闇ギルドの影は目的を果たすために戦い続ける

夜納木ナヤ

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昇格~敵の実力~

エンジェルセンス

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 今日は少しばかり楽しみだった。
 咲と行動をともにするのだ。

 以前は天使の第六感(エンジェルセンス)の謎を解明することが出来なかったが、今日こそはなんとかしてやる。 

 そのための仕込みも終わっている。
 待っているがいい。時が来れば、必ず殺してやる。

「それじゃあ、クエストスタートだ」 

 メインクエスト:裏山の見回り
 サブクエスト:咲の弱点を探る 

 ☆☆

 やってきたのは裏山…それも一番難易度の低い場所だった。
 だが、ここにいる3人の目には緊張が灯っている。

 なにせここは、レイモンドが死んだ場所でもあるのだ。
 裏山の見回りとはすなわち、現場の調査ということだろう。

「ちょっと怖いですね…」

 エリカが不安そうに、体をすくめている。

「心配いらないわ。私がいるんだから」

 どこからくる自信なのか、咲は胸を張っている。
 あとついてでに、眼鏡も一緒だ。

「そ・れ・に、私が信頼している相手もいるんだから」

 眼鏡がぱっと顔と上げた。
 おお、嬉しそうだ。

「ね、カケル!」

 ドゴーンと、砂煙を立てながら眼鏡は地面に突っ伏した。
 咲の反応も大げさだが、この眼鏡も負けてはいないな。

「期待されても困るよ」
「そんな謙遜しちゃって、ギルドランクを教えてよ」
「Fだよ」

 闇ギルドならAだけどな。
 
 俺が答えると、咲はうんうんとうなずく。

「そっかそっか、Fランク…って、うそおおおおお!?なんで!?どうして!?私、新入生主席はそれなりのランクになるように手を回したはずだけど!?」

 あーそれでレイモンドはCランクだったのか。

「俺は主席じゃないぞ」
「嘘でしょ!?」
「いやいや、本当。なあエリカ」
「ええ、たしかにその男は学年主席ではないです」

 その男って…確かに名前を呼ばれた記憶はないが…まあいいか。

「その主席ってのはどいつよ!私のカケルより上なんて、不正をしたに違いないわ!早く連れてきなさい!」
「俺は咲のものになった覚えはない」

 なんだかわからんが、本気で怒っているようだ。
 死して尚、他人の怒りをかる。レイモンドは恐ろしいやつだ。

「そいつなら死んだよ」
「カケルもそんな冗談を言うようになったのね」
「さてな」

 エリカに視線を送るが今度は答えない。
 下を向き、目を合わせないようにしている。

「そう…てことは、今はカケルが主席ってことよね!そうよね、間違いないわよね!」
「いやいや、俺は2位だったとは限らないだろ」
「嘘ぉ!?まだ不正をしたやつがいるの!?」

 どうやら咲の中で、俺は凄いやつになっているらしい。
 これは正直、厄介だ。

「あの、陽同院先輩、この男ってそんなに凄いんですか?」
「ええ。私と一緒にAランクのクエストをこなしたことがあるわ」
「嘘でしょ!?」
「まじか…」

 エリカと俺は同時に驚いた。

「て、なんでアンタまでびっくりしてるのよ…」
「いや、たまたま居合わせて巻き込まれただけだったから」
「あーそれだけど、わざと巻き込んだわ」

 店で気に入ったお菓子があったから買ったぐらいのノリで言われた。

「まじか」
「まじよ。強そうだったから」

 これもエンジェルセンスの為せる技か?
 こりゃあ、無理やり殺そうとしても全部避けられそうだ。それどころか、犯人まで特定しかねないぞ。
 どうやったらこいつを殺せるんだ?

「長話もなんだ、そろそろ行かないか?」
「あら大志、そういえばいたんだったわね」
「ぐはっ」

 立ち上がったばかりの眼鏡は、そのまま地面に突っ伏した。
 が、顔を上げて言葉を絞り出す。

「陽同院、これから行こうとしている場所はまさに、学年主席が死んだ場所だよ」
「そう…なるほどね」
「それと、君のお気に入りもその場所に居合わせている。連れて行くのは少々酷ではないか?」

 おや、意外と優しいんだな。
 気が向いたら名前ぐらいは覚えておくか。

「それならちょうどいいじゃない。カケル、道案内をよろしくね!」
「ちょっと待て。私の言葉を聞いていたか」
「聞いてたわよ。でもカケルなら大丈夫よ。だって今も、全く動揺していないんだから!」

 咲は目を細めると、意地悪く笑った。
 まるで聞くなんてなさそうだ。

 眼鏡はかえている眼鏡を直すと、諦めたようにため息をついた。

「それじゃあ行きましょうカケル!レッツゴー!」

 背中をぽんぽんと押されて、仕方なく戦闘を歩く。
 分かれ道を右に行くだけで、ほぼ一本道なんだけどな。

 しばらく進むと、見慣れた景色にやってきた…というか、俺はここから先を知らない。
 なにせここでレイモンドを殺し、一緒に寝たんだからな。

「なにか臭うわね。カケル、もしかしてここがそうなの?」
「ああ。分かるのか」
 
 俺が言うよりも先に、咲は気がついた。
 多分、俺は顔に出していない。これも勘がなせる技か。

「聞いた話では、ここで忍者サルに襲われた、と」
「そのとおりです」

 眼鏡はすたすたと前に出ると、あたりを見渡した。

「奇妙だな。どこかからやってきたのか、それとも突然沸いたのか」
「あの…いきなり沸くなんてことはありえるんですか?」
「普通はない。が、何者かが召喚したのであれば話は別だ。これも奇妙なことで、戦った痕跡以外は残っていなかったらしいがな」

 眼鏡は道から外れると、木の裏を調べに行った。

「ねえカケル。貴方もあっちを見てきてよ」
「はいはい」

 眼鏡と反対側の木を指定されておとなしく言うことを聞いておく。
 すると、後ろで話し声が聞こえてきた。

「ねえ後輩ちゃん。あなたの能力ってなに?」
「その後輩ちゃんって言うのは、私ですよね…?えーっと、空間把握です」
「凄いじゃない!どのくらいまで分かるの?」
「そうですね、例えば…先輩、後ろっ…って嘘…」

 エリカが言い終えるよりも早く…いや、言い始めるよりも早く、咲は剣を振った。
 地面から何かが出てきたようだったが、視認するよりも先に消え去った。

「いつからいたのか分かる?」
「多分、私達が集合したときから」
「やっぱりね…」

 地面が揺れ始め、あちこちに亀裂が走る。
 中からはにょろにょろした長いものが大量に出てきた。

「気持ち悪いっ」
「後輩ちゃん、私の後ろに」
「はいっ」
 
 エリカは逃げるようにして隠れた。
 にょろにょろはの内側には吸盤があって、モンスターの腕のようだ。

「何事だ!」

 眼鏡は剣を抜きながら合流してくる。
 モンスターの手は円を描き、その中心が崩れ落ちる。そして、茶色のでかいクラーケンが姿を現した。
 
「マッドクラーケンだと!?どうしてこんなところに!」
「話は後よ大志。ささっと片付けましょう。さあカケルも…って、なんで剣なんて持っているのよ!」

 咲は、自分をつかもうと伸びてきた腕を、振り向きもせずに切り裂いた。

「新入生は見学って言うからさ」
「カケルは別よっ!」

 と、言われれも、武器など持ってきてはいない。

「ああもうっ、どうすんのよ!」

 腕の一本が咲の横を通り抜け、エリカに襲いかかる。

「ライトシールド!」

 巻き付こうとした腕は、エリカではなく盾に巻き付いた。
 それでも動きは止まることなく、盾もろとも飲み込もうとする。

「逃げるぞ」

 俺はエリカの手を取ると後方に退避を試みる。
 が、行く先には再び亀裂が入った。

「危ない!」

 8本の腕が地面から生えてきて、俺の体に巻き付いた。
 隣ではエリカは手と足を拘束されて、動けなくなっていた。


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