18 / 74
第2章
第16話 お味噌汁
しおりを挟む
「あ、おはようございます社長!」
寝室の扉が開いて、眩しそうな顔をした涼音が起きてきた。窓が全開なので、芽生はすぐにそれを閉めてから、ぼうっと立っている涼音に近寄る。
「窓開けてて寒いから、ガウンか何か羽織ってきてください」
「――ああ」
寝室に戻っていき、何やらごそごそと音を立てて、それから大きなガウンを羽織ってから涼音が出てきた。
「じゃあ、ご飯の用意しますね!」
先ほど完成した味噌汁に、再度火を入れて、卵を中にポンと落とす。薬缶でお湯を沸騰させると、ついでに買っておいたほうじ茶のティーパックをカップに入れた。
歯を磨いて顔を洗ったのか、のそのそと涼音がやってくる。部屋を見渡して、まあまあだなという顔をした。
「……朝ごはん何?」
「ちょっと机を拭くんで、座っててください」
布巾を濡らしてよく絞り、片づけた机を拭くと、どうにか食べられるスペースが確保できていた。
「朝ご飯はお味噌汁です。しかも、ぜいたくに卵入りです」
「味噌汁?」
「はい。まあ、いいからいいから。箸とかテーブルマットとか勝手に出しますからね」
涼音はそれに大人しくうなずいただけで、ぼうっと椅子に座って芽生のことを見ていた。引き出しからいろいろ引っ張り出してマットを敷いて、箸置きに箸を乗せて、そしてホカホカの味噌汁を椀によそうと、涼音の前に出した。
「はい、どうぞ。我ながら、良い匂いすぎてお腹減っちゃいます。ちなみに社長、私も一息ついていいですか」
「ああ」
「じゃあ、一緒にお茶飲みますね」
お茶をよそってから持っていき、涼音の前に座った。
「熱いうちに召しあがってください。美味しくできましたよ」
「俺はコーヒーと何かって言った覚えがあるんだが」
「いいからいいから。これにした理由は食べながら伝えますので」
いただきます、と涼音が手を合わせる。
(この人、こういう所作がすごくきれいなんだよね。口は破滅的に悪いけど)
箸を持ち、そして味噌汁を口に運んで一口飲む。涼音は目を瞬かせた。
「……美味い」
「でしょ?」
芽生は褒められて、嬉しくてついにこにことした。涼音は野菜を口に運んで、よく咀嚼している。出汁が滲みこんでいるので、美味しい自信があった。
「うん、美味い。久しぶりだな、誰かが作った味噌汁を飲んだのは」
「社長はコーヒーって言いましたけど、胃薬飲んでいる人が起き抜けにコーヒーなんて言語道断ですよ? 外国にいたから、朝はコーヒーにデニッシュかもしれませんが、それは健康になってからです」
「カフェインが無いと寝覚めが悪いんだ」
「ですから、これを飲んだ後だったら用意したうっすいアメリカンコーヒー一口ならいいですよ。お味噌は胃に優しいですし、何かお腹にものを入れてからなら、胃がカフェインにビックリしません。栄養たっぷりの卵に、根菜と生姜で体も温まるんで、低血圧でも少しは楽になりますよ」
「……低血圧だと話したか?」
それに芽生は首を振った。
「それだけ動きが亀みたいにのろいんだもん、顔色も白いし、低血圧かなって思って」
ふ、と涼音は笑った。
「一言多いが、良い家政婦だな」
「お給金もらっていますからね」
涼音のほっとしたような顔に、芽生はにっこりと笑った。
寝室の扉が開いて、眩しそうな顔をした涼音が起きてきた。窓が全開なので、芽生はすぐにそれを閉めてから、ぼうっと立っている涼音に近寄る。
「窓開けてて寒いから、ガウンか何か羽織ってきてください」
「――ああ」
寝室に戻っていき、何やらごそごそと音を立てて、それから大きなガウンを羽織ってから涼音が出てきた。
「じゃあ、ご飯の用意しますね!」
先ほど完成した味噌汁に、再度火を入れて、卵を中にポンと落とす。薬缶でお湯を沸騰させると、ついでに買っておいたほうじ茶のティーパックをカップに入れた。
歯を磨いて顔を洗ったのか、のそのそと涼音がやってくる。部屋を見渡して、まあまあだなという顔をした。
「……朝ごはん何?」
「ちょっと机を拭くんで、座っててください」
布巾を濡らしてよく絞り、片づけた机を拭くと、どうにか食べられるスペースが確保できていた。
「朝ご飯はお味噌汁です。しかも、ぜいたくに卵入りです」
「味噌汁?」
「はい。まあ、いいからいいから。箸とかテーブルマットとか勝手に出しますからね」
涼音はそれに大人しくうなずいただけで、ぼうっと椅子に座って芽生のことを見ていた。引き出しからいろいろ引っ張り出してマットを敷いて、箸置きに箸を乗せて、そしてホカホカの味噌汁を椀によそうと、涼音の前に出した。
「はい、どうぞ。我ながら、良い匂いすぎてお腹減っちゃいます。ちなみに社長、私も一息ついていいですか」
「ああ」
「じゃあ、一緒にお茶飲みますね」
お茶をよそってから持っていき、涼音の前に座った。
「熱いうちに召しあがってください。美味しくできましたよ」
「俺はコーヒーと何かって言った覚えがあるんだが」
「いいからいいから。これにした理由は食べながら伝えますので」
いただきます、と涼音が手を合わせる。
(この人、こういう所作がすごくきれいなんだよね。口は破滅的に悪いけど)
箸を持ち、そして味噌汁を口に運んで一口飲む。涼音は目を瞬かせた。
「……美味い」
「でしょ?」
芽生は褒められて、嬉しくてついにこにことした。涼音は野菜を口に運んで、よく咀嚼している。出汁が滲みこんでいるので、美味しい自信があった。
「うん、美味い。久しぶりだな、誰かが作った味噌汁を飲んだのは」
「社長はコーヒーって言いましたけど、胃薬飲んでいる人が起き抜けにコーヒーなんて言語道断ですよ? 外国にいたから、朝はコーヒーにデニッシュかもしれませんが、それは健康になってからです」
「カフェインが無いと寝覚めが悪いんだ」
「ですから、これを飲んだ後だったら用意したうっすいアメリカンコーヒー一口ならいいですよ。お味噌は胃に優しいですし、何かお腹にものを入れてからなら、胃がカフェインにビックリしません。栄養たっぷりの卵に、根菜と生姜で体も温まるんで、低血圧でも少しは楽になりますよ」
「……低血圧だと話したか?」
それに芽生は首を振った。
「それだけ動きが亀みたいにのろいんだもん、顔色も白いし、低血圧かなって思って」
ふ、と涼音は笑った。
「一言多いが、良い家政婦だな」
「お給金もらっていますからね」
涼音のほっとしたような顔に、芽生はにっこりと笑った。
1
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
冷たい外科医の心を溶かしたのは
みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。
《あらすじ》
都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。
アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。
ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。
元々ベリカに掲載していました。
昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる