闇ギルドの影は目的を果たすために戦い続ける

夜納木ナヤ

文字の大きさ
上 下
11 / 26
昇格~敵の実力~

エンジェルセンス

しおりを挟む
 今日は少しばかり楽しみだった。
 咲と行動をともにするのだ。

 以前は天使の第六感(エンジェルセンス)の謎を解明することが出来なかったが、今日こそはなんとかしてやる。 

 そのための仕込みも終わっている。
 待っているがいい。時が来れば、必ず殺してやる。

「それじゃあ、クエストスタートだ」 

 メインクエスト:裏山の見回り
 サブクエスト:咲の弱点を探る 

 ☆☆

 やってきたのは裏山…それも一番難易度の低い場所だった。
 だが、ここにいる3人の目には緊張が灯っている。

 なにせここは、レイモンドが死んだ場所でもあるのだ。
 裏山の見回りとはすなわち、現場の調査ということだろう。

「ちょっと怖いですね…」

 エリカが不安そうに、体をすくめている。

「心配いらないわ。私がいるんだから」

 どこからくる自信なのか、咲は胸を張っている。
 あとついてでに、眼鏡も一緒だ。

「そ・れ・に、私が信頼している相手もいるんだから」

 眼鏡がぱっと顔と上げた。
 おお、嬉しそうだ。

「ね、カケル!」

 ドゴーンと、砂煙を立てながら眼鏡は地面に突っ伏した。
 咲の反応も大げさだが、この眼鏡も負けてはいないな。

「期待されても困るよ」
「そんな謙遜しちゃって、ギルドランクを教えてよ」
「Fだよ」

 闇ギルドならAだけどな。
 
 俺が答えると、咲はうんうんとうなずく。

「そっかそっか、Fランク…って、うそおおおおお!?なんで!?どうして!?私、新入生主席はそれなりのランクになるように手を回したはずだけど!?」

 あーそれでレイモンドはCランクだったのか。

「俺は主席じゃないぞ」
「嘘でしょ!?」
「いやいや、本当。なあエリカ」
「ええ、たしかにその男は学年主席ではないです」

 その男って…確かに名前を呼ばれた記憶はないが…まあいいか。

「その主席ってのはどいつよ!私のカケルより上なんて、不正をしたに違いないわ!早く連れてきなさい!」
「俺は咲のものになった覚えはない」

 なんだかわからんが、本気で怒っているようだ。
 死して尚、他人の怒りをかる。レイモンドは恐ろしいやつだ。

「そいつなら死んだよ」
「カケルもそんな冗談を言うようになったのね」
「さてな」

 エリカに視線を送るが今度は答えない。
 下を向き、目を合わせないようにしている。

「そう…てことは、今はカケルが主席ってことよね!そうよね、間違いないわよね!」
「いやいや、俺は2位だったとは限らないだろ」
「嘘ぉ!?まだ不正をしたやつがいるの!?」

 どうやら咲の中で、俺は凄いやつになっているらしい。
 これは正直、厄介だ。

「あの、陽同院先輩、この男ってそんなに凄いんですか?」
「ええ。私と一緒にAランクのクエストをこなしたことがあるわ」
「嘘でしょ!?」
「まじか…」

 エリカと俺は同時に驚いた。

「て、なんでアンタまでびっくりしてるのよ…」
「いや、たまたま居合わせて巻き込まれただけだったから」
「あーそれだけど、わざと巻き込んだわ」

 店で気に入ったお菓子があったから買ったぐらいのノリで言われた。

「まじか」
「まじよ。強そうだったから」

 これもエンジェルセンスの為せる技か?
 こりゃあ、無理やり殺そうとしても全部避けられそうだ。それどころか、犯人まで特定しかねないぞ。
 どうやったらこいつを殺せるんだ?

「長話もなんだ、そろそろ行かないか?」
「あら大志、そういえばいたんだったわね」
「ぐはっ」

 立ち上がったばかりの眼鏡は、そのまま地面に突っ伏した。
 が、顔を上げて言葉を絞り出す。

「陽同院、これから行こうとしている場所はまさに、学年主席が死んだ場所だよ」
「そう…なるほどね」
「それと、君のお気に入りもその場所に居合わせている。連れて行くのは少々酷ではないか?」

 おや、意外と優しいんだな。
 気が向いたら名前ぐらいは覚えておくか。

「それならちょうどいいじゃない。カケル、道案内をよろしくね!」
「ちょっと待て。私の言葉を聞いていたか」
「聞いてたわよ。でもカケルなら大丈夫よ。だって今も、全く動揺していないんだから!」

 咲は目を細めると、意地悪く笑った。
 まるで聞くなんてなさそうだ。

 眼鏡はかえている眼鏡を直すと、諦めたようにため息をついた。

「それじゃあ行きましょうカケル!レッツゴー!」

 背中をぽんぽんと押されて、仕方なく戦闘を歩く。
 分かれ道を右に行くだけで、ほぼ一本道なんだけどな。

 しばらく進むと、見慣れた景色にやってきた…というか、俺はここから先を知らない。
 なにせここでレイモンドを殺し、一緒に寝たんだからな。

「なにか臭うわね。カケル、もしかしてここがそうなの?」
「ああ。分かるのか」
 
 俺が言うよりも先に、咲は気がついた。
 多分、俺は顔に出していない。これも勘がなせる技か。

「聞いた話では、ここで忍者サルに襲われた、と」
「そのとおりです」

 眼鏡はすたすたと前に出ると、あたりを見渡した。

「奇妙だな。どこかからやってきたのか、それとも突然沸いたのか」
「あの…いきなり沸くなんてことはありえるんですか?」
「普通はない。が、何者かが召喚したのであれば話は別だ。これも奇妙なことで、戦った痕跡以外は残っていなかったらしいがな」

 眼鏡は道から外れると、木の裏を調べに行った。

「ねえカケル。貴方もあっちを見てきてよ」
「はいはい」

 眼鏡と反対側の木を指定されておとなしく言うことを聞いておく。
 すると、後ろで話し声が聞こえてきた。

「ねえ後輩ちゃん。あなたの能力ってなに?」
「その後輩ちゃんって言うのは、私ですよね…?えーっと、空間把握です」
「凄いじゃない!どのくらいまで分かるの?」
「そうですね、例えば…先輩、後ろっ…って嘘…」

 エリカが言い終えるよりも早く…いや、言い始めるよりも早く、咲は剣を振った。
 地面から何かが出てきたようだったが、視認するよりも先に消え去った。

「いつからいたのか分かる?」
「多分、私達が集合したときから」
「やっぱりね…」

 地面が揺れ始め、あちこちに亀裂が走る。
 中からはにょろにょろした長いものが大量に出てきた。

「気持ち悪いっ」
「後輩ちゃん、私の後ろに」
「はいっ」
 
 エリカは逃げるようにして隠れた。
 にょろにょろはの内側には吸盤があって、モンスターの腕のようだ。

「何事だ!」

 眼鏡は剣を抜きながら合流してくる。
 モンスターの手は円を描き、その中心が崩れ落ちる。そして、茶色のでかいクラーケンが姿を現した。
 
「マッドクラーケンだと!?どうしてこんなところに!」
「話は後よ大志。ささっと片付けましょう。さあカケルも…って、なんで剣なんて持っているのよ!」

 咲は、自分をつかもうと伸びてきた腕を、振り向きもせずに切り裂いた。

「新入生は見学って言うからさ」
「カケルは別よっ!」

 と、言われれも、武器など持ってきてはいない。

「ああもうっ、どうすんのよ!」

 腕の一本が咲の横を通り抜け、エリカに襲いかかる。

「ライトシールド!」

 巻き付こうとした腕は、エリカではなく盾に巻き付いた。
 それでも動きは止まることなく、盾もろとも飲み込もうとする。

「逃げるぞ」

 俺はエリカの手を取ると後方に退避を試みる。
 が、行く先には再び亀裂が入った。

「危ない!」

 8本の腕が地面から生えてきて、俺の体に巻き付いた。
 隣ではエリカは手と足を拘束されて、動けなくなっていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...