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第五章
変化していくもの
しおりを挟む「陛下も思い切ったのね。ここまで出来たのは、やっぱり王妃殿下が教会側ではないと分かったからなの?」
「…………それが大きいだろうな。私ですら教会と通じていると思っていた。昨日議会に来ていなかった事も貴族派から見たら、教会と通じている母上を締め出したように見ている。父上の本気を感じさせるには十分だったな」
帰りの馬車の中で隣同士で座りながら、今日伯爵邸で聞いた内容をヴィルと話していた。王妃殿下を有無を言わさず出禁にしてしまうとは――――
「陛下って…………けっこう怖いのね。とても優しそうで、清らかなイメージなのだけど」
正直今の私は陛下に会った事はないし、小説の中の文字でしか分からない。そこには洗練された美しい清らかな男性としか書かれていなかったので、そう言ってみた。
「まぁいつもは本当に優しいんだ。怒りをぶつけてくる事はないし、穏やかで虫も殺せないような雰囲気を出している。でも時々どす黒いオーラを出す時があって……それが私でも怖い時があるな。たいてい母上に関する事なんだが、今回はどうだか…………」
「王妃殿下と陛下って実は仲が良いとかはないの?」
「……………………それはない」
ヴィルは少し考えた後、きっぱりと言い切った。私は何となく陛下が王妃殿下に執着しているように感じるのだけど……本当にどうでもいいなら無関心になればいいのに、いちいち王妃殿下の事で反応するなんて……気のせいかしら。
ここの王家の面々は執着気質なのかもしれない、なんて思ったり。本人には言えないけど。
「とにかくオリビアは、あまり単独行動は取らないでくれ。民の方は落ち着いてくるだろうけど、教会や貴族の動きがどうなるか予測出来ないから。私がずっとそばにいてやれればいいのだが…………」
ブツブツ言いながら色々と心配してくれている様子にお父様と重なる。執着気質だけど基本的に優しいのよね。
「ありがとう。ヴィルも気を付けるのよ、王太子なんだし」
「私は大丈夫だ。鍛えているし、常に周りに人がいる状態だからむしろ単独行動が難しい」
「それがまた怖いんじゃない。貴族派が王妃殿下が動けないと知って、ヴィルを取り込もうとしたらどうするのよ」
「………………それは考えた事はなかったな。私は父上と繋がっているし、そんな貴族がいるとは思えないが……ふむ。もしそんな貴族がいたら、少し面白いかもしれない」
また悪い顔をしている…………何か企んでいそうね。その貴族の誘いにのったフリとかをし始めるのでは、と思ってしまう。この人ならやりかねない……流石にそれは危ないわ。
「ちょ、ちょっと、何を企んでいるのか分からないけど、危ない事はダメだから――――」
そこまで言い終わらない内に突然腕を引かれて、ヴィルの腕の中にすっぽりと収まる形になる。私は何が起こったのか分からず、腕の中で固まってしまった。
「オリビアは優しいな。そして温かい…………君と話していると心が温かくなる」
「……………………わ、私は何も……」
「いいんだ、そのままで。そのままでいてくれ……」
「…………………………」
ヴィルが私の髪に顔を埋めながら腕の力を強める。ぎゅうっと存在を確かめるみたいに抱きしめるので、逃れる事は出来なくなってしまった。
私の心臓の音と同じくらい大きい彼の心臓の音が聞こえてくる。
これはマズイ、今顔を見られたら恥ずか死ぬってやつだわ…………腕の力が弱まって、そっと体を離すと、私の額にキスをしてきた。
おでこに全ての熱が集まったかのように熱い。
ヴィルはずっと顔を上げられずにいる私に対して、すくい上げた私の髪にキスをしたり弄ったり……お構いなしにしている。領地の頃ならそんな事をされると寒気を感じてゾワゾワしていたのに、なぜだか今は感じなくなっていた――――
~・~・~・~
あの後無事に公爵邸に着いてお父様が出迎えてくれたので、ヴィルにも別れを告げた私は、お湯に浸かった後すぐにベッドに横たわった。
体がふわふわする…………今日は色んな事があったわ。
これからどんな事が起こるか想像もつかない。もう小説の中身とは全然違うストーリーになってしまっている。
これから建国祭があって、ヴィルの卒業記念パーティーがあって、その頃に小説通りに聖女が召喚されるのかしら…………それとも………………
その時自分はどうするべきなのか。疲れていて頭が回らない。帰りの馬車のような事が突発的にあると、どうしていいのか分からなくなるわ。いつの間にか寒気も感じなくなっていて、私自身が彼に心を開いているからなのかもしれない。
このモヤモヤを解消するには………………寝るに限るわね。
よし、寝よう。寝たらスッキリよ。
頭が回らない時に考える事って、たいてい役に立たないから。
そう自分に言い聞かせて、ソフィアと一緒に寝る準備をしてベッドに潜り込むと、あっという間に眠りに落ちてしまったのだった。
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