食べられるスペースが確保できていた。

「朝ご飯はお味噌汁です。しかも、ぜいたくに卵入りです」

「味噌汁?」

「はい。まあ、いいからいいから。箸とかテーブルマットとか勝手に出しますからね」

 涼音はそれに大人しくうなずいただけで、ぼうっと椅子に座って芽生のことを見ていた。引き出しからいろいろ引っ張り出してマットを敷いて、箸置きに箸を乗せて、そしてホカホカの味噌汁を椀によそうと、涼音の前に出した。

「はい、どうぞ。我ながら、良い匂いすぎてお腹減っちゃいます。ちなみに社長、私も一息ついていいですか」

「ああ」

「じゃあ、一緒にお茶飲みますね」

 お茶をよそってから持っていき、涼音の前に座った。

「熱いうちに召しあがってください。美味しくできましたよ」

「俺はコーヒーと何かって言った覚えがあるんだが」

「いいからいいから。これにした理由は食べながら伝えますので」

 いただきます、と涼音が手を合わせる。

(この人、こういう所作がすごくきれいなんだよね。口は破滅的に悪いけど)

 箸を持ち、そして味噌汁を口に運んで一口飲む。涼音は目を瞬かせた。

「……美味い」

「でしょ?」

 芽生は褒められて、嬉しくてついにこにことした。涼音は野菜を口に運んで、よく咀嚼している。出汁が滲みこんでいるので、美味しい自信があった。

「うん、美味い。久しぶりだな、誰かが作った味噌汁を飲んだのは」

「社長はコーヒーって言いましたけど、胃薬飲んでいる人が起き抜けにコーヒーなんて言語道断ですよ? 外国にいたから、朝はコーヒーにデニッシュかもしれませんが、それは健康になってからです」

「カフェインが無いと寝覚めが悪いんだ」

「ですから、これを飲んだ後だったら用意したうっすいアメリカンコーヒー一口ならいいですよ。お味噌は胃に優しいですし、何かお腹にものを入れてからなら、胃がカフェインにビックリしません。栄養たっぷりの卵に、根菜と生姜で体も温まるんで、低血圧でも少しは楽になりますよ」

「……低血圧だと話したか?」

 それに芽生は首を振った。

「それだけ動きが亀みたいにのろいんだもん、顔色も白いし、低血圧かなって思って」

 ふ、と涼音は笑った。

「一言多いが、良い家政婦だな」

「お給金もらっていますからね」

 涼音のほっとしたような顔に、芽生はにっこりと笑った。
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