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昇格~敵の実力~
エンジェルセンス2
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「あーもう、めんどくさいわね。大志、ちょっとそっちを抑えてて」
「分かった」
咲は方向転換をすると、俺たちを捕まえている腕の根本を切り落とした。
俺とエリカは地面に落ち、さらに下からは悲鳴が聞こえた。
「シャガーーーー」
亀裂がさらに大きくなり、もう一体のマッドクラーケンが現れた。
そいつは俺をにらみつけると、突進してきた。
「あら珍しい。クラーケンは女の子から狙うはずなのだけれど。もしかしてカケルは女の子だった?」
「そんな気色悪いことを言うな」
俺は女ではない。が、狙われる心当たりはある。
怒っているのだろう。
俺が地面に中に閉じ込めていたことを。
「さあ、来なさい!」
途中に待ち受ける咲に向かって、クラーケンは黒い液体を吐き出した。
スミだ。これを食らうと、視界を奪われる上に、粘着が強くてなかなか取れない。
着ている服は捨てるしかないと言われているほどだ。
だが咲は一歩も動かない。
じっと液体を見つめたままで、行く手から消えるのを待っているようだ。
突如、突風が吹き荒れた。
誰かが魔術をつかったわけではない。
言ってみれば、風の悪戯だ。
エリカは慌ててスカートを抑えて、横目で睨みつけてくる。
が、咲には恵みの風だったようだ。
スミは軌道を変え、カノジョの遥か前方に落ちた。
「さようなら」
たった一振りで、咲はクラーケンを撃破した。
それも呑気なものだ。
「さてっと…そっちは終わったかしらー」
買い物でもしてきた後のように、軽く言ってのける。
「無理に決まっているだろう。抑えるだけで限界だ」
「そっか、じゃあちゃっちゃと終わらせないとね!」
もう一体のクラーケンに向かって走り出す。。
途中で、腕が襲いかかるが、そのすべてを光の盾が受け止める。
コンビネーションと言うには単純だが、咲は迷いなく進んでいく。
「さようなら」
咲はクラーケンを一突きする。
たったそれだけで、動きは止まり、地面に倒れていった。
「終わりーっと。ねえ、こいつ炙って食べたら美味しいかな?」
「食べるんじゃないよ…」
「いやいや、せっかく珍しいモンスターを倒したんだし、味わないと!」
マッドクラーケンはAランクモンスターだ。
それをひとりで、軽々と倒してしまった。
そして当の本人は、何事もなかったかのように振る舞っている。
釣りに行って、レアな魚が取れたぐらいの反応だ。
「あのっ、陽同院先輩っ」
「どうした後輩ちゃん。あ、もしかして君の食べたいのかい?」
クラーケンの腕を切ると、切れ端をエリカに向かって差し出した。
「い、いえっ、聞きたいことがあって」
「そういえば見学も兼ねていたんだったね。いいよ、何でも聞いてごらん」
咲は切れ端をどうするか悩んだ末、その場に投げ捨てた。
「さっきのスミ、どうして避けなかったんですか?先輩には、突風が吹くことが分かっていたんですか?」
「そんなのわかるわけがないじゃない。たまたまよ、たまたま。分かっていたのは、避ける必要がないってことぐらい」
「意味がわかりません」
「んー難しいことは私にも分からないんだよねえ。ただそんな気がした。それだけ」
エリカは何一つとして納得していない様子だった。
けれど、彼女は2つの目でじっと見つめると、諦めたように息を吐いた。
「嘘じゃないみたいですね…」
「へー、もしかして後輩ちゃんは、人の心が見えるの?」
「見えませんが感じることは出来ます。さっき、先輩が後ろから襲いかかってきたクラーケンに気がついたように」
今度は咲がエリカを見つめる。
それからしばらくして、にたっと笑った。
「君、なかなかおもしろいね。なんて名前だっけ」
「早乙女エリカです」
「エリカね。よし、覚えた。それじゃあまあ、一旦戻ろうか」
もと来た道を引き返そうとする背中に、エリカが慌てたように声をかけた。
「見回りはいいんですか?」
「やばいものが出てきちゃったからねえ。ここはモンスターの巣になっている可能性がある。とりあえず立入禁止にしないと。いいよね大志」
「君がそう言うならそうなのだろう」
「おっけー。あ、死体はそのままでいいから。あとで鑑識に来てもらう」
笑いながら、俺の背中をポンと叩いた。
ちょっとイラッとしたので、気持ちばかりの文句をつけておく。
「さっき食べようとしていましたよな?」
「そだっけ?気のせい、気のせい。あっはっはー」
咲はどこまでも自由なやつだった。
それ故に掴みどころがない。
エンジェルセンス。その弱点がどこにあるのか、全くわからない。
マッドクラーケン2体に襲わせてみても、スキを見せなかった。
くそっ、次こそは…。
メインクエスト:裏山の見回り…成功。
サブクエスト:咲の弱点を探る…失敗。むしろその無敵さを実感する形になってしまった。
しかし妙だ。
エリカのやつ、執拗に咲の能力について聞いていた。
まさかあいつも、こちら側の人間…いや、そんなはずはない。
闇ギルドの者には独特の匂いがある。
それなら最初に会った時に気がつくはずだ。
「分かった」
咲は方向転換をすると、俺たちを捕まえている腕の根本を切り落とした。
俺とエリカは地面に落ち、さらに下からは悲鳴が聞こえた。
「シャガーーーー」
亀裂がさらに大きくなり、もう一体のマッドクラーケンが現れた。
そいつは俺をにらみつけると、突進してきた。
「あら珍しい。クラーケンは女の子から狙うはずなのだけれど。もしかしてカケルは女の子だった?」
「そんな気色悪いことを言うな」
俺は女ではない。が、狙われる心当たりはある。
怒っているのだろう。
俺が地面に中に閉じ込めていたことを。
「さあ、来なさい!」
途中に待ち受ける咲に向かって、クラーケンは黒い液体を吐き出した。
スミだ。これを食らうと、視界を奪われる上に、粘着が強くてなかなか取れない。
着ている服は捨てるしかないと言われているほどだ。
だが咲は一歩も動かない。
じっと液体を見つめたままで、行く手から消えるのを待っているようだ。
突如、突風が吹き荒れた。
誰かが魔術をつかったわけではない。
言ってみれば、風の悪戯だ。
エリカは慌ててスカートを抑えて、横目で睨みつけてくる。
が、咲には恵みの風だったようだ。
スミは軌道を変え、カノジョの遥か前方に落ちた。
「さようなら」
たった一振りで、咲はクラーケンを撃破した。
それも呑気なものだ。
「さてっと…そっちは終わったかしらー」
買い物でもしてきた後のように、軽く言ってのける。
「無理に決まっているだろう。抑えるだけで限界だ」
「そっか、じゃあちゃっちゃと終わらせないとね!」
もう一体のクラーケンに向かって走り出す。。
途中で、腕が襲いかかるが、そのすべてを光の盾が受け止める。
コンビネーションと言うには単純だが、咲は迷いなく進んでいく。
「さようなら」
咲はクラーケンを一突きする。
たったそれだけで、動きは止まり、地面に倒れていった。
「終わりーっと。ねえ、こいつ炙って食べたら美味しいかな?」
「食べるんじゃないよ…」
「いやいや、せっかく珍しいモンスターを倒したんだし、味わないと!」
マッドクラーケンはAランクモンスターだ。
それをひとりで、軽々と倒してしまった。
そして当の本人は、何事もなかったかのように振る舞っている。
釣りに行って、レアな魚が取れたぐらいの反応だ。
「あのっ、陽同院先輩っ」
「どうした後輩ちゃん。あ、もしかして君の食べたいのかい?」
クラーケンの腕を切ると、切れ端をエリカに向かって差し出した。
「い、いえっ、聞きたいことがあって」
「そういえば見学も兼ねていたんだったね。いいよ、何でも聞いてごらん」
咲は切れ端をどうするか悩んだ末、その場に投げ捨てた。
「さっきのスミ、どうして避けなかったんですか?先輩には、突風が吹くことが分かっていたんですか?」
「そんなのわかるわけがないじゃない。たまたまよ、たまたま。分かっていたのは、避ける必要がないってことぐらい」
「意味がわかりません」
「んー難しいことは私にも分からないんだよねえ。ただそんな気がした。それだけ」
エリカは何一つとして納得していない様子だった。
けれど、彼女は2つの目でじっと見つめると、諦めたように息を吐いた。
「嘘じゃないみたいですね…」
「へー、もしかして後輩ちゃんは、人の心が見えるの?」
「見えませんが感じることは出来ます。さっき、先輩が後ろから襲いかかってきたクラーケンに気がついたように」
今度は咲がエリカを見つめる。
それからしばらくして、にたっと笑った。
「君、なかなかおもしろいね。なんて名前だっけ」
「早乙女エリカです」
「エリカね。よし、覚えた。それじゃあまあ、一旦戻ろうか」
もと来た道を引き返そうとする背中に、エリカが慌てたように声をかけた。
「見回りはいいんですか?」
「やばいものが出てきちゃったからねえ。ここはモンスターの巣になっている可能性がある。とりあえず立入禁止にしないと。いいよね大志」
「君がそう言うならそうなのだろう」
「おっけー。あ、死体はそのままでいいから。あとで鑑識に来てもらう」
笑いながら、俺の背中をポンと叩いた。
ちょっとイラッとしたので、気持ちばかりの文句をつけておく。
「さっき食べようとしていましたよな?」
「そだっけ?気のせい、気のせい。あっはっはー」
咲はどこまでも自由なやつだった。
それ故に掴みどころがない。
エンジェルセンス。その弱点がどこにあるのか、全くわからない。
マッドクラーケン2体に襲わせてみても、スキを見せなかった。
くそっ、次こそは…。
メインクエスト:裏山の見回り…成功。
サブクエスト:咲の弱点を探る…失敗。むしろその無敵さを実感する形になってしまった。
しかし妙だ。
エリカのやつ、執拗に咲の能力について聞いていた。
まさかあいつも、こちら側の人間…いや、そんなはずはない。
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それなら最初に会った時に気がつくはずだ。
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