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第五章

祝賀パーティーへ

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 イザベルとの街でブラブラした日から10日ほど経って、いよいよ建国祭当日になった。

 それまでの間はイザベルの家と我が家の往復で、主にトレーニングと体の手入れの日々だった。そのかいあって頭の先から足の爪先までしっかりと磨かれて、これが自分なのか……と感動してしまうかのような仕上がりにマリーの鼻息は荒くなる。


 「お嬢様~~いよいよ今日から建国祭ですね!今夜の祝賀パーティーまで、まだお時間もある事ですし、朝のマッサージを致しましょう!」

 「え、今日もするの?!」

 「もちろんですよ~~常に最善を尽くす事が大事ですので!」

 「…………それはそう、だけど」


 なんだか丸め込まれたような気がしなくもない…………


 「ソフィアもオリビア様のマッサージ見てるね!」

 「じゃあソフィアの好きな本を読んで聞かせてくれる?」

 「うん!」


 こうしてソフィアの音読を聞きながらマッサージしてもらって、夜の祝賀パーティーの準備は進んでいく。

 お父様は正装をして建国祭の開幕セレモニーに出席するので、朝からバタバタと用意して出かけて行った。私は娘なので出席する必要はなく、夜の祝賀パーティーに出ればいいのよね。

 もちろんハミルトン王国の王侯貴族たちは皆夫婦で出席していて、その令息、令嬢は夜の祝賀パーティーのみ、といった形だ。


 ヴィルは王太子殿下なのでセレモニーに出席した後、私を迎えて来てくれる。

 なんだか申し訳ないわね…………お父様達はそのままパーティーに出席できるのに、私をエスコートする為にわざわざ我が家に来させてしまうなんて。


 迎えに来てくれた時に先日購入したユニコーンの置物をあげよう。小さいから邪魔にはならない、はず。


 セレモニーにはハミルトン王国が招待した各国の王族が出席して、そのまま祝賀パーティーにも出席する王族もいると聞いたわ。

 ヴィルと挨拶回りをするから、その人達にも挨拶しなきゃいけないわね。


 緊張する……そんな事を考えている間にマリーが髪をセットしてくれて、髪にも装飾をしてくれていた。


 「お嬢様の美しいピンクラベンダーの髪の素晴らしさを際立たせる為に、全部はアップしないでおきますね!せっかくつやつやに手入れしましたので!残した髪は巻いて……アップした髪には、この薔薇のティアラのような宝飾品を着けましょう。美しいです~~」

 「オリビア様、綺麗!」

 「ふふっありがとう。マリーもありがとう」

 「まだ髪の毛だけですよ!これからお化粧とドレスです!」


 先は長いわね…………私が化粧まで終わったところで日本時間だと16時くらいを回っていたと思う。そのくらいの時間にヴィルが迎えに来てくれたと知らせが入る。

 応接間で待っていてもらって、一時間くらい経ってようやく準備が整った。


 ドレスは本当に私にフィットしていて、どこで採寸を測ったのかしらって思うくらい……素晴らしい着心地だった。

 裾が長いので少し歩きにくくはあるけど、首に着けているジュエリーも全て用意してくれて、これは感謝を述べなくてはいけないわね。


 『お嬢様、行ってらっしゃいませ』


 私室で侍女たちに見送られながら階段まで歩いていくと、下のエントランスホールにはヴィルが待っていてくれた。

 いつものヴィルも王子様らしい服装なのだけど、今日は正装をしている事もあって、一段と王族って感じがする。髪の毛もしっかりとまとめられていて、いつもは無造作に下ろしている前髪も全部アップにされていた。


 襟付きのフロックコートに首に巻いたクラヴァットには綺麗なレースが施されている。袖のカフには金糸や銀糸などで織り柄が施されていて、袖の部分だけ薄いピンクラベンダー色だった…………これは私の髪色を入れた、という事なのかしら。何だか気恥ずかしいような……
 


 「ごめんなさい、随分待たせてしまって」


 私の姿が見えると目を見開いた後、階段の中段まで駆け寄ってくれて、下から手を取ってくれる。王子様の所作は完璧なのね。


 「待ち時間も楽しんでいたから、気にする事はないよ。とても綺麗だ…………女神が降臨したかと思ったよ」

 「あなたの正装姿もとても素敵ね」

 「嬉しいよ。君をエスコートするのに相応しい装いでなければと思ってね。こんな素敵な女性を私がエスコートしても?」


 そう言って私の手の甲に口づけながらおどける。上目遣いにウィンクする姿にふき出してしまう。
 

 「ふふっ何を今さら……あなたがエスコートしてくれなかったら出席出来ないわ。よろしくお願いいたします」

 「光栄だ。さぁ、行こう」


 我が家を出ると彼が乗ってきたであろう馬車が停まっていた。

 先日イザベルの家に行く時に乗ってきた馬車に似てはいたけど、今日の馬車の方がより一層煌びやかでグレードアップしている。昼間だったら乗るのはご遠慮していたかもしれない……


 「今日はこの馬車に乗ってくれるかい?」


 「…………そうね、今日は乗って行きましょう」


 私の言葉にふき出したヴィルにエスコートされて、馬車に乗り込む。
 
 私たち2人を乗せた王族専用の美しい馬車は、祝賀パーティーの会場に向けてゆっくりと動き始めた…………すっかり日が落ちて王都の街のネオンが煌めき、その奥に見える王宮の美しさに息を飲む。


 この世界に来て、初めての夜会だわ。


 今日はお父様もいるし、イザベル達もいる…………緊張と不安と期待が綯い交ぜになり、馬車の中でも私の気持ちは妙に高ぶっていた。

 
 
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