闇ギルドの影は目的を果たすために戦い続ける

夜納木ナヤ

文字の大きさ
上 下
10 / 26
昇格~敵の実力~

先輩現る2

しおりを挟む
「なるほど、槍使いだったか。だが、その程度で勝てると思うなよ!」

 眼鏡は右に左にステップを踏みながら、近づいてくる。
 武器は変わらず剣。リーチの差を考えると、懐に飛び込もうとしてくるはずだ。

 俺は目を閉じると、じっくり耳を傾ける。
 影たちが教えてくれる情報に。

「そこだ!」

 一気に近づいてくるのがわかって、迷わず槍を突いた。
 その先端に向かって、眼鏡は突っ込んできている。

 俺の勝ちだ。

 その加速に対してのこのタイミング。体に刺さる以外の選択肢はない。
 ガキンと予想外の音がして、やたら硬いものに当たった。
 
 剣で受け止めたのかと思ったが、そんな感触でではない。
 それにこいつは…下を向いて立っている?


 目を開けるとそこには、魔術が展開されていた。
 俺の攻撃を受け止めたのは、光で作られた盾だ。

 その後ろでは、眼鏡は悔しそうな顔を浮かべながら、確かに下を向いていた。
 

「まさか盾を展開させられるとは…俺の負けだ」

 状況が飲み込めない生徒たちは、ぼーっ俺達を見つめている。
 やがて、担任がゆっくりと手を上げた。

「勝者、黒沢カケルっ」

「まじかよ…」
「あいつ、上級生に勝っちまった…」

 歓声の中で、俺は槍を突きつけたままでその先端を見つめる。
 どこからともなく現れた盾に発現の予兆は感じなかった。 

 どんな魔術なんだ? 

「凄い凄い!さすが私の見込んだ相手ね!」

 咲は飛び跳ねながら、舞踏場に上がると、俺の手を取ってくるくると回った。
 まるで自分が勝ったかのように喜びながら。
 
 おかしい。頬が緩みそうになる。
 目立つつもりはなかったのに、変な気分だ。


「完敗だ」

 眼鏡は近づいてくると、手を差し出した。
 だが俺は、そいつを拒否した。

「俺は一方的に喧嘩を売られたんだが」
「そ、それはそうだが…」

 こいつは驚いた。眼鏡が焦っている。

 さっきはあんなに俺を見下していたのに、自分が悪いと思った途端にこの態度かよ。
 しかも、変なプライドが邪魔をして謝れないと見える。

 最高かよ。

「まあまあカケル。大志も悪気があったわけじゃないんだし、許してあげてよ」
「悪気しかなかったと思うぞ。こいつは俺を退学にしようとしたんだからな」
「あれは、その…言葉の綾というやつでな…」
「どう見ても本気だっただろ」

 眼鏡はモゴモゴと言いながら、なんとか弁解しようとしている。
 ちょっと面白くなってきた。

「というか咲。なんでこんな学園にいるんだ?」
「さ、咲っ!?」

 眼鏡が驚きながら「咲」を連呼し始めた。
 こいつは無視だな。

「特に理由はないのだけれど、しいて言うなら、私のシックスセンスがそうしろって言ったからかな」

 それは立派な理由になる。
 陽同院咲。ランクB。
 彼女のスキルは天使の第六感(エンジェルセンス)。
 勘が非常に優れていて、それはもう予言の域にも達している。

「それまたなんでだ」
「私が卒業するまでの間に事件が起きそうな気がした、から?」

 顎に当てていた手を上に向けると、小首をかしげて見せる。
 狙ったわけではないのだろうが、その姿はとても様になっていて、男ども視線を独り占めにする。

 まさに天使ってわけだ。

「それはまた不穏だな。まさかBランクの手を借りなくてはいけないほどなんて」
「ちっちっち。その情報は古いわよ。私はこの前、Aランクになったわ」

 Aランク。その一言に、場は騒然とする。
 俺とて、内心冷や汗ものだ。


 強くなる前に始末すべきとは思っていたが、その成長は俺の予想を越えていたようだ。

「そうだカケル。あなたを見込んでお願いがあるの」
「お願い?」
「ええ。明日、裏山の見回りに行くのだけれど、一緒に来てくれない?」

 その顔は笑っていたけれど、目はすでに裏山の方角を向いている。
 右手の指先は上を向き、左手は髪を弄る。
 本当に分かりやすい。譲る気がない時の癖だ。

「分かったよ」
「ふふふ、物分かりのいいカケルは好きよ」
「そりゃどうも」

 それから咲はまた何かを思いついたようで、にやっと笑った。

「せっかくだし、新入生を一人連れて行きましょう。この中で行きたい人はいる?先着一名よ!」

 転々とする状況に、誰も事態を飲み込めない。
 それとも、Aランク魔術師の誘いなんて恐れ多い。そう思ったのだろうか?
 名乗り出る者はなかなかいない。

「はいはいはーい、私っ、私やりたいです!」

 全身でアピールを始めたのは、エリカだった。

「元気がいい子は好きよ。さあこちらへ」

 招きに応じて、エリカは舞台に上がった。

「アナタ、お名前は?」
「早乙女エリカです。あの有名な陽同院さんと一緒に行けるなんて光栄です!」
「大船に乗ったつもりでいてくれていいわ!あ、先生、明日この子達を借りますね」
「決まった風な空気を出されてから聞くのもどうかと思うが…まあ、構わんぞ。こき使ってくれ」

 うちの担任のお小言を無視して、咲はスキップをして去っていった。
 眼鏡はなぜか膝をついたままで、念仏のように何かを唱えていた。 

 そうそう今日のクエストの成果でも振り返ろうか。

 メインクエスト:眼鏡と戦う…達成!
 サブクエスト:眼鏡の能力を探る…達成!

 悪くない成果だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...